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クロコダイル・スプラッシュ
しおりを挟む聖獣探索はソロでやるべしと決まっている訳ではない。
単純に、それぞれ一番良い個体や珍しい聖獣が欲しいため、ライバルとなる他人と一緒に行動しないだけだ。
逆に言えば、利害関係が無いなら気にすることはない。別々の聖獣を狙う者同士が協力しあったり、既に契約を済ませた者が友達の探索を手伝ったりはよくあるらしい。
「おー!、結構広いな」
俺達はカチュアの案内で島の裏側に広がる湿原を流れる川まで来ていた。
「この川には、湖とは別の種類の水棲聖獣が住んでるの」
「カチュアはココの聖獣を狙ってるのか?」
「うん。見てて」
カチュアは川辺へ近づき、大声で呼びかけた。
「おーい、いるー? あたしよー!」
そのまましばらく待っていると、水面が揺れた。
波紋が岸に近づいて来る。
「下がって!」
カチュアの忠告にあわてて後ずさる。
ザッパァァアアアアァ………ンン!!
盛大な水飛沫を上げて、巨体が水面から跳ね上がった。
「「「 おおおおーーーっ!! 」」」
ゴールドドラゴンのとは違うゴツゴツしたウロコに包まれた体。太く長い尻尾。短い四肢。ギラリと並ぶ鋭い牙。
水辺の捕食者、クロコダイルだ!
着水と同時にさらに大量の水が飛び散る。
「うっわ!」
これはあのまま立ってたら頭から水をかぶるところだった。
「カチュア、もしかしてこの……」
「そう。あたしが狙ってんのはコイツ」
「グアアァー!」
クロコダイルは川の中で大きな口を開け、カチュアに返事をする。
カチュアがそちらに向かって手を振ると、クロコダイルはまるで水族館の曲芸イルカのようにクルリと回転して見せる。
「仲良しですね!」
「スゲー懐いてるな」
「キュキュ」
「もう契約できるんじゃないの?」
確かに親密度は充分に上がっているように見える。
だが、ニーナの質問に首を振るカチュア。
「あたしもそう思ったんだけど……」
持ってきた大根を取り出し、川に向けてかざして見せる。
「おーい、食べにおいでよー」
「グアアアア! グアアアア!!」
クロコダイルは動かない。その代わり、また鳴いた。
「ほら、おいでー」
「グガアアアアアアアァァッ!!!」
尻尾が神経質そうに水面をはたく。
怒っている。
ケンカ腰だ。
何故かは分からないが、さっきまでとは違い、カチュアの呼びかけが不満らしい。
しまいには駄々をこねるようにバシャバシャと水を跳ね上げ始めた。
「……………ね?」
ふう、とため息をついて、頭上に掲げていた大根を下ろす。
「いつも、最初は機嫌がいいのに途中からああなっちゃうんだ。でもね?」
大きく振りかぶって大根を投げる。大根は弧を描いて見事にクロコダイルの近くに落下した。
ガブリ。
牙の並ぶ大きなアゴを開け、クロコダイルはその大根に食らいつく。
恐ろしいほどの勢いだ。
「エサは食べてくれんの。嫌われてるんじゃないらしいのよ。もう、ワケ分かんなくて」
お手上げ、と両手を広げて肩をすくめる。
大根をくわえたクロコダイルは、そのままクルクルと円を描くように泳ぎながら咀嚼している。
「喜んでるように見えるなぁ」
「でしょう?」
「何で契約には応じてくれないのかしら」
「ね、クオ。あのクロコダイルの気持ち、何とか分からないかしら?」
「分かりますよ」
「えっ!? そんなスグに?」
「さっき、カチュアに呼ばれて来た時、あのワニさんはこう言ってたんです。『こっちにおいでよ。一緒に泳ごう!』って」
「……あ!」
「あのワニさんは、カチュアと会えるの、すっごくうれしいんです。でも遊びに誘っても来てくれない。それなのに美味しい食べ物はくれる。向こうもカチュアの行動の理由が分からなくて、イライラして、それで契約に踏み切れないみたいですね」
「何だ。そんな事だったの」
ホッと息をつくカチュア。
川の中から唸ってたのは威嚇じゃなかったのか。
「分かった。それじゃあ……」
カチュアはいきなり服を脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと、カチュア?!」
ニーナがあわてて声を上げる。
見ていていいのか?、目をそらすべきか?
あせってるうちにカチュアは制服を脱ぎ捨て、下から水着が現れた。
「ちょっと遊んでくる」
そう言って川に飛び込んだ。
「グルアアアアァッ!」
大声を上げてカチュアに突進するクロコダイル。
映画だったら大惨事の場面だ。だが、
「あははは…」
「ガアアアッ」
「こっちこっち」
ザッパーン!
キャッキャウフフのリア充ばりに水中で戯れる二人。いや一人と一匹。
「カチュア、泳ぐの上手いわね」
「前よりもっと仲良しさんです」
もつれ合うように川底に沈んだかと思うと、首筋にカチュアをしがみつかせたまま、空中へ一気にジャンプ!
「すげーパワフルな友情だな」
やがと充分に遊び尽くしたと思われる頃、カチュアとクロコダイルは一緒に岸に上がってきた。そして…
「はい、どうぞ」
「グルルル…」
ガブリ。
クロコダイルは、カチュアが持っている大根に噛みついた。
慎重に、カチュアの指を傷つけないよう気をつけながら、葉っぱ一枚残さぬように丁寧に完食。
その周りに光が集まり凝縮していく…
光が消えた時、カチュアとクロコダイルの間に新しい絆が生まれたのが分かった。
テイム成功!
「グルル、ガア」
「うん、楽しかったね。………あ!」
カチュアが俺達の方を振り返って叫ぶ。
「分かる!…分かるよ! この子が何を言いたいのか、ちゃんと伝わってくる!」
「おめでとう、カチュア!」
「キュウ、キュ」
「近くで見ると、さらに迫力があるわね」
体長は6m以上あるんじゃないだろうか。
「おいで。一緒に行こう」
「グルルルルル……」
クロコダイルがノドを鳴らしながらカチュアの後を付いて歩き出す。
ちなみに、メスだった。
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