転生生活をまったり過ごしたいのに、自作キャラたちが私に世界征服を進めてくる件について

ihana

文字の大きさ
42 / 48

42話 果たしたい主命

しおりを挟む
 レレムの街、第三門。
 最後の石壁の上にて、アラクネの身体を焼かれてなおもクモの大福はこの街を守るために戦っていた。

 第一門と第二門はとっくに突破されており、ここが最後となる。
 ここを抜かれれば、もはや住民に逃げる場所はなく魔物たちに食われるか、溶岩に焼かれて死ぬかのどちらかだ。
 いずれにしても自身の任務は失敗となってしまう。

「わらわは、豚トロ様の配下。壁に耳あり障子にメアリーの防衛責任者じゃ! こんなところで、絶対に負けはせぬ!!!」

 死力を尽くして溢れ出てくる魔物どもに鎌を振るっていく。
 レベル差があるとはいえ、弱点属性の魔物が四方八方から無数に湧き出てくるのだ。
 一発一発のダメージが大したことはなくとも、積み重なればそれは大傷となる。

 おまけに――

「もういい! もういいんだ、ダイフクの姉さん! もうやめてくれ!」

 ライルの叫び声が鳴り響く。

 彼女は住民たちを守りながら戦っている。
 これが彼女一人であれば、難なく戦えたであろうに、レレムの住民たちに危害を加えないようにしながらとなると、難度は一気に跳ね上がる。
 一方で、主人に住民を守るよう命じられた以上、その任務を放棄するわけにはいかないのだ。

「もう十分だ!!」
「勘違い、するでない。わらわが、好きで、やっておること、じゃ。貴様らは、関係、あらん」

 血反吐を吐きながら、なおも強がってみせる。

「姉さん!」

 幾度も幾度も魔物たちの牙を突き立てられながら、なおもそれらを斬り払って立ち塞がる。

 そこへさらに、一際大波のマグマが押し寄せてくるのが視界に端に映った。
 あれはもう、彼女の持つどのスキルを使ったとしても防ぐことができない。
 マグマに第三の街壁を越えられたら打つ手がないであろう。
 つまりこの街の防衛は失敗だ。

 主命を果たせないことへの無念さと、己の不甲斐なさにクモの大福は唇を噛む。

 阿修羅マナならば、知略でこの局面を乗り切れたであろう。
 ハムスター亜種ならば、竜の力でマグマなんて押し返せたであろう。
 リラぁッくまでもきっと。

 ――わらわでなければ……。

 なんて力不足な配下であろうか。
 こんなザマでとなりの豚トロ様の配下を名乗っていることが恥ずかしくて仕方がない。

 そのとき、自身の身体が引っ張られた。

「姉さん! 逃げてくれ! 俺らはもういい! 十分守ってもらえた! 姉さんの身体能力なら、この場から一人で逃げられるはずだ!」
「ああ。じゃが、生き恥を晒してまで逃げるつもりはあらん」
「恥なんかじゃない! 今の今まで見ず知らずの俺らの命をかけて守ってくれたじゃないか! 十分過ぎる!」
「はんっ。どこが十分じゃ。大した働きもできず、この体たらくじゃ。アラクネの名折れじゃな」

 溶岩が迫りくる。

「もう終わりじゃ。皆このマグマに焼かれて死のうぞ。わらわもこのまま生きながらえたところでトロポーク様に合わせる顔があらんからして」
「姉さん……」

 500年も待ち続け、ようやくあの御方と出会えたというのに、なんと無様な事か。
 涙が出そうになるのを必死に堪えながら、それでもと悪あがきとばかりに鎌を振り続ける。
 魔物なんぞにやられては防衛責任者の名が廃る。

「となりの豚トロ様。どうかわらわのことも、その記憶の片隅に置いてたも……」

 荒れ狂うマグマはもう目の前。
 その光景をぼんやりと眺める。

 せめて最期に、もう一度あの御方のお姿を目にしたかったな。



 そう思った瞬間、クモの大福は不思議な光景を目にした。
 なんと、願っていた主人が自分のすぐそばに降り立ち、頬を撫でてくれているではないか。

 なるほどここはもう死後の世界なのだろうか。
 自分の想いが幻想となって見えているのかもしれない。
 あるいは、死に際に見る走馬灯というやつであろうか。

 なんて思っていたのだが、その幻想が話しかけてきた。

「おーい、大福ちゃーん、大丈夫かー? なんか走馬灯でも見てるー?」
「豚トロ、様……。申し訳あらん。わらわは主命を果たせず、おまけに死してなお、あなた様に気を遣わせてしまうなど……」
「え゛!? 死んでるの!? ……いや、普通にHP残ってるじゃん。死んでないからっ! 私が守ってるからっ!」

 その言葉で、クモの大福はようやく目を見開く。
 目前に迫ってたマグマはいつの間にやら消え失せており、自分の命が潰えていないことを認識する。

「わ、わらわは……」
「がんばったね、大福ちゃん。えらいえらい」

 そう述べて豚トロから頭を撫でられる。
 それがこの上なく心地よいことであり、その一方で、この街を守るという主命を果たせなかったことへの恥が背後霊のように付きまとう。

「豚トロ様……。わらわは――」
「いいの。もう休んで。あとは私がやるから」
「じゃ、じゃが! わらわはまだ戦える! 豚トロ様の配下であるわらわは――!」

 異論を述べようとした口を、豚トロの人差し指が塞いでくる。

「こんな時くらい、創造主の力を頼りなさい」
「ぁ……」

 その姿や、何と神々しく、凛々しく、華々しい姿だことか。
 クモの大福の目からは自然と涙が流れた。
 豚トロ様が神環魔杖ケリュケイオンをレレムの山へと向かってかかげる。

「さあ、私の可愛い大福ちゃんをここまでしてくれたんだから、覚悟はできてるわよね」

 周囲に無数の魔法陣が浮かび上がり、彼女に魔力という魔力が収束していく。

 猛り狂う溶岩が相手であろうと自身の主が負ける絵は想像できなかった。
 神に等しきこの御方であれば、自然の猛威に対しても余裕の勝利を掴んでくるに違いない。
 そんな風に思えたからだ。

 光が収束し、主の姿が輝いていく。
 溶岩に住まう大量の魔物たちとともに再びマグマの波が押し寄せて来るも、豚トロ様がひるむことはない。

「こんなイベント初めて。普通のプレイヤーならここでゲームオーバーね。……そうっ! 私じゃなければねっ!」

 神の力が今、解放される。

「物質の絶対にして揺らがぬ零度となれ! 冷凍掃滅魔法【フリーズ・ディ・ゼロ】」

 ――。

 それまで戦闘と荒れ狂うマグマと吹き荒れる突風により物々しかった周囲が突然の静寂に包まれた。

 一切の動くものがなくなり。
 迫っていたマグマも、魔物も、すべてのものたちが氷の中へと閉じ込められて。
 なおも散り散りに掃滅され、無に帰していくのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

処理中です...