転生生活をまったり過ごしたいのに、自作キャラたちが私に世界征服を進めてくる件について

ihana

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4話 野良PKの返り討ち

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 うーん、どういうことだろう。
 アイテムボックスも知らないのかな……?
 まあでもNPCならそうかもしれないよね。

 あっ、そう言えば、私ってゲームのときと変わってないんだよね?
 急いでステータス画面を確認していく。

 ---------------------------------------------------
 名前:となりの豚トロ
 種族:人族
 職業:魔王
 Lv:2892
 HP:134852 MP:489899
 力:18252 体力:28493
 敏捷:20235 器用:20444
 魔力:89131
 ---------------------------------------------------

 うん、変わってないね。
 職業が魔王となっているのは全称号獲得のためだ。
 全プレイヤー中一人しか獲得することのできないユニーク称号の内、魔王は最初に獲得する必要があった。
 なぜなら、魔族の王となってから星降りの聖域を支配して、とあるバグを使うと他のユニーク称号も獲得することができるようになるからである。
 まあそもそも、人族でありながら魔王になれているのもバグなんだが。

 魔法やスキル、装備も私が使っていたもので特段変化なし。
 アイテムボックスもさっきチラっと覗いた感じでは同じだった。

 さて、まずは何からしよう。
 元の世界への帰り方を探す?
 ないない、帰りたくなんてないし。

 たぶんステータス的には無双できるんだろうけど、狩りは正直やり飽きているし、欲しいものがあるわけでもない。
 ならば、五感を感じられるようになったこの世界をまったり旅行するのも悪くないであろう。
 これまではVR技術の限界から嗅覚や味覚はなかったし、触感もかなり雑なものであった。

 それか、初心者さんの成長お手伝いとかをやってもいいかもなぁ。
 ……まあ、人付き合いが苦手なのに変わりはないけど。

 よし、街の様子も普通っぽいし、特段見るところもないから、そうと決まれば早速出掛けよう!

 そう思ったその時、街中に警報音が鳴り響いた。
 住民たちが慌てふためきながら逃げ始める。

 これがゲームを始めたばかりの初心者であれば何事かと動揺してしまうところであろうが……、私にとってこれは聞き慣れた音だ。
 エクスペディションオンラインは種族が三つに分かれており、種族内あるいは種族間で戦争を行うことができた。
 この警報はどこか別の種族が攻めてきたサインであろう。

 さっき魔族領と国境を接していると衛兵の人が言っていたから、たぶん魔族かな。
 でも、今のところ私は都市防衛戦って気分でもないし、気にせず旅へ出ることにしよっかな。

「おい、ここは通行止めだぞ!」
「え? そうなんですか?」
「当たり前だろ! 魔族が攻めてきているんだぞ! 門は閉じたままだ!」

 あー……そっか。
 ゲームだと関係なく外に出れたけど、こういう弊害があるのか。

 なんて思っていると、城門前にいる兵士たちは震えあがっていた。

「もうおしまいだ……。斥候の報告によると、重堅テスタリアと俊殺ガルトンがいるそうだ」
「魔族軍四天王が二人も!? そんなっ……」
「一人相手ですらSランク冒険者がやっと対等に戦えるくらいなのに、それが二人なんて」

 うーん……。
 どうやら人族の方がかなり不利らしい。
 が、私にとってはどうでもいいし興味がないのでそのまま去っていくことにする。

 門が通れないので少し離れたところに移動した。

「【フライ】」

 飛行魔法で塀をヒョイと超えて歩き出す。
 なぜそのまま便利な飛行魔法で旅をしないかというと、私がまったりと旅をしたいからだ。
 綺麗な景色に心を躍らせながら道を歩いていくと、予想通り魔族の軍団がセザンヌの街を目指していた。

 随分多いんだなぁ、なんて思っているのも束の間、軍団長と思われる者が私のところへとやってくる。

「貴様何者だ!」
「え゛!? あ、ええっと、え?」

 何!?
 なんでいきなり話しかけてくるの!?

「怪しい奴め! 貴様! さてはセザンヌの斥候だな!」
「え? あ、いや、違います」
「人族である以上見逃さん! 殺せ!」
「あ、わっ! ちょ、ちょっと待って! 攻城戦とか私全然興味ないから! 私参戦しないからっ」
「何を訳の分からんことを!」

 五人もいれば十分だと思ったのであろう。
 槍兵が私を取り囲み、長槍を突き出してくる。

 が――

 青白い透明のシールドが出現し、槍は私には届かなかった。

 よしよし、一応この世界でもゲームのように能力が発動するかを確認しておきたかったけど、問題なさそうだね

「なっ、なんだ、これは!?」
「【アダマンシールド】ね。低ダメージを100%カットするって優れもの。おまけにパッシブ展開なの! 四神玄武を時間制限付きで単独撃破すると『玄武堅固』って称号が手に入るんだけど、それを持っていると発動できるよ。いやぁ、あれは大変だったなぁ」

 半分自慢気に語るも、魔族の軍団たちはポカンとしていた。

 あー……。
 そ、そうだよね。
 意味わかんないよね。
 今まで称号のことばっかり考えてたからつい語りたくなっちゃうけど、普通の人からしたら別にどうでもいいよね……。

「貴様、さては高位の魔術師だな!? 隊列、構え!」
「え?」
「はなてぇ!」

 問答無用で魔法弾が大量に飛んできた。
 土煙にまみれて視界がゼロとなる。

「ふっ、全く人族め。こんな変わり種を単騎で突撃させてくるとはな」
「隊長、もしかすると人族はもう投げやりになっているのかもしれませんよ」
「そうかもな。そうであればこの戦は容易いであろう、よし、再び進撃を――」

 そこで土煙が晴れて、青白いシールドに守られた私の姿が顕わになる。

「なんだとっ!?」
「あのさ、一回だけ警告しますね。野良PKをするんだったらこっちも容赦しません。レベル差があるんで気にしないつもりでしたが、これはマナーの話です。悪質な場合はデスペナを覚悟してもらいます」
「……??? なっ、何を訳の分からんことをっ! 全員攻撃!!」

 あーあ、人の話聞いてないし。
 普通にダメだと思うんだけどな。
 やっぱり私がいた頃とは変わっちゃってるのかなぁ。
 まっ、さすがにデスペナは勘弁してあげるか。

 槍だの矢だの魔法だのが飛んできているが、【アダマンシールド】を前にすべてがノーダメージとなっている。

「えっと、じゃあ、すみません。あんまり初心者狩りは好きじゃないんですけど――【ファイヤーシャワー】」

 相手の推定レベルも鑑みて、自分ができる最も威力の弱い魔法を放ったのだが――、

「ぎゃあああああああああああ!!!!!」

 火の粉を浴びた兵士たちは大やけどを負い、森では大火災が発生してしまった。
 兵士たちはそこから逃げ惑い、軍団は散り散りに四散を始める。

「これに懲りたら野良PKはしないで下さいね」

 そう述べて、私はまったり旅を続けることにするのだった。
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