転生生活をまったり過ごしたいのに、自作キャラたちが私に世界征服を進めてくる件について

ihana

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5話 最強の一撃

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 セザンヌの街を出てから一日が経った。
 テントセットを使って久しぶりに野宿したが悪くない寝心地だ。
 私は『不眠不休』の称号を持っているので寝なくとも活動を続けられるのだが、なんとなく睡眠をとった方が文化的生活を送っている気がするので夜は寝ることにした。

 朝日に向かって大きく伸びをする。

「よしっ、今日もまったり旅を続けるぞぉ~」

 そう思ってテントの入り口を開いたのだが、開いた先で悪魔種の男が待ち構えていた。

「む!? やっと開いたか!」
「うわぁっ!? え? な、なに? ベースキル?」
「貴様か! 強大な魔法を放って、あまつさえ超強力な結界でできている布の中にコソコソと隠れていたのは!」
「け、結界?? いや、これ街で50000ゼナで売ってる高級テントセットだけど。っていうかあなたベースキルしようとしてるの? マナー違反だよ?」

 ベースキルとは、今回のように拠点の前で待ち構えて出られないようにする行為である。
 いずれにしても、なんでこんな輩が私を待ち構えているのか。

「問答無用! 【ヴォルカニックインフェルノ】!!!」

 いきなり炎系の上級魔法を放ってきた。
 周囲に木々が焼かれ、地面がマグマと化していく。

 ――が、荒れ狂う大火を私はステップと空中機動のみで避けていった。

「んなっ!? 避けただとっ!? 一体なんのスキルだ!」
「ふふーん、これはねぇ、まごうことなくプレイヤースキルだよ。魔王の称号をソロで得るためには、どうしても魔法を肉眼で回避できるようにならなきゃいけなかったの。けっこう練習したんだよ」

 魔王は多彩な魔法を連発してくるかなりの難敵だ。
 むろん私だって魔法消去や絶対防御系のスキルを持っているが、すべてを防ごうとするとリキャストタイムがどうやっても足りない。
 普通ならばパーティを組んでタンク役に引き付けてもらうのがセオリーだが、称号獲得のためにはソロで攻略する必要があった。
 ゆえに、単純な動体視力による回避ができるようになることは必須だったのである。

「な、なにを訳の分からんことをっ! 【ディブリスフロウ】」

 10メートルはあろうかという土石流で私を飲み込もうとしてくる。

「あーダメダメ、焦って大技振ったら。対人初心者だね」
「何を言う! 私は何百年もの時を生きる悪魔皇帝だ! 乗り越えてきた屍なぞ数えることもできんわ!」
「え? そうなの?」
「悠長にお喋りをして余裕だな! そのまま土石流に飲まれて死ぬがいい!」

 土津波をもろに受ける。

「はんっ。偉そうな口をきいておきながら、大したことはないな。まあ、この『最強』の悪魔を相手に一分も耐えたんだ。頑張った方と言えるだろう」
「うーん、レベル2000くらい? 上級者一歩手前って感じかな。でも、対人経験は薄いみたいだね」
「なに!?」

 私が彼の背後にいることに気付き、男は驚愕の表情を浮かべる。

「ど、どうやってあれを逃れた!?」
「いやいや、だから目押しだって。ディブリスフロウは岩の配置が毎回同じなの。だからパターンさえつかめれば簡単に避けれるよ」
「そんなわけないだろう! お前は何を言っている!」
「あとね、『最強』って言葉は容易に発さない方がいいよ」

 悪魔を少しだけ冷たい瞳で睨みつける。

「世界を知らないようだから、『最強』を教えておいてあげる」

 神環魔杖【ケリュケイオン】を空間より出現させ構える。
 展開するは二十の魔法陣。
 通常魔法陣は一人につき一つまで。
 だが私には装備と称号のバフがある。

 膨大な魔力の収束が起こる中で、男は腰を抜かしてしまった。

「なっ……なんだっ、これは……っ!? これが、魔法?? 馬鹿なっ! そんなのありえないっ! こんなのがっ、魔法、だなんて……」
「たぶん、長いエクスペディションオンラインの歴史を見ても、これを使えるのは私だけだよ。んまっ、あなたはまだまだ伸びしろがあると思うからさっ、これからも頑張ってね。そしたら――」

 楽しみだなぁ。
 この魔法は本当に強力だから。

 晴天であったはずの空がいつの間にか暗ぼったくなり、雲に覆われているわけでもなしに太陽が黒ずんでいく。

「さあ! これが最強よっ! 穿つは元素にして、かいするは素なるもの。星を割れ! 天地開闢せよ! 天撃滅却魔法【プラネット・ブレイカー】!」

 輝く一滴の光が上空からゆっくりと舞い降りた。
 暗くなった周囲を太陽の代わりとばかりに照らし、それがゆっくりと遠くにある山へと続いてゆく。

 そして、すべてが光の渦に消えていった。
 立ってはいられないほどの激しい衝撃波。
 鼓膜を割くほどの爆音。
 目を開いてはいられないほどの光。

 それらの中で、久々に放ったこの魔法が――、

 私の知る何万倍もの威力となっていることに仰天してしまうのだった。
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