転生生活をまったり過ごしたいのに、自作キャラたちが私に世界征服を進めてくる件について

ihana

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29話 本気の戦い

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 背中から生えた四本の腕と共に、彼女が突撃してくる。

 私はこの新たなスキルに二つの意味で驚いてしまった。
 一つには、この腕たちがそれまでのフロートソードとは比べ物にならないほどの技量を兼ね備えていたから。
 もう一つは、このスキルが使えるということは、彼女の正体が何者であるかがわかってしまったからだ。

 スキル【阿修羅】は『修羅の守護神』というユニーク称号を取得しなければ使うことができない。
 この唯一無二の称号は当然私が保有しているのだが、私はこのスキルをPMCのスロットに付与していた。
 つまりは、目の前にいる彼女こそが、私がつくり上げた対人最強のPMC、阿修羅マナちゃんというわけだ。

 右足を大きく斬りつけられてしまうも、距離を取ってこの現状に笑いを堪えることができなくなる。

「……。何を笑っておられるのですか?」
「くふっ、あはっ、あははは! すごい! やっぱりすんごく強い! 私の思った通りだよ!!」
「意味がわからないのですが」

 エクスペディションオンラインでは、自作のPMCとだけは模擬戦を行うことができない仕様となっていた。
 マナちゃんの戦闘スペックは私ではない誰かと戦わせることでしか計れなかったのである。

 それが今はこうして自身の体で確かめることができるっ!

 あまりのワクワクに口元が勝手に笑ってしまう。

「ふっ。わかった。少しだけ本気で戦ってあげる。頑張って死なないでね」
「それほどの傷を負ってなおも勝った気ですか? わたくしは未だに余裕がございましてよ?」

 聖職者スキルによる回復で、彼女の負った傷はほぼ全快状態だ。

「もう様子見もしない。油断も加減も何もかも……っ」

 空間アイテムボックスより、左手に神環魔杖【ケリュケイオン】、右手に光陰絶剣【レーヴァティン】を取り出す。

 これまでのおちゃらけた雰囲気とは裏腹、私は殺意の塊のようなものをマナちゃんにぶつけた。
 それだけで、マナちゃんは少しだけたじろいでしまう。

 本気のPVPを行うとき、私は命を懸けてきた。
 ゲームだから負けても――死んでもいいなんて甘えた考えは一切持たない。
 今から行うのは本気の殺し合いだ。

 そう。
 これは命を懸けた戦い。
 持てる全ての力をもって相手を――

「殺す! 【ミィーティオ】」

 突撃を仕掛けながら、隕石魔法を放って範囲攻撃を放っていく。
 自分とてその隕石の範囲内に突っ込んで行くことになるのだが、そんなのは百も承知だ。
 私は動体視力で隕石を避けることができる。
 対する相手は隕石の相手だけならまだしも、突っ込んできた私の対処までしなければならない。

「っ!」

 だがマナちゃんとてただではやられない。
 私との打ち合いと隕石の対処を卒なくこなしながら、さらに追撃まで加えてくる。

「【デモリッシュ・オール】!」

 剣技の合間に分解魔法を放って相手を消滅しにかかる。
 それを剣によりうまいこと捌かれながら、さらに私へと肉薄。
 六本の猛撃が荒れ狂う。
 多段の魔法攻撃と杖による防御、剣による攻撃に、優勢なのは私だ。
 魔法は多彩な自由度を持つのに対し、阿修羅の腕に持つ剣は何でも扱えるというわけではない。

 多属性と高出力を武器に相手をぐいぐい押していき、阿修羅の腕をついには一本斬り落とした。
 距離が空けたところで魔法の追撃。

「【グランドスネイク】!」

 七体の土の龍を創り出し、四方八方から彼女へ。
 私もそれに合わせて突貫を繰り出す。
 猛攻に耐え切れず、マナちゃんはさらに負傷し、HPを失っていく。

「くぅっっ!! 私は負けない! 私はっ! 私を生み出した主人のために絶対に負けられないっ!! スキル【捨身壊破】!!」

 マナちゃんの身体から血が噴き出す。
 体を自身のHPおよび防御力と引き換えにその他のステータスを大幅に向上させる彼女の隠し玉だ。
 さらに――

「これで終わりだ!!! スキル【ラクタヴィージャ】!!」

 来た!
 マナちゃんの本気!

 ラクタヴィージャとはインド神話に出てくるアスラ(阿修羅)族の指揮官だ。
 血の一滴一滴から自身の分身体を創り出し戦ったとされている。

 エクスペディションオンラインではその能力がそのまま反映されており、さきほどの捨身壊破により噴き出た数百の血しぶきのすべてが彼女の分身体へと変化していった。
 それらが束になって私へと襲い掛かって来る。

 マナちゃんは一人ですら上級プレイヤーを圧倒できるPMCであるというのに、それが何百と揃えば敗北は必然と言えよう。

 ――私でなければね。

 襲い来る分身体マナちゃんが弾き飛ばされて、空気が一瞬で熱風と化す。

 このスキルを使ってくるのを待っていた。
 ラクタヴィージャの唯一の弱点は自動蘇生系のスキルと併用できない点だ。
 つまり、今HPを全損させれば私の勝ち。

「さっ、終わりにしよっか。私もここまで本気になれたのは楽しかったよ。あとで復活してあげるからね、マナちゃん」
「へ……!?」
「地を創りて天を壊す! 世の理にて壊滅せよ! 天地壊滅魔法【ホーリー・アポカリプス】!!!」

 光が見えた。
 それはただただ白くて、他には何もない。
 光に包まれ、音も、匂いも、感触もなにもない。
 すべては破壊により壊滅し、私を除くすべてのものが無に帰していくのであった。
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