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跳ねるウサギ
しおりを挟む「よーっし、あと一周~っ」
「キュ、キュウウ~!」
ライゼルの言葉に、チビ助は返事をしながら軽く跳ねる。
訓練の基本は体力!
まずは軽い運動で体をほぐして走り込みだ。
ライゼルとチビ助は聖獣用の訓練場を走り続ける。
アトラ聖獣学院には学生が体育で使用する運動場とは別に、聖獣と一緒に運動できる訓練場がある。
聖獣を手に入れた学生はそこで聖獣を訓練し、卒業試験に備える。
一番派手なのは魔法攻撃訓練ゾーンだ。安全のために防衛魔法陣で囲われている。
「【火炎弾】!」
契約主の学生の指示で青いキリンが炎の塊を放つ。
だが標的の方へは向かわない。
「あっ」
炎は勢いよく斜めに飛んで行き……隣のブースとの間の防衛魔法陣に阻まれて無効化される。
「狙いが甘い! よそ見するんじゃない!」
「モーウ」
「もう一度いくぞ」
聖獣と連携プレイが可能な域まで訓練しないと卒業試験で上位入賞は難しい。
魔法を使える聖獣は有利だが、自然界ではそれほど戦略的な戦闘は行われない。特に『神々の島』では聖獣同士の食うか食われるかの戦いが少ない。
肉食獣でも学生の育てた魔力入り野菜で生きていけるため、他者を襲わないものもいるからだ。
そのため、特殊能力を持つ聖獣であっても訓練しなければ使い物にならない。
アトラ聖獣学院の後期は、聖獣を捕まえるだけでなく鍛え上げる期間でもある。
「お。ニーナとハスティノンがいるぞ」
「キュウ?」
「ほら、あそこ」
奥の方の区画に白く目立つ姿。ニーナを背に乗せたペガサスだ。
空に駆け上がり空中で輝く翼を広げる。
「【氷針波】」
一陣の風と共に細い氷柱が次々と地面に突き刺さる。
さすが伝説種。最初から範囲攻撃が使えるのか。
(あれ?)
今、通り過ぎた所の奥にダァンが居た気がする。
ダァンが契約したのはサイだったはずだ。サイって、【突撃】とか【踏み鳴らし】とかを使う物理攻撃系じゃなかったかな?
う~ん、気のせいか。
「ブモーーーッ」
「キー、キーーッ!」
「ブルルル……」
物理攻撃訓練ゾーンでは、重量級の聖獣達がひしめき合う。
こちらは魔法訓練と違って暴走による被害が少ないため、個別に区切られてはいない。
ライゼルは走り込みを終えて訓練する場所を見つくろう。
ここは広いスペースに複数の聖獣が入り、合意の上でなら模擬戦も可能だ。
乱取り訓練中の集団がいくつかあるが、それを避けても充分な広さがある。
とはいえ、譲り合って使うのがルールなのだが…
「おいライゼル、邪魔だ」
「どけっ」
「ウゼえ」
ライゼルが使う場所を決めて立ち止まると、いつも何かと絡んでくる3人組が割り込んで来る。
その後ろにはゴリラ・バッファロー・トラの聖獣が並ぶ。
「はあ? 空いてる所を使えよ」
「俺達の聖獣は大きいんだ。お前と違ってな」
「ウサギの訓練に広い場所は必要ないだろ」
「走り込みなら他でやれよ」
「準備運動だよ。これから使うし?」
「うるせえ」
「口答えすんな」
「あっちの隅っこでも走ってろよ」
わめき立てる3人に合わせて後ろの聖獣達も牙を剥いて威嚇する。
言い返そうとして、ふと気づいた。
訓練は別にここでやる必要はない。身に付けばいい。
現に、カチュアはよく水場まで出かけている。
それに卒業試験は確かフィールドでの実技形式のはずだ。
『神々の島』のほとんどは開発されてない大自然なので足場が悪い。木が多く視界も悪い。訓練場とは大違いだ。
なら今から現地で訓練すればいいだけじゃね?
「わかった。じゃあな」
俺が背を向けると3人は勝ち誇ったように笑う。
訓練場は、野生の聖獣が入り込まないように高いフェンスで囲まれている。
「キュウ!」
ひと声鳴いて、チビ助が頭に飛び乗る。
俺はチビ助を頭に乗せたままフェンスに向けてまっすぐに走る。
「そうそ。ウサぴょん野郎は惨めったらしくフェンスの横でも走って………ぬあ!?」
「チビ助」
「キュ!」
走りながら声を掛け合う。
俺たちの体が光に包まれ、頭の上のチビ助の姿は消える。と同時に黒いウサギの耳が生える。
一歩一歩が長く力強く変化してスピードが上がる。
フェンスの手前で強く踏み切り、ジャンプ!
10mはあるフェンスを一気に飛び越える。
【同化】
聖獣士と聖獣が強く心を通わせた時、その体と力が一つに溶け合う。お互いの能力を共有するだけでなく、相乗効果でそれ以上の力を発揮できる。
今のはウサギの身体能力を生かしたもの。
訓練場にいた学生達が後ろで大騒ぎしている。
「森の奥の方で訓練しようぜ。秘密の特訓っぽくていいだろ?」
(キュ、キュ!)
チビ助のやる気が伝わってくる。
この跳躍力はスゴイが、まだ実戦に活かせる程には慣れていない。バランスを崩しやすいのだ。どんな体勢でも対応できるように鍛えないと。
それに卒業試験までには「あの技」を使いこなせるようにしたい。
そして、
………実力でジークを見返してやる!!!
俺達はもう一度、思いっきりジャンプした。
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