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47話 不遇の姫君
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「ふんっ! 下等種族風情が」
「こらこら。勝った相手に悪口は言わないの。カッコ悪いわよ」
「はい! 豚トロ様!」
戦意喪失している亜人たちを無視して、襲われていた犬人女性の元へと歩み寄る。
「えっと、大丈夫?」
「あ……、は、はい。助けていただき、ありがとうございます」
「私はトロポークっていうのこっちはハムちゃんね。無事? 怪我はない?」
「……はい。おかげさまでかすり傷一つありません」
犬人女性が観察するようにこちらを眺めている。
なんだろう。
作り物のような笑顔に見える……。
けど、気のせいか?
「そっか。よかった。えっと、名前はなんて言うの?」
「…………メルリナと申します」
「災難だったわね。でもあなたが無事でよかったわ。この後はどうする?」
「そうですね。どうしましょうか」
ゲームなら助けた段階でイベントがポンポン進行するのだが、なんとも会話のテンポが悪い。
んまあリアルならそんなもんか。
「もしよければ、あなたの元居た場所まで護衛するけど?」
「そうですね。そうしてもらえると助かります。馬車もご覧の通り破損してしまいましたし、護衛の者も皆死んでしまいました」
一瞬蘇らせようか迷ったが、この世界では死者は蘇らないのが常識だ。
ならば変に目立つ行為は避けた方がよい。
「オッケー。そしたら行こっか。どこに送ればいい?」
「ベレリス国の首都ルーオまでお願いします」
「わかったわ」
私の馬車へ乗り込もうとすると、ハムちゃんが耳打ちしてくる。
「この者嘘をついてますぜぃ?」
「わかってる。でも気にしなくていいわ」
誰かに襲われるような者は何かしらの特殊な事情を抱えている可能性が高い。
イベントのセリフはスキップしがちだったからあまり覚えてはいないが、ゲーム中でもこういうことはよくあったはずだ。
このメルリナという少女が最終的に仲間になるか敵になるかはわからないが、どちらにしてもイベントが進行しないことには話が進まないのである。
「豚トロ様がおっしゃっていた砂クエ? には関係してるんでしょうか?」
「たぶん関係ないと思うわ。けどせっかくのイベントだしやっときましょ」
改めて犬人少女の方へと向き直る。
「しかし災難だったわね。盗賊? それにしては装備がいいからどこかの兵士かしら? 相手に心当たりはある?」
「恐らくはサオレイマ国の暗殺者かと思われます」
「暗殺者……? この辺りの状況に詳しくないんだけど、良かったら教えてもらえる?」
「構いませんよ。亜人領は現在三国に別れてほぼ戦争状態にあります」
「ほぼ?」
「三国とも明確な宣戦布告を行ったわけではありません。そのため表立って軍を送り合う事態にはなっていないのです。ですが、裏で暗殺、諜報活動が活発に行われております」
「それであなたも暗殺されかけたってこと?」
「ええ。そうかと思われます」
つまり、彼女はそれ相応の高貴な身分にあるというわけか。
助けておいて損はないであろう。
ただ……この子がもし王族だった場合、この手のイベントは戦争イベと紐づいている可能性が高い。
戦争イベは報酬が良い分クリアまでが長いから、正直今は乗り気がしないなぁ。
それに、今回の旅の目的は砂クエによる金策だ。
最短でそこを目指すなら、戦争クエなんてやっている暇はない。
「ところで、この馬車は誰が運転しているのかしら?」
「ん? 自動運転だよ」
「自動……。魔法道具というわけですね。それにあなた方の装備。推測ではありますが、それなりの実力者とお見受けします。そんなあなた方を見込んでお願い致します。どうか私を助けて下さらないでしょうか。私はベレリス国第四王女のメルリナ・ベレリスと申します」
あー……。
やっぱ王族だったか……。
「私は……、その……実は襲われるのがわかっていてベレリスを出征しておりました」
「……襲われるとわかっていたの?」
「はい。先ほど申した通り、亜人三国は戦争突入のタイミングを見計らっております。とくにベレリス国の国王である我が父ガオ・ベレリスは好戦的思想を持っております」
「第四王女のあなたを餌にしたってわけ?」
「おっしゃる通りです。一国の王女がサオレイマ国の暗殺者に殺されたとなれば、戦端を開くには十分な理由となりましょう」
「な、なるほどねぇ」
ヤバい。
これ絶対戦争ルートだわ。
ゲームならここらへんで『クエストを受けますか?』という選択肢が出るので『いいえ』を答えることができる。
だが面と向かって彼女に『一人でなんとかしろ』なんて言うわけにもいかないわけで。
――とここで、ハムちゃんが私に耳打ちしてくる。
「どうしやすか? 明らかな面倒事ですぜぃ。追い払うなら俺がやりますよ?」
「うーん。そうねぇ……あっ! そうだ!」
私は良いことを思いついてしまう。
「ハムちゃんあなたが戦争クエ受けてきなよ! 報酬うまうまだし、基本強ければ戦争クエは全てうまくいくから、ハムちゃんが適任じゃん!」
「え゛!? お、俺ですか?」
「うん! 戦争クエは長いのが欠点なだけで小難しい判断とか求められないのっ! 基本はイベントの流れにのっておけば大丈夫よ?」
「そ、そうですか。ご命令とあらば遂行しやすが……」
「いやごめん。命令ってわけじゃなくて自由意志で決めて欲しいかなぁ。やってみたらどうかなーって思っただけなの」
「わかりやした。必ずやご期待に沿えるよう行ってきやす!」
「いや、うん、命令じゃないからね? 自由意志だからね?」
「はいっ!!!」
本当にわかっているんだろうか……。
何はともあれ、ヒソヒソ話をやめて王女様に向き直る。
「えっと、そしたら私はちょっとやることがいろいろあるから、うちのハムちゃんが助けてあげるよ」
「本当ですか? ありがとうございます」
「よし、そしたらハムちゃんいい? 基本的に彼女の言うことに従って行動するのよ?」
「はい、わかりやした」
「んじゃあ、馬車はそのまま使っていいから。私は行くねー、ばいばーい」
そう述べて、私は飛行魔法で飛び出していくのだった。
「こらこら。勝った相手に悪口は言わないの。カッコ悪いわよ」
「はい! 豚トロ様!」
戦意喪失している亜人たちを無視して、襲われていた犬人女性の元へと歩み寄る。
「えっと、大丈夫?」
「あ……、は、はい。助けていただき、ありがとうございます」
「私はトロポークっていうのこっちはハムちゃんね。無事? 怪我はない?」
「……はい。おかげさまでかすり傷一つありません」
犬人女性が観察するようにこちらを眺めている。
なんだろう。
作り物のような笑顔に見える……。
けど、気のせいか?
「そっか。よかった。えっと、名前はなんて言うの?」
「…………メルリナと申します」
「災難だったわね。でもあなたが無事でよかったわ。この後はどうする?」
「そうですね。どうしましょうか」
ゲームなら助けた段階でイベントがポンポン進行するのだが、なんとも会話のテンポが悪い。
んまあリアルならそんなもんか。
「もしよければ、あなたの元居た場所まで護衛するけど?」
「そうですね。そうしてもらえると助かります。馬車もご覧の通り破損してしまいましたし、護衛の者も皆死んでしまいました」
一瞬蘇らせようか迷ったが、この世界では死者は蘇らないのが常識だ。
ならば変に目立つ行為は避けた方がよい。
「オッケー。そしたら行こっか。どこに送ればいい?」
「ベレリス国の首都ルーオまでお願いします」
「わかったわ」
私の馬車へ乗り込もうとすると、ハムちゃんが耳打ちしてくる。
「この者嘘をついてますぜぃ?」
「わかってる。でも気にしなくていいわ」
誰かに襲われるような者は何かしらの特殊な事情を抱えている可能性が高い。
イベントのセリフはスキップしがちだったからあまり覚えてはいないが、ゲーム中でもこういうことはよくあったはずだ。
このメルリナという少女が最終的に仲間になるか敵になるかはわからないが、どちらにしてもイベントが進行しないことには話が進まないのである。
「豚トロ様がおっしゃっていた砂クエ? には関係してるんでしょうか?」
「たぶん関係ないと思うわ。けどせっかくのイベントだしやっときましょ」
改めて犬人少女の方へと向き直る。
「しかし災難だったわね。盗賊? それにしては装備がいいからどこかの兵士かしら? 相手に心当たりはある?」
「恐らくはサオレイマ国の暗殺者かと思われます」
「暗殺者……? この辺りの状況に詳しくないんだけど、良かったら教えてもらえる?」
「構いませんよ。亜人領は現在三国に別れてほぼ戦争状態にあります」
「ほぼ?」
「三国とも明確な宣戦布告を行ったわけではありません。そのため表立って軍を送り合う事態にはなっていないのです。ですが、裏で暗殺、諜報活動が活発に行われております」
「それであなたも暗殺されかけたってこと?」
「ええ。そうかと思われます」
つまり、彼女はそれ相応の高貴な身分にあるというわけか。
助けておいて損はないであろう。
ただ……この子がもし王族だった場合、この手のイベントは戦争イベと紐づいている可能性が高い。
戦争イベは報酬が良い分クリアまでが長いから、正直今は乗り気がしないなぁ。
それに、今回の旅の目的は砂クエによる金策だ。
最短でそこを目指すなら、戦争クエなんてやっている暇はない。
「ところで、この馬車は誰が運転しているのかしら?」
「ん? 自動運転だよ」
「自動……。魔法道具というわけですね。それにあなた方の装備。推測ではありますが、それなりの実力者とお見受けします。そんなあなた方を見込んでお願い致します。どうか私を助けて下さらないでしょうか。私はベレリス国第四王女のメルリナ・ベレリスと申します」
あー……。
やっぱ王族だったか……。
「私は……、その……実は襲われるのがわかっていてベレリスを出征しておりました」
「……襲われるとわかっていたの?」
「はい。先ほど申した通り、亜人三国は戦争突入のタイミングを見計らっております。とくにベレリス国の国王である我が父ガオ・ベレリスは好戦的思想を持っております」
「第四王女のあなたを餌にしたってわけ?」
「おっしゃる通りです。一国の王女がサオレイマ国の暗殺者に殺されたとなれば、戦端を開くには十分な理由となりましょう」
「な、なるほどねぇ」
ヤバい。
これ絶対戦争ルートだわ。
ゲームならここらへんで『クエストを受けますか?』という選択肢が出るので『いいえ』を答えることができる。
だが面と向かって彼女に『一人でなんとかしろ』なんて言うわけにもいかないわけで。
――とここで、ハムちゃんが私に耳打ちしてくる。
「どうしやすか? 明らかな面倒事ですぜぃ。追い払うなら俺がやりますよ?」
「うーん。そうねぇ……あっ! そうだ!」
私は良いことを思いついてしまう。
「ハムちゃんあなたが戦争クエ受けてきなよ! 報酬うまうまだし、基本強ければ戦争クエは全てうまくいくから、ハムちゃんが適任じゃん!」
「え゛!? お、俺ですか?」
「うん! 戦争クエは長いのが欠点なだけで小難しい判断とか求められないのっ! 基本はイベントの流れにのっておけば大丈夫よ?」
「そ、そうですか。ご命令とあらば遂行しやすが……」
「いやごめん。命令ってわけじゃなくて自由意志で決めて欲しいかなぁ。やってみたらどうかなーって思っただけなの」
「わかりやした。必ずやご期待に沿えるよう行ってきやす!」
「いや、うん、命令じゃないからね? 自由意志だからね?」
「はいっ!!!」
本当にわかっているんだろうか……。
何はともあれ、ヒソヒソ話をやめて王女様に向き直る。
「えっと、そしたら私はちょっとやることがいろいろあるから、うちのハムちゃんが助けてあげるよ」
「本当ですか? ありがとうございます」
「よし、そしたらハムちゃんいい? 基本的に彼女の言うことに従って行動するのよ?」
「はい、わかりやした」
「んじゃあ、馬車はそのまま使っていいから。私は行くねー、ばいばーい」
そう述べて、私は飛行魔法で飛び出していくのだった。
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