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42話 果たしたい主命
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レレムの街、第三門。
最後の石壁の上にて、アラクネの身体を焼かれてなおもクモの大福はこの街を守るために戦っていた。
第一門と第二門はとっくに突破されており、ここが最後となる。
ここを抜かれれば、もはや住民に逃げる場所はなく魔物たちに食われるか、溶岩に焼かれて死ぬかのどちらかだ。
いずれにしても自身の任務は失敗となってしまう。
「わらわは、豚トロ様の配下。壁に耳あり障子にメアリーの防衛責任者じゃ! こんなところで、絶対に負けはせぬ!!!」
死力を尽くして溢れ出てくる魔物どもに鎌を振るっていく。
レベル差があるとはいえ、弱点属性の魔物が四方八方から無数に湧き出てくるのだ。
一発一発のダメージが大したことはなくとも、積み重なればそれは大傷となる。
おまけに――
「もういい! もういいんだ、ダイフクの姉さん! もうやめてくれ!」
ライルの叫び声が鳴り響く。
彼女は住民たちを守りながら戦っている。
これが彼女一人であれば、難なく戦えたであろうに、レレムの住民たちに危害を加えないようにしながらとなると、難度は一気に跳ね上がる。
一方で、主人に住民を守るよう命じられた以上、その任務を放棄するわけにはいかないのだ。
「もう十分だ!!」
「勘違い、するでない。わらわが、好きで、やっておること、じゃ。貴様らは、関係、あらん」
血反吐を吐きながら、なおも強がってみせる。
「姉さん!」
幾度も幾度も魔物たちの牙を突き立てられながら、なおもそれらを斬り払って立ち塞がる。
そこへさらに、一際大波のマグマが押し寄せてくるのが視界に端に映った。
あれはもう、彼女の持つどのスキルを使ったとしても防ぐことができない。
マグマに第三の街壁を越えられたら打つ手がないであろう。
つまりこの街の防衛は失敗だ。
主命を果たせないことへの無念さと、己の不甲斐なさにクモの大福は唇を噛む。
阿修羅マナならば、知略でこの局面を乗り切れたであろう。
ハムスター亜種ならば、竜の力でマグマなんて押し返せたであろう。
リラぁッくまでもきっと。
――わらわでなければ……。
なんて力不足な配下であろうか。
こんなザマでとなりの豚トロ様の配下を名乗っていることが恥ずかしくて仕方がない。
そのとき、自身の身体が引っ張られた。
「姉さん! 逃げてくれ! 俺らはもういい! 十分守ってもらえた! 姉さんの身体能力なら、この場から一人で逃げられるはずだ!」
「ああ。じゃが、生き恥を晒してまで逃げるつもりはあらん」
「恥なんかじゃない! 今の今まで見ず知らずの俺らの命をかけて守ってくれたじゃないか! 十分過ぎる!」
「はんっ。どこが十分じゃ。大した働きもできず、この体たらくじゃ。アラクネの名折れじゃな」
溶岩が迫りくる。
「もう終わりじゃ。皆このマグマに焼かれて死のうぞ。わらわもこのまま生きながらえたところでトロポーク様に合わせる顔があらんからして」
「姉さん……」
500年も待ち続け、ようやくあの御方と出会えたというのに、なんと無様な事か。
涙が出そうになるのを必死に堪えながら、それでもと悪あがきとばかりに鎌を振り続ける。
魔物なんぞにやられては防衛責任者の名が廃る。
「となりの豚トロ様。どうかわらわのことも、その記憶の片隅に置いてたも……」
荒れ狂うマグマはもう目の前。
その光景をぼんやりと眺める。
せめて最期に、もう一度あの御方のお姿を目にしたかったな。
そう思った瞬間、クモの大福は不思議な光景を目にした。
なんと、願っていた主人が自分のすぐそばに降り立ち、頬を撫でてくれているではないか。
なるほどここはもう死後の世界なのだろうか。
自分の想いが幻想となって見えているのかもしれない。
あるいは、死に際に見る走馬灯というやつであろうか。
なんて思っていたのだが、その幻想が話しかけてきた。
「おーい、大福ちゃーん、大丈夫かー? なんか走馬灯でも見てるー?」
「豚トロ、様……。申し訳あらん。わらわは主命を果たせず、おまけに死してなお、あなた様に気を遣わせてしまうなど……」
「え゛!? 死んでるの!? ……いや、普通にHP残ってるじゃん。死んでないからっ! 私が守ってるからっ!」
その言葉で、クモの大福はようやく目を見開く。
目前に迫ってたマグマはいつの間にやら消え失せており、自分の命が潰えていないことを認識する。
「わ、わらわは……」
「がんばったね、大福ちゃん。えらいえらい」
そう述べて豚トロから頭を撫でられる。
それがこの上なく心地よいことであり、その一方で、この街を守るという主命を果たせなかったことへの恥が背後霊のように付きまとう。
「豚トロ様……。わらわは――」
「いいの。もう休んで。あとは私がやるから」
「じゃ、じゃが! わらわはまだ戦える! 豚トロ様の配下であるわらわは――!」
異論を述べようとした口を、豚トロの人差し指が塞いでくる。
「こんな時くらい、創造主の力を頼りなさい」
「ぁ……」
その姿や、何と神々しく、凛々しく、華々しい姿だことか。
クモの大福の目からは自然と涙が流れた。
豚トロ様が神環魔杖ケリュケイオンをレレムの山へと向かってかかげる。
「さあ、私の可愛い大福ちゃんをここまでしてくれたんだから、覚悟はできてるわよね」
周囲に無数の魔法陣が浮かび上がり、彼女に魔力という魔力が収束していく。
猛り狂う溶岩が相手であろうと自身の主が負ける絵は想像できなかった。
神に等しきこの御方であれば、自然の猛威に対しても余裕の勝利を掴んでくるに違いない。
そんな風に思えたからだ。
光が収束し、主の姿が輝いていく。
溶岩に住まう大量の魔物たちとともに再びマグマの波が押し寄せて来るも、豚トロ様がひるむことはない。
「こんなイベント初めて。普通のプレイヤーならここでゲームオーバーね。……そうっ! 私じゃなければねっ!」
神の力が今、解放される。
「物質の絶対にして揺らがぬ零度となれ! 冷凍掃滅魔法【フリーズ・ディ・ゼロ】」
――。
それまで戦闘と荒れ狂うマグマと吹き荒れる突風により物々しかった周囲が突然の静寂に包まれた。
一切の動くものがなくなり。
迫っていたマグマも、魔物も、すべてのものたちが氷の中へと閉じ込められて。
なおも散り散りに掃滅され、無に帰していくのだった。
最後の石壁の上にて、アラクネの身体を焼かれてなおもクモの大福はこの街を守るために戦っていた。
第一門と第二門はとっくに突破されており、ここが最後となる。
ここを抜かれれば、もはや住民に逃げる場所はなく魔物たちに食われるか、溶岩に焼かれて死ぬかのどちらかだ。
いずれにしても自身の任務は失敗となってしまう。
「わらわは、豚トロ様の配下。壁に耳あり障子にメアリーの防衛責任者じゃ! こんなところで、絶対に負けはせぬ!!!」
死力を尽くして溢れ出てくる魔物どもに鎌を振るっていく。
レベル差があるとはいえ、弱点属性の魔物が四方八方から無数に湧き出てくるのだ。
一発一発のダメージが大したことはなくとも、積み重なればそれは大傷となる。
おまけに――
「もういい! もういいんだ、ダイフクの姉さん! もうやめてくれ!」
ライルの叫び声が鳴り響く。
彼女は住民たちを守りながら戦っている。
これが彼女一人であれば、難なく戦えたであろうに、レレムの住民たちに危害を加えないようにしながらとなると、難度は一気に跳ね上がる。
一方で、主人に住民を守るよう命じられた以上、その任務を放棄するわけにはいかないのだ。
「もう十分だ!!」
「勘違い、するでない。わらわが、好きで、やっておること、じゃ。貴様らは、関係、あらん」
血反吐を吐きながら、なおも強がってみせる。
「姉さん!」
幾度も幾度も魔物たちの牙を突き立てられながら、なおもそれらを斬り払って立ち塞がる。
そこへさらに、一際大波のマグマが押し寄せてくるのが視界に端に映った。
あれはもう、彼女の持つどのスキルを使ったとしても防ぐことができない。
マグマに第三の街壁を越えられたら打つ手がないであろう。
つまりこの街の防衛は失敗だ。
主命を果たせないことへの無念さと、己の不甲斐なさにクモの大福は唇を噛む。
阿修羅マナならば、知略でこの局面を乗り切れたであろう。
ハムスター亜種ならば、竜の力でマグマなんて押し返せたであろう。
リラぁッくまでもきっと。
――わらわでなければ……。
なんて力不足な配下であろうか。
こんなザマでとなりの豚トロ様の配下を名乗っていることが恥ずかしくて仕方がない。
そのとき、自身の身体が引っ張られた。
「姉さん! 逃げてくれ! 俺らはもういい! 十分守ってもらえた! 姉さんの身体能力なら、この場から一人で逃げられるはずだ!」
「ああ。じゃが、生き恥を晒してまで逃げるつもりはあらん」
「恥なんかじゃない! 今の今まで見ず知らずの俺らの命をかけて守ってくれたじゃないか! 十分過ぎる!」
「はんっ。どこが十分じゃ。大した働きもできず、この体たらくじゃ。アラクネの名折れじゃな」
溶岩が迫りくる。
「もう終わりじゃ。皆このマグマに焼かれて死のうぞ。わらわもこのまま生きながらえたところでトロポーク様に合わせる顔があらんからして」
「姉さん……」
500年も待ち続け、ようやくあの御方と出会えたというのに、なんと無様な事か。
涙が出そうになるのを必死に堪えながら、それでもと悪あがきとばかりに鎌を振り続ける。
魔物なんぞにやられては防衛責任者の名が廃る。
「となりの豚トロ様。どうかわらわのことも、その記憶の片隅に置いてたも……」
荒れ狂うマグマはもう目の前。
その光景をぼんやりと眺める。
せめて最期に、もう一度あの御方のお姿を目にしたかったな。
そう思った瞬間、クモの大福は不思議な光景を目にした。
なんと、願っていた主人が自分のすぐそばに降り立ち、頬を撫でてくれているではないか。
なるほどここはもう死後の世界なのだろうか。
自分の想いが幻想となって見えているのかもしれない。
あるいは、死に際に見る走馬灯というやつであろうか。
なんて思っていたのだが、その幻想が話しかけてきた。
「おーい、大福ちゃーん、大丈夫かー? なんか走馬灯でも見てるー?」
「豚トロ、様……。申し訳あらん。わらわは主命を果たせず、おまけに死してなお、あなた様に気を遣わせてしまうなど……」
「え゛!? 死んでるの!? ……いや、普通にHP残ってるじゃん。死んでないからっ! 私が守ってるからっ!」
その言葉で、クモの大福はようやく目を見開く。
目前に迫ってたマグマはいつの間にやら消え失せており、自分の命が潰えていないことを認識する。
「わ、わらわは……」
「がんばったね、大福ちゃん。えらいえらい」
そう述べて豚トロから頭を撫でられる。
それがこの上なく心地よいことであり、その一方で、この街を守るという主命を果たせなかったことへの恥が背後霊のように付きまとう。
「豚トロ様……。わらわは――」
「いいの。もう休んで。あとは私がやるから」
「じゃ、じゃが! わらわはまだ戦える! 豚トロ様の配下であるわらわは――!」
異論を述べようとした口を、豚トロの人差し指が塞いでくる。
「こんな時くらい、創造主の力を頼りなさい」
「ぁ……」
その姿や、何と神々しく、凛々しく、華々しい姿だことか。
クモの大福の目からは自然と涙が流れた。
豚トロ様が神環魔杖ケリュケイオンをレレムの山へと向かってかかげる。
「さあ、私の可愛い大福ちゃんをここまでしてくれたんだから、覚悟はできてるわよね」
周囲に無数の魔法陣が浮かび上がり、彼女に魔力という魔力が収束していく。
猛り狂う溶岩が相手であろうと自身の主が負ける絵は想像できなかった。
神に等しきこの御方であれば、自然の猛威に対しても余裕の勝利を掴んでくるに違いない。
そんな風に思えたからだ。
光が収束し、主の姿が輝いていく。
溶岩に住まう大量の魔物たちとともに再びマグマの波が押し寄せて来るも、豚トロ様がひるむことはない。
「こんなイベント初めて。普通のプレイヤーならここでゲームオーバーね。……そうっ! 私じゃなければねっ!」
神の力が今、解放される。
「物質の絶対にして揺らがぬ零度となれ! 冷凍掃滅魔法【フリーズ・ディ・ゼロ】」
――。
それまで戦闘と荒れ狂うマグマと吹き荒れる突風により物々しかった周囲が突然の静寂に包まれた。
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