神々の島の聖獣士〜勇者に聖獣を奪われて殺されかけた俺を助けてくれたのは小さな黒ウサギでした〜

浅間遊歩

文字の大きさ
3 / 40

勇者候補

しおりを挟む

 自然と人垣が割れ、ジークが歩いて出て来る。

「聖獣が寄って来るなんて素晴らしいじゃないか」

 そう言ってニコリと微笑むと、離れた所から女子の歓声が響く。
 それから男子学生が支えている手押し車に目をやり、
 
「君たち、道をふさいでいてみんなの迷惑だ。早く進んでもらえないか? 授業に遅れたくないんでね」

「はひっ」
「そ、そうっすね」
「すいませんっした!」

 3人は作物を載せた手押し車を押して走ってゆく。

「……ども…」

 礼を言った方がいいんだろうか?
 モゴモゴと口ごもると、ジークはフッと笑い、

「君達も遅れないようにね」

 と、さわやかな笑顔を残して去って行く。完璧だ。

「さすがジークね」
「ステキ…」
「見事な対応だわ」

 あちこちからジークを称賛する声。主に女子。

「くそっ。なんかくやしい」

「ぷ。何だそれ」

 ダァンが吹き出す。

「……心の声を聞くなよ、ダァン」

「口からダダ漏れてんぞ」

「なんかさあ…、全てにおいて負けてるって感じ?」

「まー、同い年とは思えないよなー」

 男ふたりで、そこはかとなく敗北感を味わっていると、後ろでニーナとカチュアがひそひそウワサ話を始める。

「ねえ聞いた? あのウワサ!」

「なになに?」

「院長先生の所に、聖教会から緊急連絡があったんだって」

 聖教会は唯一神ゼナスを祀る宗教施設だ。町や村の至る所にあって人々の生活の基本になっている。
 区域ごとに住人が所属する聖教会があり、それらを取りまとめる組織も聖教会と呼んでいる。
 一応、小さい頃に洗礼を受けて以来、親と一緒に毎週礼拝に通っていた。
 だがそれほど熱心な信者でない俺は、何故そこで聖教会が出てくるのか分からない。

「ゼナス様から、『勇者が現れる』というお告げがあったみたいなの」

「それってもしかして…」

「そう。正式な発表はまだだけど、ジークじゃないかって」

「「 ええ!? 」」

 聞き耳を立てていたダァンと俺は思わず振り返る。

「勇者って、勇者?」

「世界を救う者として聖教会が与える称号ね」

「すげえ!」

「でも、『いさましき者』を必要とする状況になるって意味でしょ? つまり魔族による人間界侵略、戦争の危機が高まっているってことよね?」

 ニーナが心配そうに眉をひそめる。
 歴史的に見て、聖教会が勇者を認定するのは、いつも戦争か動乱が始まる前なのだ。

「勇者が優秀なら全面戦争になる前に終わることもあるさ」

 ダァンが安心させるように言う。

「それより……今は収穫を急いだ方がいいんじゃないか?」

「あ!」

 忘れてた。

「ほら、急げ急げ。このニンジンも積んでいいか?、ライゼル」

「おう。すまん」

 選別して特に良い物を提出しようと思っていたのだが、それどころではない。
 実習畑にはもう誰も残っていない。
 ダァンの言う通り、選ぶのに悩むほどならどれでも大差はないのだ。
 良さそうなのを手当たり次第に収穫する。

「あたし達も手伝うよ」

 農作物の提出は週ごとに担当があるのだが、ダァン達は今週ではないらしい。みんなで手押し車にニンジンを積み上げていると、犬を連れた畑番のおじさんが見回りに来た。

「おや、まだ残ってたのか。もうすぐ授業が始まるよ」

「ちょっと収穫に手間取っちゃって」

 おじさんは学院に雇われた職員のひとりで、この島に昔から住んでいる人らしい。
 おそらく先祖が聖獣狩りに来て、そのまま居着いた一族なんだろう。
 モジャモジャの長い髪を後頭部でまとめ、ヒゲもモジャモジャ。肌は浅黒く、南の大陸に住む民族の面影がある。

「農具はしまっておいてあげるから、そこに置いて早く行きなさい」

「ありがとうございます!」
「よろしくお願いしますっ!」
「おじさん、ありがとう」
「リド、またね!」
「バウ!」

 リドとは、おじさんが飼っている番犬の名前。
 おじさんよりもモジャモジャな犬だが、あの子も一応、聖獣らしい。
 人の言葉が分かるようで挨拶すると返事をしてくれる。
 島では食料用に持ち込まれた家畜以外、みな聖獣とされている。
 見た目は他の地域に生息する動物と似ていても、島の在来種はどれも高い魔力と知性を持つ。
 元から別の種族なのか、この島で長く暮らすうちに変化したのかは分かっていない。


   ◇ ◇ ◇


 アトラ聖獣学院は、聖獣士を目指す者が学ぶ学校だ。
 卒業して聖獣士になれば各国の軍隊から引く手数多あまた。民間のギルドに入って護衛や討伐の任務につくのもいい。
 地位も収入も安定した職が得られるが、人々が聖獣士を目指す理由はそれだけではない。
 人語を解す聖獣を操り、時には一体化して悪人や魔獣を倒す聖獣士は、みんなの憧れなのだ。

 約百年前に魔族が人間界に攻め込んできた時、それを迎え撃った勇者は聖獣士だった。
 パートナーのゴールドドラゴンと共に戦場を駆け抜け、仲間を鼓舞し、敵を撃ち破る様は英雄譚にうたわれている。
 数百年前、さらにもっと昔の魔族との戦いでも、勇者と呼ばれる英雄はみな聖獣士。
 それらの昔話を聞いて育つ子供達が聖獣士に憧れない訳がない。

 『神々の島』に住む聖獣は、おおまかに3種類に分類されている。
 普通の動物とほとんど同じ姿をしているのが通常種コモン
 比較的見つけやすく、契約しやすい。それでいて種類によっては十分に役立つ。馬の聖獣士だけの部隊は非常に機動力があることで知られている。

 通常種とよく似ているが色違いだったり、大きさが著しく異なったり、一部に変わった部位パーツを持っていたりして、より能力が高いのが希少種レア

 さらに上位の伝説種レジェンドは、もっとも強く、ほとんど見かけることがない。その潜在能力は果てしなく、自然界には存在しない独自の姿をしている。高い知能を有し、人語を解すだけでなくパートナーとなる聖獣士と会話すらできるという。

「先の大戦で勇者が使役したゴールドドラゴンが伝説種の代表だ」

 聖獣学の先生が黒板に書きながら説明する。
 クラス全員がうなずいた。
 学院の生徒でなくても誰もが知っている情報だ。

「毎年、卒業する学生が契約して連れて帰る聖獣のうち、伝説種はほんの数体。全く居ない年もある。努力と相性、それに運も必要だろう。もちろん本人の高い能力が必須となるのは言うまでもない。この100年、ゴールドドラゴンを捕まえた者は居ないが、今年こそ契約を果たす者が出るのではないかと期待している」

 先生の言葉に、クラス中の視線がジークに集まる。

「勇者…」
「…勇者?」
「勇者らしいぞ」

 ざわざわ…

「頼んだぞ、ジーク」

「はい。先生」

 微笑むジーク。
 クラス中から歓声が上がる。
 すでに勇者の称号が与えられたかのような熱気だ。

 それを見ながら、俺はポケットの中の物を握りしめた。
 まだ誰にも見せた事はない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...