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無力な道化
しおりを挟む「おい、どうした? 何があった?」
「あ、先生!」
騒ぎを聞きつけて先生が校舎から出てきた。
「ライゼル・ユークリッド! 良かった! 助かったんだな? 今、救助隊が向かったところだ」
「先生…」
「だから気をつけろと言ったろう? 野生の聖獣には気が荒いものもいる。大丈夫か? 酷い出血だな。すぐに医務室へ行って診てもらえ。いや、これ以上動くな。誰か、タンカを!」
ダメだ。先生もジークの説明を疑っていない。俺が本当の事を言っても信じてくれないだろう。
熱血で生徒思いの優しい先生だが、だからこそ、優等生のジークに殺されかけたなんて信じたくないに決まってる。俺の方がウソをついてると思われてしまう。
指示を終えた先生は俺を振り返り、怪訝な顔をした。
「ライゼル、その髪は…いや、耳? それにその目の色は一体…?」
「目?」
「紫色になってるのよ、ライゼル。出血か何かでそう見えるだけかと思ったけど」
ニーナが小さな手鏡を差し出す。
「ホントだ」
「ね?」
「聖獣の色です!」
隣にいたクオが子供らしい大声で説明する。
「ライゼルは、契約した聖獣と一緒になってるんです」
「一緒? …【同化】か! すごいぞ、ライゼル! 一体、何の聖獣と……」
そこまで言って察したらしい。俺の畑に黒ウサギの聖獣が通っているのは有名なのだ。
周りからもクスクスと忍び笑いが漏れる。
「そ、そうか。何にせよ、めでたい。ただ…」
先生は咳払いをして続ける。
「あまり戦闘には向いてないかもしれんな」
辺り一帯、大爆笑。
他人の聖獣を攻撃した犯罪者と脆弱なウサギをテイムした道化。どっちがマシな肩書きだろうか?
本当は、クラスメイトに殺されかけて命を救ってくれた聖獣がウサギだっただけなのに。
だが、もう信じてくれる人は居ないだろう。
疲れた。
俺だって疲れてる。
死にかけたんだぞ?
「ところで、その子は?」
先生がクオに目を向けた時、
「クオンタム!?」
人混みをかき分けて畑番のおじさんがやって来た。
「ど、どうしてこんな所に」
ひどくあわてている。
「ウティホおじさん!」
クオは顔を輝かせて畑番のおじさんに抱きついた。
「バウ! バウ!」
番犬のリドも大喜びでクオとおじさんの周りを走り回る。
「クオとはヴォスラ火山の山麓で出会ったんだ。迷子になってたみたいです」
「そうか。昔からの知り合いの子でね。ありがとう、連れてきてくれて」
似てないと思ったら血縁じゃなかった。
でも知り合いに間違いなさそうだ。
『神々の島』の奥地には人目を避けるように先住民が暮らしていると聞く。
元々は世界各地から聖獣を求めてやってきた人たちなので、民族的にはバラバラで外見も統一性がないらしい。
「先生。この子もワシの小屋で一緒に住んでも構いませんかね?」
「島の先住民には好きな場所で暮らす権利が与えられているからね。手続き上、届けだけ出してもらえれば」
「ありがとう、先生」
クオは屈託ない笑顔でお礼を言った。
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