神々の島の聖獣士〜勇者に聖獣を奪われて殺されかけた俺を助けてくれたのは小さな黒ウサギでした〜

浅間遊歩

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二人の神殿

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 実習畑の奥、校舎からだいぶ離れた林の中に、小さな小屋がある。
 畑番の小屋だ。
 かなり古い物らしく、やや傾いてるようにも見える。

「バウ! バウ!」

 いつもより興奮気味のリドが実習畑の間の農道を一目散に駆け抜け、小屋にたどり着く。

「待ってよ、リド。早すぎるよ!」

「バウ!」

 返事をしたリドは農道を引き返し、クオに走り寄る。そのまま後ろへ回り込むと鼻先でクオを跳ね上げ、背中に乗せてまた走り出す。

「っわ!……あははは…」

 楽しそうに笑うクオを見ながら、「畑番のおじさん」ことウティホは眉をひそめる。
 クオを嫌がってるのではない。
 クオが何故この島に現れたのか、その理由を推測できたからだ。

「ゼナスめ……。こんな幼い子にまで、酷い事を…」

 この『神々の島』は、神界から追放された神々が捨てられる場所であった。
 元々は、お忍びで人間界を訪れる神がまず足を下ろす場所であったのだが、今では神界でも人間界でも力を持たない神々の監獄だ。
 ゼナスは自分の権威を脅かす神々をことごとく罠にかけ、霊力を奪って追放してきた。
 中には善意で忠告をした神や、ただ霊力が強かっただけの神もいた。
 ゼナスはそれらの神を全て追い落とし、ついに唯一神と呼ばれるようになったのだ。
 そしてウティホもまた、落とされた神のひとり。

「バウ!」

 リドが小屋の前でクオを降ろし、尻尾を振って待っている。
 あの犬は、この島に来て最初に仲良くなった聖獣だ。
 霊力を失ったウティホの代わりに色々と役に立ってくれる。
 今ではウティホも人間が使う魔術を学んで多少の事はできるようになったが、リドが居なければ生活の不便さに音を上げ、失意を胸に聖なる谷で眠りについていただろう。
 …他の神々のように。

 ウティホはリドの頭を撫でてやり、ついでにクオも撫でてやる。
 少し恥ずかしそうに、クオは笑った。

「ウティホおじさん、お久しぶりです。お世話になります」

「うむ。数百年ぶりか? 元気にしてたか?」

「はい! おじさんに教わった遠見の術もだいぶ上手くなりましたよ」

 クオは手のひらを前に突き出し力を込める。
 遠くを見通す珠を出現させようとしたのだが、何も起こらない。

「……そうだ。もうできないんだった。ぼく、ゼナス様を怒らせてしまって……」

 しょんぼりとうなだれるクオ。

「気にするな。お前が悪いんじゃない」

 ウティホは出来るだけ冷静に言いながら、玄関のドアを開ける。

「だが、こうなった以上はココでの生活に慣れなくては。明日からは仕事を手伝ってくれ。人間の生活も、そう悪いもんじゃない。特に美味しいものを食べる時はな。夕飯はナッツ入りのパンと野菜スープだ。果物もあるぞ。南の大陸で採れる甘いヤツ」

「わーい!」

「明日は学院の食堂に頼んで焼き菓子と卵ももらってこよう。さあ、お入り。今日からここがワシとお前の神殿さ。どうだい、立派だろう?」

「ふふふふ。おじゃましまーす……じゃなかった、ただいまー!」

 おどけた声と表情でクオを笑わせながら、ウティホは久しぶりに元気が湧いてくるのを感じていた。
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