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聖獣召喚
しおりを挟む「整列!」
先生の号令が校庭に響く。
「これより、アトラ聖獣学院卒業試験を始める!」
観客席より盛大な拍手。
去年までは体力測定のような味気ない試験だったそうだが、今年は華やかだ。
一部の裕福な学生の保護者や卒業生の実力を調査に来た団体職員、聖獣を研究している学者や報道関係の記者もいる。
貴賓席には世界各国からの要人を始め、アトラ聖獣学院の名誉顧問であるストラツファ国王の姿まで。
卒業試験というより世界規模の競技大会のようだ。
楽隊が奏でる音楽に合わせて学生達が列を組んで移動する。
聖獣はまだここには居ない。昨日から聖獣舎の中だ。
学生達が所定の位置につくのを見届けると、司会進行役の先生が指示を出す。
「それでは、それぞれ自分が契約した聖獣を呼び寄せてください」
遠く離れた場所から心の声で聖獣に指示を出す【念話】。聖獣士の基本中の基本の能力だが、これを使いこなせるかテストする。
校庭から聖獣舎まではかなり離れている。大声を出しても届かない。
そこで【念話】で語りかけ、聖獣と感覚を共有し、今いる場所まで誘導して呼び寄せる。
最低限それができなければ、卒業は許可されない。
やがて、空に二つの星が現れた。
輝く星は見る間に近づいて来る。
先を飛ぶ金の星はゴールドドラゴン、後ろの白く輝く星はペガサス。
2体の伝説種が校庭に舞い降りる。
これは恐らく演出だろう。
この最初の試験は到着までの時間を競うものではない。制限時間内に聖獣士の元まで聖獣がやってくれば合格になる。
だから招待客へのサービスとして、伝説種をゆっくり観られる時間を作ったに違いない。
だってチビ助が『まだ聖獣舎の扉が開いてない』って言ってるし。
飛んできたゴールドドラゴンは着陸する前にジークに抱きとめられた。
地面に降り立ったペガサスは、翼をたたみながら恭しくニーナに首を寄せる。
校庭が歓声と拍手に包まれる。招待客だけでなく先生や学生達も大喝采だ。
司会進行の先生が2体の伝説種の解説を始める。
ゴールドドラゴンを見たのは久しぶりだ。まだあの複雑な模様のついた兜をかぶっている。
半年近く前に洞窟で会った時とはだいぶ印象が違うな。
司会進行は『鋭い視線と引き締まった体』なんて表現してたけど、なんだかやつれたような……。
大丈夫かな?
あの時みたいにイジメられてないよな?
伝説種の紹介が終わると、今度こそ本当に聖獣を呼び寄せる試験が始まった。
聖獣舎の扉が開けられ、聖獣達が一斉に走り出す。必死になるチビ助のあせりが伝わってくる。
俺の畑なら場所をよく知ってるから転移移動できるけど、知らない場所には転移できないそうだ。
(無理すんな。他のやつに踏まれんなよ? ゆっくりでいいって。大丈夫)
チビ助の奴、疾走する馬の集団と張り合ってやがる。
(キュウ! キュウキュ!)
やだ走る!、かよ。他の聖獣に負けたくないらしい。
俺もチビ助だけなら何を言ってるか理解できる。
(しょうがねえな。じゃあ……)
ちょっとしたアイデアを試してみるようアドバイスする。
やがて校庭からも馬の集団が見え始めた。やはり馬は早い。
校庭には何本もの白線が引かれ、マス目に区切られている。
学生は割り当てられた区画から出てはいけない。【念話】と契約の絆で聖獣を呼び寄せるのだ。
「どうどう。マックス、こっちだ!」
「アルミエル! 来てくれてありがとう!」
次々と馬の聖獣が主人を見つけて駆け寄っていく。その中の一匹が俺の近くを走り抜けた時、小さな黒い塊が飛び出した。
「キュッ!!」
ポーンと弧を描いて俺の頭の上に飛び移る。チビ助だ。
「へへ……うまくいったな。先頭集団だぞ」
「キュキュ!」
うれしそうだ。
馬の足元を走り続けていては危ないから、どうせなら飛び乗ってしまえとアドバイスしたのだ。
ただのウサギには無理だが、契約済の今のチビ助なら可能だろう。
俺と能力を共有してるから視力は充分、身体強化魔法でジャンプ力もアップ。枝から枝へ連続で飛び移る訓練もやったから、きっとできると思った。
チビ助は俺の頭にしがみつき、ほっぺをスリスリしてくる。
昨日から会えなくて寂しかった、だって。
くそ。可愛いこと言いやがって。
「キュウ~」
ホッとしたら腹が減ってきたらしい。
でも髪の毛は食うなよ?
まだハゲたくない。
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