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事実とは
しおりを挟むようやく転移魔法陣にたどり着くと、係員が俺を見てギョッとした顔をする。
なんだよ!? ……あ、耳か?
チビ助が同化してくれてるおかげでケガはだいぶ良くなったが、完治には遠いため解除できない。当分は長い耳付きだ。
それに服には吐いた血がベットリとついたまま。…ああ、こっちか。
「学院までお願い」
「は、はい!」
ニーナのペガサスに見とれていた係員があわてて魔法陣を起動する。
行動予定表の提出とチェックがないので、みんな一緒に魔法陣に入る。
虹色の光に包まれ、俺たちはアトラ聖獣学院に到着した。
「先生に報告しなきゃダメだろうなぁ」
俺は毛並みのいい長い耳に触れながらため息をつく。
チビ助のこと。それに、ゴールドドラゴンとジークのこと。
「ライゼル。ケンカ腰はダメよ。落ち着いて、ね?」
「う、うん」
振り返ったニーナが妙に真剣な目で俺を見る。
まあ、ジークはクラスの人気者だし、先生も露骨に贔屓してる位だから信じてもらうのは難しいかも知れない。
俺自身、ジークに殺されかけたなんて信じたくはない。
でも、あのゴールドドラゴンを助けてやらなきゃ。
聖獣舎の横を通り過ぎて校舎に向かうと、入り口の前に人だかりができていた。
「あっ、ライゼル!」
「「「 えっ!? 」」」
誰かの声に、みんなが一斉にこちらを向く。
「ライゼルだ」
「生きてる…?」
「本物?」
「おいおい、幽霊じゃないだろうな」
ざわざわと動揺するクラスメイト達。
ほんとに死んだことになってたよ……。
人混みの中心には居るのはジークだ。
俺を見て一瞬、眉をひそめる。だが、すぐにいつもの笑顔に戻ってつぶやいた。
「フッ、悪運が強いな」
「何だと?」
ジークの腕にはゴールドドラゴンが大人しく抱かれている。
あの後、テイムに成功したのだろうか?
あんな酷い事をしたのに?
ジークに詰め寄ろうとすると、ダァンが飛び出してきた。
「おい、ライゼル! 見損なったぞ! どういうつもりだ?」
「はあ?」
「そうよ。自分が契約できなかったからって逆恨みするなんて!」
「聖獣士を目指す者として失格だぞッ」
「そうだそうだ」
周りのクラスメイトも口々に俺を責める。
「おい! ジーク、お前…」
どんな説明をしたんだよ、と言いかけてようやく気づいた。
他人を殺してでも聖獣を奪おうとするような奴が本当の事を言うはずがない。
よく見ると、ゴールドドラゴンは複雑な模様のついた兜を装備している。
アレにも手袋と同じように何か魔法が仕込んであるのかも知れない。
それともただの装飾品?
金持ちは聖獣をペットのように飾り立てたりすると聞く。
見ただけでは兜の性能は分からない。
ジークは俺ににらまれても全くひるまず、いつものように笑顔を浮かべている。
「ゴールドドラゴンに感謝するんだな、ライゼル。ロープではなくお前にブレスを吐きかけていたら、こうして戻って来ることもなく即死だった」
「それじゃあ、まるで、ゴールドドラゴンが俺を狙ったみたいじゃないか! お前が…」
「自慢の野菜を食べてもらえなかったのがショックだったんだろ? 俺と契約したゴールドドラゴンを襲うなんて」
「違う! そんな事、してない!」
「ああ、もちろん、わざとじゃないさ。ヤケになって暴れて、たまたま武器がドラゴンにぶつかった。その程度じゃドラゴンはケガなどしないが、威嚇の炎に驚いて君はガケから落ちたんだ。あわててつかんだロープも、ドラゴンブレスで焼き切られてガケから真っ逆さま……死んだと思っていた」
「よくもヌケヌケとッ!」
「落ち着け、ライゼル。俺は目撃者として、ありのままを報告しただけだ。それとも、あれはワザと攻撃したのかい?」
「ワザと攻撃したりするもんか!」
そう叫んだ瞬間、ジークの罠にハマった事に気づく。
ワザと攻撃したわけじゃない。
つまり、ワザとじゃないが攻撃はした。
周りで聞いている人々に、そう受け取られる発言への誘導。
俺の否定は、攻撃の有無ではなく故意の有無にすり替えられてしまった。
「やっぱり…」
「ひでえなぁ」
「ライゼルって、そーゆー人だったんだ?」
「聖獣様を傷付けるのは犯罪よ」
もともとジークがウソをついてると疑ってる人はいない。その上で俺達の会話を聞けば、そう受け取るのは当然だ。
ダァンですら、鋭い目で俺をにらんでいる。
「くそっ……卑怯だぞ、ジーク」
「言いがかりはやめてくれたまえ。欲しかったゴールドドラゴンを得られなくて悔しいのは分かるが、そろそろ不快だ。失礼させてもらうよ。俺のゴールドドラゴンも初めての場所で大勢の人間に囲まれて疲れているだろう。君の無礼は俺がとりなしておいたが、これ以上しつこいと、また、ゴールドドラゴンを怒らせるかも知れないよ?」
「く…っ!」
ダメ押しにウソの設定を大声で周りに聞かせるジーク。
怒りのあまり、どう対応したらいいか分からない。
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