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聖者の会合
しおりを挟む「これはこれは…、ようこそいらっしゃいました」
アトラ聖獣学院院長マクスウェル・モーミトは、聖教会からの正式な使者を迎えて舞い上がっていた。
マクスウェルには、唯一神ゼナスを信仰する善良な市民としての自負がある。
しかし『神々の島』のアトラ聖獣学院を任されてからというもの、どうにも落ち着かない後ろめたさがあった。
『神々の島』は古の神の力が残る島。異教の地だ。
その地で職に就くということは、自らの「正しい信仰心」を疑われるのではないか?
アトラ聖獣学院は歴史のある学舎ではあるが、他の学校の校長達には異端の者と見下されているのでは?と悩みもした。
しかしながら、自分の代でゼナス神に使える勇者を輩出できるとは……これ以上の喜びはない。
「ゼナスの使徒」が学院を訪れたのは、既に発表のあった【勇者】の称号授与の件であろう。「ゼナスの使徒」は聖教会のトップである法王猊下直属の使者だ。
「連絡を頂ければこちらから伺いましたものを。わざわざお出で下さるとは…恐縮です」
握手を求めて近づく院長には目もくれず、使者は部屋の奥へと進む。
「ゼナスの使徒」は俗世間から切り離された存在だが、学院長よりもはるかに高い地位を持つ。
全ての国、全ての民は唯一神ゼナスを崇める「ゼナスの子ら」であり、「ゼナスの使徒」は彼らにゼナス神の御言葉を伝える導き手なのだ。
身に纏うのは質の良い白いローブ。地模様のある白い生地に金糸で刺繍と縁取りをしてある。
手に持つ杖はゼナス神の知恵と威厳を示す象徴だ。
使者は院長室の壁際にあるゼナス像の前まで進み、音もなく振り返る。
「ゼナス様より光がもたらされました」
十二人いる「ゼナスの使徒」の一人であるパスハウナスが厳かな声で告げる。
「“金の竜と共に光に包まれし者、残されし島に降り立つ。そは世界を救う勇者なり”」
「おおお!」
院長は感激のあまり涙を流し始める。
『残されし島』とは、『神々の島』の別の呼び名。回りくどい文章だが、この島に勇者の資格を持つ者が現れるという意味であろう。
「金竜と契約したジーク・シュトラウドは非常に優秀な学生です。入試も中間試験もトップで品行方正、周りの信頼も厚く、その上ゴールドドラゴンを手に入れました。彼こそ勇者にふさわしい! 彼は必ずや偉業を達成し“栄光”に包まれるでしょう!」
興奮する院長の言葉にパスハウナスが満足そうにうなずく。
「聖教会では勇者のバックアップをと考えている。慈悲深いゼナス様が子らを守るために遣わされたのですから。ああ、ゼナス様の寵愛を受けし聖なる子。学院も全世界に向けて勇者の存在を誇示して頂きたい」
「それでは、今年の卒業試験を新生勇者のお披露目の場とするのはどうでしょう?」
院長は毎年行われる卒業試験に思いをはせた。
卒業試験では学生達の聖獣を集めて能力を競わせる。記録を競う競技だけでなく実戦形式の対戦もある。
卒業を前にして、学生達は実力主義の容赦ない選別に晒されるのだ。
元々、各国の軍隊や各種組織が卒業生の実力を知るためにこっそりと見学に来ていた。いや、聖獣保護のための支援金の額に応じて特別に招待していた。
今年はそれを大々的に行おう。世界中から人を呼び、大規模な競技会のような試験を行うのだ。
ゴールドドラゴンを持つジークが優勝するのは間違いない。
そして自分はその指導者として歴史に名を残す。
ジークの父親のシュトラウド伯爵から頼まれて彼には目をかけてきたが、これからも一層、彼の指導に努めよう。
「卒業試験は聖獣士としての能力を測るためのもの。勇者の実力を世界に示すまたとない機会になりましょう!」
院長が力強く言い切る。
数秒、思案したパスハウナスが追加の提案をする。
「ならば卒業試験の表彰式に続けて勇者の称号授与式も行うのはどうですかな?」
「願ってもない事です! さっそく手配いたしましょう!」
「ゼナス様のお導きに感謝を」
今夜は是非ご一緒に会食でも…と追いすがる校長を振り切り、パスハウナスは校長室を後にした。
「ゼナスの使徒」は忙しい。
久しぶりに「勇者」が現れたのだから、世界各国からの寄付を集めて回らなければ。
入場料……いや、善意の寄付金が必要な特別礼拝も企画しよう。
勇者のサインやゼナス様の御印の入った「霊験あらたかな」グッズも配布せねば。
もちろん一定額以上の寄付のお礼に…。
勇者を迎える準備で今以上に忙しくなることを思い、パスハウナスは笑みを浮かべた。
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