神々の島の聖獣士〜勇者に聖獣を奪われて殺されかけた俺を助けてくれたのは小さな黒ウサギでした〜

急がば回れ

　バサッ

　上空で翼の音。

「遅くなってごめんなさい」

　さわやかな声と共にペガサスが舞い降りる。ニーナだ。ペガサスのハスティノンの背に乗っている。
　すっかり飛行が上手くなったな。

　俺とクオが森の中で訓練してるのを聞いて、カチュアとニーナも来るようになった。カチュアは川で水中の機動力を上げる訓練をしてからここに来る。ニーナが来るのは昼だ。
　伝説種レジェンド持ちのニーナは今年の学生代表としての仕事が増えた。ゴールドドラゴンを持つジークと一緒に対外的な広報として活動するのだ。身分の高い貴人との交流も予定されてるので行儀作法の勉強もあるらしい。
　午前中にそれらの勉強を終えるとすぐに全員分の弁当を学食からここまで運んでくれる。

「今日はスモークチキンのサンドイッチよ。レタスと玉ねぎ、オリーブも入ってる」

「おおっ、うまそっ！」

「ハニーマスタードのソース！　あたし大好き！」

「クオも同じだけどいい？　肉、食べられるようになった？」

「はい！　ありがとうです！　お肉に感謝していただきます！」

　訓練を中断して昼飯だ。
　魔法で出した水で手と顔を洗い、ついでにうがいも。
　着地に失敗したり茂みに突っ込んだりして結構土砂を食ってるからな。危うく毛虫が口に入りそうにもなった時には、全力で避けたおかげで空中での姿勢変更のコツをつかんだ。

「いつも悪いな」

「いいのよ。予定があるので、って言って余計な誘いを断れるし」

「お礼に……今日はカボチャだ！」

　俺は背負いカバンからカボチャを取り出して渡す。
　ハスティノン用にはスライスしたヤツ、プルア用には丸ごと。

「人間やチビ助はこっちな」

　里芋の葉に包んだカボチャを出す。蒸して食べやすい大きさに切ってある。

「キュキュッ！？」

　急に元気になって飛び起きるチビ助。

「「「「　いっただっきまーす！　」」」」

　うむ。おいしい。
　アトラ聖獣学院の学食はレベル高いよホント。
　学食は『神々の島』で唯一の食堂なので、時と場合によっては世界中から訪れる高官を迎える迎賓館にもなる。そのために腕の良いスタッフを雇ってるのかもしれない。

「はむはむはむ……」

　何の音かと思ったら、チビ助が蒸したカボチャを一切れ抱えて食べている。

「うまいかー？」

「はむはむはむはむ……」

　ウサギの歯には柔らかすぎたかも。すぐに食べ切って次の一切れに手を伸ばす。

「はむはむはむはむはむ……」

「ははっ。今度はチビ助の分、生で持ってこようか？」

「はむはむはむはむはむはむ……」

「………おーい？」

「はむはむはむはむはむはむはむ……」

　何かおかしい。夢中で食べてると言うより、必死で食べている。

「はむはむはむはむはむはむはむはむ……」

「お、おい。もう止めろ、チビ助。どうしたんだ？」

「キュウウウウゥ～」

　口いっぱいにカボチャを頬張ったチビ助が苦しそうに俺を見上げ、それからプルアを見た。

　バキッ　ゴキッ

「んまぁ～～…」

　人語にも聞こえるようなため息をつきながら豪快にカボチャを丸かじりしている。
　食べ終わると散らばってる種を拾ってカチュアに渡す。

「何？　うちの畑に植えるの？」

　ウンウンとうなずくプルア。

「よっぽど美味しかったのね。ハスティノンも喜んで食べてるよ」

「食べ応えがあったんでしょ？　プルアあんたよく食べるもんねぇ」

　燃費が悪い！とプルアのほっぺを拳でグリグリするカチュア。

「体が大きいもんな。たくさん食べて大きくなったんだろ」

「キュキュ！！」

　それ！、と俺の発言に反応して指差すチビ助。

「え？　何だって？」

「分かったですよ、ライゼル。ウサギさんは、い～っぱい食べてプルアみたいに大きくなりたいんです！」

「キュ！」

　勢いよくうなずくチビ助。

「ご飯をいっぱい食べて大きくなって、ライゼルのために強くなりたいんです」

「はあ～？」

「むう～………キュ！」

　どう見てもお腹いっぱいなのに、またカボチャに手を伸ばすチビ助。

「ばっか」

　チビ助をカボチャから引き離して抱き上げる。

「無理して食ったって急に大きくなんねーよ。腹を壊すだけだぞ？」

「ムキュウ～？！」

　大ショックを受けた顔がおかしい。

「ウサギさんは本当にライゼルのことが好きなんですね」

「体の大きさなんか気にしちゃダメ。男は度胸！」

「あ、でも、私達も『チビちゃん』って呼んじゃってるから…」

「なあチビ助。チビ助って呼ばれるの、嫌いか？」

　ふるふると首を振るチビ助。

「大丈夫。俺達、ちゃんと強くなってるって。毎日一緒に訓練してるから分かる。あせらず一緒に強くなろうぜ、相棒！」

「キュウ～～～」

　目に涙をにじませて俺の胸に飛びつくチビ助。


　ーーーその後、盛大にカボチャを吐き戻した。