配信の果て

ほわとじゅら

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不穏なスタート

予期せぬ声掛け

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 遠藤玲奈に見せてもらった安毛の新しい立ち絵は、俺の予想斜め上の出来だった。白くてふわふわした綿毛。確かに、柔らかそうな毛並みはあったが真ん丸とした形ではなかったのだ。

「マジでウケる」

 思い出して笑いが込み上げそうだった。一番の予想は人物のキャラクター、二番目が俺の描いた丸い綿毛。しかし、そのいずれでもなく、あるいはもしものキャラクター。

「まさか白い老犬だとは思わないよな」

 遠藤が指摘していた。過去、安毛の配信を振り返ってみると、やはり渋くて低い声が凄く特徴的だと。壮年期そうねんきを迎えた人生経験豊富そうな声にも聞こえて、実年齢30代半ばにしては、渋すぎると。

 要は、老けていると言いたいのだ。彼女は、白い老犬のキャラクターで用意した際、こう言っていた。

『ウチの事務所では、オーディションを経て契約された方に使っていただくキャラクターは何度か打合せを重ねて作り上げているんですけど、今回は特に急なご依頼でお任せで制作という注文でした。男性ですと青年や少年のどちらかになりますが、私にはどうしても青年や少年にも当てはまらないと感じました。でも安毛さんの個人配信でみられる綿毛キャラを引き続き使うのも気が引けます。なので今回は私のイメージで進めました。どうでしょう?』

 俺としては、白い老犬というのが結構、宇多野にイメージぴったりのように思えた。綿毛から急に老犬だとリスナーには面食らうかもしれないが、戦略的パートナーという期間中は特別任務という理由で配信を行うことになっている。

 4月の春、お披露目初配信の際、宇多野が綿毛キャラから白い犬にどう変化して配信をするのか、見ものだろう。

「そうだ報告と連絡を入れなくちゃな!」

 ひとまずメールで一報を入れておくことにする。

【今日サンライブに行って来た。マネージャー会議で代わりに挨拶をしておいたよ。それと立ち絵決まったからメールで資料送った。初配信どうするのか話し合いたいから早くインフルを治してくれよ!】

 速攻でメッセージを送ってみたが、即レスはなかった。やはり彼は家で寝込んでいるのだろう。

 サンライブでの仕事が、あっという間に終わってしまったので家路につくか、寄り道して帰るかふらふらと考えが回った。

 食べて帰るのも良い。ブラブラ買い物して行くのも良い。今日はとにかく気分が乗ってて、肌寒い季節の中で吹く風もどこか心地良さを感じたのだ。

「奮発して良い肉買って家で分厚いステーキを焼くのも有りだな」

 普段、あまり自炊じすいはしない。いつもは安価な値段で食べられる外食だったり、カップ麺が多かったりする。宇多野と違って、腹を満たせられるなら何でも良いと思えるタチなのだ。

「うーん、どうすっかなぁ」

 新宿三丁目で下車して、伊勢丹いせたんのデパ地下に足を運ぼうとした。

「すいません」

 何度か後ろから声が聞こえた。それが自分に掛けられているものだと気づくには時間が掛かって、肩をぽんぽんと軽く叩かれた際、ようやく気付く。

「は、はい?」

 俺のことを呼んでいたとは気づかず、一体誰なのかと後ろを振り返った。

「すみません。あ、やっぱり。二川さん、じゃないですか?」

 見たことある人物だ。俺が以前初期の調査でコンビニ前で待ち伏せて奴を激写した。

「え、えっと……」

 俺を見下ろしたタッパのある背広姿の四角い顔の男が、真っすぐに見つめて満面の笑みを浮かべた。

「突然、申し訳ありません。私、与田勝彦と言います」

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