神々の島の聖獣士〜勇者に聖獣を奪われて殺されかけた俺を助けてくれたのは小さな黒ウサギでした〜

浅間遊歩

文字の大きさ
12 / 40

おいしい日課

しおりを挟む

「ピョンピョンピョン! うっさぎっがピョン!」
「ギャハハハハ……」

 たわいもない即興曲でバカ笑いしながら3人組の男子学生が近くの農道を歩いていく。
 もちろん俺への当て付けだ。
 ライゼルは無視して雑草取りを続ける。

 俺がゴールドドラゴンをねたんで「ついうっかり」攻撃して返り討ちにあったというジークの作り話は、あっという間に学院中に広まった。
 批判的か同情的かの違いはあるが、ほとんどの人はウワサの内容そのものを疑う事はしない。
 当然だ。
 だって証言したのは聖教会が勇者に選んだジークなのだから。
 ジークが伝説種レジェンドのゴールドドラゴンを手懐てなずけ契約したとの連絡が届くや否や、聖教会はジークに正式に勇者の称号を送ると決めたそうだ。
 称号の授与式はまだ行われていないが、新聞に特集記事が載ったらしい。
 学院の先生も生徒もお祭り騒ぎだ。
 おそらく島の外でも大騒ぎになっているだろう。

(キュ。キュウ~)

 俺の心理的な変化を読み取ったのか、チビ助がなぐさめるように声をかけてくる。
 うん、それだったら同化を解除して欲しいのだが、それを頼むと聞こえないふりをされる。
 あれからひと月もったが、俺はいまだにウサギの耳をつけたままで生活している。
 もう、グレそう。
 真面目に畑仕事してる自分をほめたい。
 好きな作業に逃げてるだけとも言えるけど。

「ライゼルー!」

 俺を呼ぶ子供の声。

「ご注文の肥料をお届けに参りましたぁ!」

「おー、クオか。重かったろ?」

「リドが手伝ってくれるから大丈夫」

「バウ!」

 手押し車を改良した台車を引いてるリドが吠える。
 台車に積んである堆肥たいひ入りのおけは、犬の鼻でも負担が少ないように魔法の疑似結界で匂いを抑えてある。
 畑番のおじさんって、こういう気遣いが細かいよな。
 以前はそれほど親しくなかったリドだが、最近は割と仲がいい。
 堆肥の入った桶を台車から下ろすと、リドはチラチラと俺の畑の方をうかがってる。

「よーし、一休みしよう」

「やった! 今日は何?」

「キュウリとトマトがあるけど?」

「バウ!」

「ぼくトマト!」

 キュウリの苗の前でお座りしているリドにキュウリを一本取って地面に置いてやると、さっそくかじりついた。
 食べごろにれたトマトを二つもぎり、一つをクオに渡す。
 魔法で出した水で手を洗ってから、畑の脇のベンチに並んでおやつタイムだ。

 この島の畑で育てる農作物は通常の数十倍のスピードで成長する。
 種から育てても十日もあれば野菜ができる。早ければ数日。
 その分、魔力を消費するし、肥料や水もただやればいいというものではないが、新鮮な野菜がいつでも作れるのは助かる。
 聖獣と契約するには新鮮で愛情のこもった作物が必要なのだ。

「果物も採れるといいんだけどな」

「島では作れないんですか?」

「いや、野菜ならすぐに収穫できるけど、果物のなる木は成長が遅い。苗を植えてから実がなるまで何十日もかかるんだ。だから学生はあまり作ってない。課題の提出や聖獣探索に間に合わないからな。食堂で使う分とか研究用とかは学院が育ててるよ」

「あ! うちの庭にも大きな木があります! おじさんが手入れしてましたっ! 実がなったら一緒に食べましょう!」

 キラキラと目を輝かせている。

「おー。楽しみにしてる」

「はい! 楽しみです! どんな味かな~♪」

 クオはチビ助に負けず劣らずの食いしん坊になった。
 おじさんが育てているのは花が綺麗な木かも知れないのに、食べられる実がなると決めてるようだ。
 おいしいおいしいと何でも喜んで食べてくれるので、つい色々な種類の野菜を育てて食わせてしまう。

「おいしーですねー」

「うん、うまい!」

(キュウウ~)

 酸味と甘味のバランスが程よく、まるで果物のような完熟トマトだ。
 学院の畑で育てた野菜は成長が早いだけでなく味もいい。
 聖獣様にお供えするためのものだが、自分が作ったものは自由に食べても良いことになっている。
 俺が食事を味わうとチビ助も感覚を共有するらしく、美味いトマトに喜んでいるようだ。耳が勝手にピクピクと動く。

「あら、いいわね。私にもひとつ頂戴?」

「あたしも~っ」

 声をかけられて振り向くと、ニーナとカチュアが並んで立ってた。
 その後ろにはニーナのペガサスも居る。

「お、おう。天気が良いから豊作だしな。トマトでいいか?」

 と腰を浮かすと、

「うん。でも後でいいわ。ライゼルは座って座って」

 あんな騒動があったのに、この二人は相変わらず俺の畑に通ってくる。
 二人の目当てはもちろん……

「やっほー。来たよ~ん」
「元気だった? チビちゃん」

 聖獣様だ!!!

 俺の中に引きこもったままのチビ助に毎日会いに来る。
 チビ助も2人を無視するつもりはないらしく、長い耳を動かして応じている。

「どう? 少しは落ち着いた?」
「毛ヅヤは悪くないわね」
「いいお天気だよ。出ておいでよ」
「ライゼルがイジワルしたら、しかってあげるからさ」

 チビ助に話しかけながら、左右から耳をなでる。

(く……くすぐったい…)

 これでチビ助が同化を解除してくれるなら…と思って好きにさせているのだが、チビ助は結構ガンコだ。
 それに、この方法には恐ろしい弊害へいがいがあった。

「おうおう、ライゼル。今日もモテてんなぁ~」

 農道を通るクラスメイトが面白がってからかう。
 この体勢は、両隣に女子をはべらせて微妙なスキンシップを受けている様に見えるのだ。

「なんでアイツばっかり」
「聖獣を大事にしない奴なのに…」
「………もげろ……」

 だいぶ怨念ヘイトを向けられてる。

「もう! そういうんじゃないのにー」

「そうそう」

(いや、そういう風にしか見えませんて)

 思わず白目になるが、他に頼るもののない俺は、されるがままで耐えるしかない。
 チビ助は俺の説得には全然!、全く!、1mmも!、聞く耳を持たないのだ。
 このまま一生、ウサ耳だったらどうしよう!?

「ウサギさん、もうライゼルは大丈夫ですよ。安心して出てきてください?」

 クオまで俺の後ろに立って頭をなで始める。
 あ、この絵面えづらの方が女子だけよりちょっとマシかも?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...