18 / 40
ウソの形
しおりを挟む「カチュア、見て! あの聖獣! あんなに大きい!」
「あらホント。サイ、かしら?」
「キュ! キュッキュキュー!」
「よし、見に行こう!」
転移魔法陣の前で大勢に囲まれた聖獣を見つけたライゼル達は、新しい聖獣を見ようと走り寄る。
その巨体に見とれながら近くへ寄ると、
「うっ…」
「…あ!」
サイを従えているのはダァンだ。
お互いに相手に気付き、気まずく目をそらす。
「キュ?」
「ライゼル?」
「ね、もっと近くで見ようよ」
「もう見たからいい。訓練してくる。2人はゆっくり見てくれば? 行くぞ、チビ助」
「キュ、キュウ~?」
早足にその場を離れるライゼル。
「まったくもう!」
カチュアが腰に手を当てて大袈裟なため息をつく。
集まった学生達は列を作って順番にダァンのサイを見物していた。
ニーナとカチュアもその列に並ぶ。
順番が来た。
サイは通常よりも一回り大きく、背中の皮膚の一部が角質化して鎧のようになっている。
「ホント大きいわね。それにとても大人しいわ」
サイを撫でながらカチュアが感心する。
「カチュアのクロコダイルは暴れたって?」
「ちょっと興奮しただけよ。あの子、人と遊ぶのが好きなの」
ちょっとどころではなく、実際は大暴れだった。
クロコダイルにしてみたら、うれしくて「ちょっと」はしゃいだ程度だったのだが。
「ライゼルも来れば良かったのにね」
「俺が立派な聖獣と契約したからくやしいんだろ」
「ダァン!」
「もう…仲直りしなよ。あんなに仲が良かったのに」
「あんなヤツだとは思わなかった。あんなウソ言ってさ」
不機嫌な顔で吐き捨てる。
「ゴールドドラゴンのこと? ワザとじゃないって言ってたじゃない。ライゼルは聖獣を攻撃したりしないよ」
「あたしも、思いっきり手を広げたら弟にぶつかっちゃって、『殴られた~』って泣かれたことあるわ~。だから他人事じゃないんだよねぇ」
「………お前ら、あの話は聞いてねーの?」
「「あの話って?」」
ニーナとカチュアは怪訝そうな顔をする。思い当たる節がないらしい。
(ジークに殺されかけたって……俺にしか話してないのか?)
あんなバカバカしい話。
同情狙いの、その場しのぎのいい加減なウソさ。
そう、きっとそうに違いない。けど…
「ニーナは自分の伝説種が襲われるかも知れないとは思わないの?」
「ライゼルに?」
「だってアイツ、伝説種持ちを逆恨みしてるかも知れないだろ?」
ジークがそれとなく注意喚起したため、一部ではもうそれが常識のように語られている。
「全然、思わないわ」
笑顔で答えるニーナ。
「…ライゼルの事、信じてるんだな」
「ううん。私が信じてるのは、私のペガサスなの」
「え?」
「もしも危険な人ならペガサスには分かるでしょ? 聖獣は人の心の動きを感じるらしいから。でもね、ペガサスはライゼルの事、少しも怖がらないの。だから私も怖くない」
「で、あたしはと言うと、ニーナを信じてるってわけ!」
ニヒヒ…と笑いながら、カチュアがニーナの肩を抱く。
「聖獣を見せてくれてありがとう。後ろと代わるね。じゃ!」
そう言ってニーナとカチュアは見物の列を離れていった。
◇ ◇ ◇
「たぶん、希少種だな」
ダァンが連れて来たサイを診察した聖獣医が告げる。
野生の聖獣が病気にかかっていることはほとんどないが、契約直後には念のために診察する。そして身体の特徴などを記録して登録するのだ。
聖獣舎に専用のスペースを与えられたサイは相変わらず大人しくしている。
「健康に問題はない。ただし、かなりの年齢かも知れん」
「え?」
思ってもみなかった情報に戸惑う。
「じーさん聖獣って事ですか?」
「そう。普通、人間に興味を示して契約に応じるのは若い個体が多いのだが…、これはそこそこ歳を取ってるんじゃないかと思う」
聖獣の歯を調べながら先生が言う。
「肉体は青年期と比べるとやや弱ってるかもしれん。しかしその分、知恵が付いているだろう。もしかしたら複数の魔法が使えるかもしれん」
「へ、へえー」
「歳を取ってると言っても人間の寿命より長く生きる可能性もある。それにこの巨体だ。そんじょそこらの聖獣には負けんだろうよ。充分に見事な成果だ。やったな、ダァン!」
「はい!」
良かった。
これでみんなに笑われることはないだろう。
先生が帰って行くと、代わりにクラスメイト達が押し寄せた。
「すごいよ、ダァン!」
「こんなに大きな聖獣を…」
「大変だったろう?」
「ま、まあね」
みんな興味津々だ。
「どうやって見つけたの?」
「何か秘策はあるの?」
「エサは何?」
なんて答えよう。
きっとみんな、面白い話を期待してる。
そうでなければ役に立つ話だ。
ありのままの、つまらない話をしたらガッカリされるかも知れない。
何の努力もしないで聖獣と契約したズルい奴だと陰口を叩かれないだろうか?
せめて何か……ちょっと気の利いた……英雄譚のような、ワクワクドキドキするような演出の………
《 それは、ウソではないのかね? 》
「!?」
かすかな声。
ドキリとしたが、それきりだ。
他に聞こえた人は居ないらしい。
空耳か…?
それでも少し後ろめたくなり、見栄を張って作り話をする気はどこかに消えてしまった。
「いやあ、それがさぁ。エサをカバンから出して確認してたら、コイツが来て食い始めてさぁ」
「あはは……なんだそれ」
「よほど気に入られたんだな、ダァン」
「聖獣に好かれるヤツっていいよな~。うらやまし~」
「え?」
俺のこと?
それは俺がライゼルに対して感じていた事じゃないか。
他人からは俺もそう見えるのかな?
あの白いオオジカにやろうとしたエサを食われちまって、聖獣に嫌われてる?とすら思ったのに。
「ぐ、偶然だよ」
複雑な気分のまま返事をする。
ふと、視線を感じた。
隣にいる老サイがダァンを見つめていた。
澄んだ瞳で、………ただ静かに。
0
あなたにおすすめの小説
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。
しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。
絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。
一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。
これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる