神々の島の聖獣士〜勇者に聖獣を奪われて殺されかけた俺を助けてくれたのは小さな黒ウサギでした〜

浅間遊歩

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運命の誓い

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 先輩と赤熊の戦闘は10分以上も続いた。
 見ているだけで体力がなくなりそう。

「ウガアアアアアァ……ッ」

 赤熊の激しい威嚇にも先輩はひるまない。
 根気よく熊の攻撃を避け、受け流し、防御し、反撃する。
 この一年、いやその前の年も、ずっとこんな対戦を続けてたんだろうか?
 そりゃ貫禄が出るわけだ。赤熊先輩はまだ学生なのに、何度も死線をかいくぐった戦士の風格がある。

 ガキッ!

 赤熊の爪が立木の幹を深くえぐる。
 先輩が避けたため、魔力の乗った【熊の爪ベアークロー】が後ろの木に炸裂したのだ。

 ベキベキベキベキ………

 亀裂が広がり自重で倒れる。直径20cmはある木が倒れてくる。
 細いとあなどるなかれ。水分をたくさん含んだ生木は重い。直径10cmの木だって直撃すれば怪我をする。
 倒れる方向を見定めて移動しなくちゃ………あ!

「危ない!」

 よそ見をしてるクオを抱えて横っ飛びに移動する。

「何してんだ。気をつけろ!」

「あ……アレ……」

 青ざめたクオが指さしたのは、

 グルゥ……
 フフーン
 キィ……

 周囲を聖獣に囲まれていた。
 聖獣舎にいる聖獣達とは雰囲気が違う。どの聖獣もスキがない。キツい目をしている。
 今のところは襲ってこないが、そちらに寄るのは怖い。けれども先輩達に近づいても危ない。
 俺達は中途半端な位置に留まることになる。

「グオオオオオオッ」

「はあああっ……せいっ!」

 ドガッ

 先輩の気合を込めた突きが赤熊をかすって地面をえぐる。
 赤熊は技を止める代わりに先輩本体を狙って技の方向ベクトルを変化させた。すげえ。参考になる。何も強い攻撃を真正面から受け止める必要ないもんな。
 地面に埋まっていた大きな石がこっちに飛んでくる。その軌跡を見極め、クオを抱えてジャンプして避ける。

「! すまん!」

「気にしないで思う存分戦ってください先輩。こっちは自分で何とかしますから!」

「おう!」

 戦いは徐々に激しくなり、大技も増えてきた。
 この戦いは先輩が不利だ。
 攻撃と言っても、例えば、首を切り落とす様な武器や魔法攻撃は使えない。
 目的は赤熊をテイムすることであって倒すことではないからだ。
 と思ったが、どうやら赤熊も先輩を殺したいのではないらしい。
 目潰しや金的などの急所狙いはしてこない。
 これは、どちらが強いかを決める戦いのようだ。
 結果、互いに相手の体力と戦闘能力を削いでいく持久戦になる。
 先輩は片足を引きずっているが、赤熊も利き腕の動きがおかしい。だが、

 ザシュッ!

 ついに赤熊の鋭い爪が先輩をとらえ、鮮血が飛び散る。
 しかし次の瞬間、赤い巨体が宙に舞う。

竜巻掌打トルネードアッパー!」

 絡みつく竜巻が赤熊を持ち上げ、地面に叩きつける!
 魔法と物理の複合技だ!

「グフウッ」

 脳震盪を起こしたのか、赤熊は立ち上がらない。

 ガウ!

 試合を見ていた狼が吠えた。

 ブヒッ

 カウントダウンのように猪が鳴く。

 ンモーッ

 野牛が試合終了の時を告げる。

「勝者! 赤熊先輩!!」

 俺が思わず宣言すると、

「うおおおおおおおおっ」

 キイッキイッ
 ブモォオオオ…
 パアオッ
 ワオーン…
 ブヒッブヒッ

 辺りは野生の歓声に包まれた。
 周りの聖獣達は先輩達の勝負を観戦していたらしい。
 人間ならば拍手喝采、スタンディングオベーションと言ったところか。
 中には不満そうな聖獣もいるが、おおむね、勝者への賛辞を惜しまない態度だ。

「先輩!」

「おう。勝ったぞ」

 駆け寄ると、先輩は笑顔で応えた。けれども額を切っていて大出血。顔が血まみれだ。ただでさえゴツい顔がスプラッタ!

「せ、僭越せんえつながら【治療ヒール】をかけさせていただきます」

 先輩の肩に触れ、治療魔法を使う。授業で習う簡単な手当て魔法ではなく、チビ助由来の【高度治療ハイヒール】だ。
 血が止まり、アザが消えてゆく。

「おお、こいつぁスゴイ!」

「へへへ。のスキルです」

 俺は頭から垂れ下がる黒い耳をちょいと持ち上げて見せる。

「だったら大将の治療も頼めないか?」

「え?」

 大将って、あの赤熊!?
 驚いて振り返る。
 全体が赤いから目立たないが、裂傷から出血もしているようだ。

「大丈夫。勝負はついたから、今日はもう襲って来ない」

 恐る恐る近づいてみると、赤熊はまだ気絶していた。
 手を伸ばし、いつでも逃げられる体勢で、

「【高度治療ハイヒール】」

 見る見る傷が塞がってゆく。聖獣にも効くんだな。

「…………フグォッ!?」

 回復した赤熊が意識を取り戻した。
 あわてて逃げ………ると動物の闘争心を刺激するので、顔を向けたままゆっくりと後ずさる。

「大将! 俺の勝ちだ。コレを受け取ってくれ」

 先輩は荷物から取り出したリンゴを差し出す。

「リンゴ!?」

「大将に食ってもらおうと、去年から育てている」

 先輩は照れ笑いする。
 確かに時間をかければ学生が果樹を育てるのも可能。
 よほど丹念に世話をしているのだろう。おいしそうなリンゴだ。
 これで先輩も契約できるな。

「ウウウウウウウ……」

 だが、赤熊は気に入らないようだ。

「グワッ、ガアアッ! グガアアアアアッ!!」

 攻撃しては来ないが怒っている?

「『またか! お前は勝ったのに、なぜ奪わぬ?!』」

 後ろから声がした。クオの通訳だ。
 赤熊は先輩の行動が納得いかないらしい。

「『奪うのは勝者の権利! なのに何故、与えようとする!? ナワバリも食い物も全てお前の物だ。俺をバカにしているのか?』」

 悔しそうに叫ぶ赤熊のうなり声を通訳するクオ。

「そんな…。それでいつも受け取ってくれないのか?」

 ………いつもって……。
 この巨大な赤熊を素手で倒したのは初めてじゃないんすね?、先輩。

「熊さん、違うんです。先輩が欲しいのはナワバリじゃないんです」

「そうだ。俺が欲しいのはお前だ、大将! 俺の聖獣になって、一緒に島を出てくれないか?」

 熱烈なプロポーズのようなセリフ。
 アルダの森の聖獣達は、長く人間との交流がなかったために、聖獣士やその契約について忘れてしまったようだ。クオが説明すると低くうなりながら考え込む。

「ウグウ……」

「大将。俺はいついかなる時もお前と共にあることを、今ここに誓おう!」

 赤熊は剣の取れた真摯しんしな目で先輩を見つめ、やがてその前に伏せた。
 ゆっくりと先輩に顔を寄せ、手に持ったリンゴの匂いを嗅ぎ、牙を立てる。

 シャクリ!

「おおっ!!」

 先輩と赤熊が光に包まれる。
 光が消えた時、そこには契約に結ばれた聖獣と聖獣士がいた。
 お互いを今までよりも深く理解し、共に生きる運命さだめを受け入れたふたり。


 ちなみに、赤熊の恐怖から目をそらそう・逃げようとするチビ助を意識で押さえ込んでいるうちに、俺は【恐怖耐性】のスキルを身につけたのだった。
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