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サンライブの配信者たち
気のせい
しおりを挟む会議室を出た。
本間と寿々丘と共にエレベーター前に立っていると左右に開いた扉の前で、二人の男が下りてきた。尽かさず本間が「あ、お疲れさまです。社長」と言った。
初めて社長の顔を見る。登録した転職サイトでサンライブの社長からスカウトを受けたが、今日まで一度も会ったことがなかった。
紺色のストライプが入ったスーツで全身を固める代表取締役は、少し厚めな黒フチの眼鏡を掛けていた。ほうれい線がくっきりとあり、白髪の交じる短く刈り上げた頭髪の毛先には若干うねりを帯びていて、爽やかな50代前後に見えたが女子社員たちの噂話では40代とあった気がする。
「やぁ。お疲れ様。本間さんと寿々丘さん。えっと、そちらはもしかして」
「彼女は、先月企画部に入社いただいた御堂さんです」
寿々丘が私を紹介してくれたので、社長にお辞儀した。
「どうも。お疲れさまです。御堂です」
「ああ、あなたが御堂さんでしたか。履歴書で拝見した限りで実際にお会いするのは今日が初めてですね。美駒仁です。会社はもう慣れましたか?」
「はい。前任の神代さんから色々と引継ぎを丁寧に教えていただきました。寿々丘さんも市河さんからも日々色々と教えてくださり、凄くよくしてくれます」
休職中の美浜のことは敢えて触れなかった。今は休んでいるのだから、そっとしておくことにする。
「それは良かった。何か分からないことがあれば私にいつでも聞きにきてもらって構いませんよ」
にこにこと物腰柔らかく代表は話すが、いつでも聞きに来いというのは社長ジョークなのだろうか。
私が上手く反応できなかったからか、寿々丘が間に割って入る。
「社長。それより、そちらの方は?」
「ああ、彼は来月から稼働する新しいマネージャーの方です」
「え。新しいマネージャーって。それなら俺が社内を案内しましたのに」
同じポジションの本間が直ぐ反応した。
「彼はマネージャーに就くといっても少し特殊な契約になるので、今回は僕が案内をしています。ウチの事務所に再来月より稼働する新しい配信者の専属マネージャーを務めてもらいますが、通常の配信と並行して別途ある特殊業務にも入ります。内容はまだ明かせませんが、次週には広報部より正式リリースが出ます。楽しみにしていてくださいね」
「そうなんですか。では、お名前だけ伺ってよろしいですか?」
特殊業務が何なのかは分からない。だが前のめりに本間が名前だけでも知りたいとする興味関心は私も感じた。
美駒のやや後ろにいた男は一歩を踏み出して軽くお辞儀をした。
「どうも。初めまして。二川です。二つの川、幸を見ると書いて、二川幸見といいます。どうぞよろしくお願いします」
「それじゃあ、二川さん。こちらへ、どうぞ。会議室のフロアをご案内します。社員や来客との会議では、よくここを使うんですよ」
代表と新しいマネージャーは私たちを通り過ぎていく。刹那だ。二川と名乗る男と一瞬、ふいに目があった気がした。イケメンというほどではないが、切なげに見つめられる彼の瞳に何かを問いかけられているような錯覚を感じた。
私の気のせいだろうか。
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