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4吸血 説明できない物語

1 説明できない物語

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 夏蓮から届いたメールを読みながら自分の机に視線を向けると、夏休みに入ってから手付かずの宿題が山積みに置かれている。
 そんな光景を目にし、溜息が出るのと同時に目を逸らしたくなるのは現実逃避。

 宿題から目を逸らしたところで後回しになるだけ。
 渋々ながらに宿題をやろうとベッドから降りようとすると、窓が開く音に、ラルムが帰ってきたのだと振り向く。



「ラルム、お帰……り」



 瞳に移ったのは、ラルムではなくいかにも不良そうな男の姿。
 窓から入ってくるなんてバンパイアであるラルムしかしないため、てっきりラルムだと思っていた私は首を傾げ尋ねる。



「誰……?」



 驚く私の表情に、男はニヤリと笑みを浮かべたその瞬間、何故かこの男から逃げなげればと思った。

 だがその前に、男に腕を掴まれ壁へと押し付けられる。



「逃げられると思ってんのかよ」

「ッ……一体あんた何者なのよ」



 身動きがとれずキッと睨み付け問うと男は、そんな私の反応を楽しむように笑みを浮かべ口を開く。



「ハハハハッ!! この俺を前にして睨んでくるとはな。その命知らずな行動に免じて、俺の名を教えてやる。俺の名はノワールだ」

「ノワール……?」



 ノワール、それはフランス語で黒という意味。
 窓から入ってきたこと、そして名前。
 私の考えが間違いでなければ、一つの答えが頭に浮かぶ。



「あんた、バンパイアね」

「へー、命知らずなバカ女にしてはよくわかったな」



 いちいち上から目線なノワールに怒りを覚えるが、この状況では逃げることは不可能。



「あんたは一体何の為にこんなことしてんのよ」

「バンパイアならやることは1つしかねーだろ」



 そう言うとノワールは、私の首筋に口を近づけ、がぶりと噛みつき血を吸う。
 容赦なく噛みついたノワールの牙は首筋の深くまで刺さり、ラルムの時より遥かに違う痛みに顔が歪む。

 ラルムが今まで加減をしながら血を吸っていたのかがわかる。
 ラルムなら、少し血を吸って放してくれるのに、ノワールは今もまだ血を吸い続けている。

 牙が抜かれた時には血を吸われ過ぎたせいか、私は足から崩れるようにして床に座り込んでしまう。



「血の匂いで気になってたが、あんたの血、やっぱ他の人間よりうめーな」



 口端から垂れる血を手で拭い、笑みを浮かべるノワールを見て私が感じていたのは恐怖。



「何だ? さっきまでの威勢のよさはどこいっちまったんだ?」



 文句の一つでも言ってやりたいのに、震えそうになる体を抑えることだけで精一杯だった。



「安心しろ。今はこれ以上血を吸う気はねぇよ。折角見つけたご馳走だ。死なれちまう訳にはいかねーからな」



 ご馳走さんと言うノワールの言葉に、私は改めて自分の今の状況を理解する。

 ノワールにとって人間は、血を飲む為のモノでしかない。
 それは、ラルムにとっても同じなのだろうかと考えてしまう。
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