神々の島の聖獣士〜勇者に聖獣を奪われて殺されかけた俺を助けてくれたのは小さな黒ウサギでした〜

浅間遊歩

文字の大きさ
21 / 40

努力の価値

しおりを挟む

「だいぶ増えたわね」

 聖獣舎内を見渡したニーナがつぶやく。
 馬、ワシ、狼、ゾウ、孔雀、イノシシ……、多種多様な聖獣が並んでいる。
 どれも今年の学生が契約したものだ。

「肉食獣と草食獣が入り混じってんのはシュールよね~」

 あははと笑うカチュアの感想にニーナも笑う。

 聖獣同士は契約者マスターの指示なしに争うことはない。逆に言えば、暴れたり逃げ出したりする聖獣は契約者が未熟と判断される。
 また、契約者のいる聖獣には元々の生息域の環境を整える必要はない。全て同じ環境下で飼育でき、エサも見た目に関係なく何でも食べる。必要なのは契約者との【つながり】だ。
 そのため、聖獣舎の中はまるで脈絡のない動物園か生物図鑑のようだ。

 ニーナのペガサスとカチュアのクロコダイル、二匹の区画は隣同士。
 クラスメイトに場所を変わってもらった。
 どうせなら聖獣の世話をする間もおしゃべりしたいからという理由で。

「今年は例年いつもより大掛かりな卒業試験になるらしいね」

 学期が残り三ヶ月を切り、自然と卒業試験が話題に登る。
 聖獣士を目指す学生は聖獣と契約すれば終わりではない。卒業前に厳しい卒業試験が待っている。
 成績優秀者には世界各国から熱心な勧誘が来る。
 卒業試験の成績が一生を決めると言っても過言ではない。
 カチュアは寝そべるクロコダイルの背中をデッキブラシで洗いながら話を続ける。

「世界各国からお客さんが大量に来るんだってサ」

「そうなの?」

 ペガサスのたてがみをいていたニーナが聞き返す。

「今までは『学生や聖獣は見せ物ではない』って外部の見学をほとんど断わってなかった? それにスキルOKの対戦もあるから危ないよ」

「う~ん、前から情報公開しろって文句言われてたみたいだし……あ!」

 聖獣舎に入って来た人影に気づいたカチュアが声をひそめて断言する。

「原因、分かった」

 入って来たのはゴールドドラゴンを腕に抱いたジークと院長のマクスウェルだ。
 院長は上機嫌でジークに語りかけている。

「ジーク君、いや、勇者ジークよ! 全世界が君の活躍に期待しているよ」

「皆様のご期待に添えるよう頑張ります」

「うむ、頼むよ。卒業試験の表彰式に続けて称号授与式も行うことになったからね。夜は祝賀パーティーがある。西の大国ストラツファからは国王陛下を始め各方面の代表者が来る予定だ。他の国からも大使などが来られると思う。そうそう、今年は優勝者にかなりの賞金が出ることになったよ。寄付が集まってね。今から使い道を考えておいてはどうかな? はっはっは…」

 すでにジークが卒業試験でトップを取ったかのような言い方だ。
 ニーナとカチュアは目立たないように目配せしあって苦笑いする。

伝説種レジェンドのゴールドドラゴンが選んだ相手ですもの。優勝すると思われてて当然かな?)

 院長のはしゃぎっぷりに辟易へきえきとしながらもニーナがそう考えた時、

「フン!」

 ペガサスのハスティノンが不満げに鼻を鳴らした。

「グルゥ…」

 クロコダイルのプルアが不機嫌そうにうめく。

「ギイーッ」
「パオッ」
「ウウウゥ…」

 周囲の聖獣達がざわめく。
 身じろぎしたり、小さくうなったり、足を踏み鳴らしたり。
 にわかに聖獣舎の中が騒がしくなる。

「ど、どうしたの?」

 ニーナはあわててペガサスの顔を見た。
 目が冷たく燃えている。

(怒っている…?)

 首筋をなでてやると落ち着いたのか静かになる。他の聖獣達もしばらくしたら大人しくなった。
 院長は聖獣達の突然の反応に驚いたようだ。

「今のは…?」

「問題ありません、院長。どうもゴールドドラゴンの存在が周りの聖獣達を怖がらせてしまうようなんです。そろそろ慣れてもらえたらと思うのですが…」

 ジークの視線に気づいたニーナがふと見ると、ペガサスはジークが抱えているゴールドドラゴンから顔をそむけている。

「うむ。ゴールドドラゴンは最強の聖獣だからな。彼らも格の違いを感じるのだろう」

「では院長、ゴールドドラゴンを引き続き学生寮の自室内で世話しても構いませんか?」

「その方が良さそうだな。先代勇者のゴールドドラゴンも専用の小屋で世話をされていたと聞く。エサは部屋の方に届けよう」

 どうやら勇者様は院長から聖獣のエサをもらっているらしい。
 島を出たら普通の動物と同じ飼料を買って与えてもいいが、島にいる間は自分で育てた野菜を聖獣に食べさせるのが学院の規則のはずだ。
 でも、ズルイとは思うがうらやましくはない。
 自分で育てた作物を聖獣に食べてもらうのは楽しい。
 手間はかかるけど、その分、聖獣との【つながり】が強くなるような気がするから。

「ファニーナ・テラス!」

 急に院長に名前をよばれた。

「はい!?」

「君、島にパーティドレスを持って来ているかね?」

「は、はい」

 畑仕事や聖獣探索には必要ないが、学生は最後の卒業パーティのために精一杯のオシャレ着をひと揃い持って来ている。
 ニーナのは瞳に合わせたラベンダー色のドレス。純白のペガサスと並べば良く映えるに違いない。

「うむ。君にも卒業試験後の祝賀パーティーに出席してもらいたい」

「祝賀パーティーに出られるのは上位8名までですよね。入賞できるよう、頑張ります」

「いや、そうではなく。今年の伝説種レジェンドは今のところ、彼のゴールドドラゴンと君のペガサスだけなのだ。招待客がぜひとも伝説種レジェンドを間近で見たいと言っていてね」

「え?……でも…」

「ファニーナ。これからもそういう機会は多いと思う。伝説種レジェンド持ちの宿命さ」

 笑顔のジークも説得に加わる。

「お偉い方々の接待は面倒と感じるかもしれないが大事な役割でね。それに見返りも多い。同期の中で二人だけとなれば、この先、一緒に行動する機会も増えると思うよ。君のような美しい人なら大歓迎だ」

 そう言うとジークはニーナの近くまで来て耳元でささやいた。

「君さえ良ければ私生活も一緒で構わないけど?」

 一瞬、何を言ってるのか分からなかった。

 ………私生活?
 私とジークが?
 すてきな王子様を夢見たことはある。けれども、

(…これは違う…)

 少しもうれしくなかった。
 お前を特別扱いをしてやる、と言われたのだ。
 自分と聖獣を捧げて見返りを受け取れ、と。

 みんなが伝説種レジェンドに憧れるのは分かる。見てみたいと思うのも。
 希少種レア伝説種レジェンドでは、聖獣の能力がケタ違いだから。

 それならその能力に期待して欲しい。
 優遇してもらうために伝説種レジェンドを手に入れた訳じゃない。

 お前の努力なんか要らない・求めてない。ただの飾り物になれ。
 堂々とそんな事を言う人とは一緒に居たくない。
 少なくとも私生活では。

「ご心配ありがとうございます。でも私、実力で祝賀パーティーに参加しますわ」

 ニッコリと微笑みながらニーナは告げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

処理中です...