神々の島の聖獣士〜勇者に聖獣を奪われて殺されかけた俺を助けてくれたのは小さな黒ウサギでした〜

浅間遊歩

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サイは笑う

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 クシャル湿原は『神々の島』の北側に広がる大きな湿原だ。
 中央には曲がりくねった川が流れ、西側は草原に続いている。
 陸に、空に、水中に、種類豊富な聖獣が住む、聖獣探索向けの重要なエリアの一つだ。

「ワシだ! オジロワシか!?」

 頭上を横切る影に、ダァンは空を見上げて叫ぶ。
 褐色の翼がすべるように通り過ぎてゆく。

「デカイな………でも、つがいか」

 ワシは二羽だった。
 縄張なわばり争いの兆候は見られないため、夫婦に違いない。
 繁殖期に入った聖獣は著しくテイムの成功率が下がることが知られている。
 狙うなら単体の聖獣がいい。

 ガサッ

 少し先の茂みから、可愛らしい子ギツネが顔を出す。
 キツネは頭が良く魔法の特殊能力を持つため、小さいが人気がある聖獣だ。だが、あれはまだ若すぎる。

「何かイイのが居ないかな」

 アトラ聖獣学院に入学して半年以上、週末には探索しているのだが、未だに目当ての聖獣すら決まらない。
 森、草原、湖、火山、洞窟、川や滝……色々なエリアを回った。
 行く先々で様々な聖獣を見かけるのだが、どの聖獣もイマイチしっくりこない。

伝説種レジェンドは無理でも、せめてカチュアのクロコダイルには勝たないと」

 カチュアが希少種レアのクロコダイルと契約してからもう2週間が経つ。
 あれよりスゴイのをテイムしようと島中を歩き回っている。
 この湿原を訪れるのは何回目だろうか。

「……ん?」

 遥か彼方にある白点が目に入った。

「アレは……?」

 双眼鏡を取り出して確認する。
 レンズをのぞくと、まず白い見事なツノが目に入った。
 全体が見えるように位置を調節し、ピントを合わせると、そこに居たのは…

(オオジカだっ!!)

 巨大な平たいツノを持つ、ヘラジカとも呼ばれる世界最大の鹿。
 ツノまで含めれば高さ3m以上はあるだろう。
 おそらく、それの希少種レアだ。全身が白い。
 その姿は神々しくさえある。

(何故こんな所に…?)

 オオジカは本来、湿原に住む聖獣ではない。
 けれども、聖獣は自然界の動物とは少し違うようで、時々、生息域外で目撃されたりテイムされたりする。
 偶然の出会いだが、たった一度の出会いで契約できることもある。チャンスだ!

「エ…エサは……」

 背負っていたカバンを下ろし、中身を確認する。

「アイツは何を食うかな?」

 聖獣によって好みが違うことを考慮し、ダァンは数種類の野菜を用意していた。

「キャベツ……ズッキーニ……いや、サツマイモか?」

 一つずつ野菜をカバンから出して脇に置き、最後にサツマイモを取り出した時、横から変な音が聞こえた。

 ザクッ! モシャ、モシャ……

「え……?」

 恐る恐る横を向く。

 ザクッ! モシャ、モシャ……

 地面に置いたキャベツを食べている巨大な聖獣。
 大きな顔の中央には尖ったツノ。サイ、…のようだ。ただしかなり大きい。
 サイはキャベツを食べ終わると、隣にあるズッキーニもくわえて拾う。

 パキッ モグモグ……

 ズッキーニは育ちすぎないように気をつけて収穫したものなので小さめだ。
 育ちすぎると大味になるのだ。小さいが瑞々みずみずしくなめらかで味が良いはず。
 それを一口で食べている。
 ダァンがあっけに取られて固まっていると、

 アーング…バキッ ムグ、ムグ、ムグ……

「ちょ、ちょっと!!!」

 あろうことか、手に持ったサツマイモまで食べ始めた。
 聖獣に手から食べ物を与えるのは契約の儀式だ。
 白い光がダァンとサイを包み込む。

「うわああああぁぁぁ………っ」

 光が落ち着いた時、ダァンはすでに契約がされたことに気がつく。
 顔を上げると、巨大なサイがニタァと笑うのが目に入った。


   ◇ ◇ ◇


「すげえええええ!!!」
「見ろよ、アレ!」
「誰? 誰が契約したの!?」

 ダァンがサイを連れて学院前の転移魔法陣から出ると、辺りの人々がどよめいた。
 カチュアのクロコダイルも大きかったが、ダァンのサイもかなり大きい。体長は劣るものの体高は遥かに勝る。
 聖獣に気づいた学生達が次々と集まって来る。
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