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第二試験

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 次の第二試験は目的地までの移動を競う耐久競技だ。
 去年までの5kmより大幅に伸びてルールが少し変わった。
 一斉にスタートしていくつかのチェックポイントを順番に回り、最後はセザンテ高原にある特設会場へ。途中はどんな経路でも構わない。地形を読み、聖獣の特性に合わせて通りやすいルートを選択するのも聖獣士の役割だ。

 スタート地点はアトラ聖獣学院の正門前。すでに大勢が並んでいる。
 この場所に聖獣を連れた学生を立たせると、背景に正門と校舎が入って写真の構図が決まる。最前列の中央では、ジークとニーナを左右に立たせた院長が写真撮影に応じている。もちろん伝説種レジェンド達も一緒だ。

 俺は係員に案内されて列の後ろに並ぶ。
 カチュアとプルアはだいぶ前に居るな。……ダァンとサイも。
 一瞬、ダァンと目が合った気がしたがそれきりだ。

 スタートまでは、まだ少し時間がある。
 係員から渡された地図を見て移動ルートを考える。
 チェックポイントは全部で三カ所。チェックポイントにたどり着くと次の場所を教えてもらえる方式だ。
 最初のチェックポイントは森の中。直通の道はない。というより地図にマークがあるだけで正確な位置は分からない。
 地図魔法とも呼ばれる【位置測定ロケーション】を持ってる学生は有利だな。自分の現在地が測定できれば探索も楽だ。俺は持ってない。
 そういった聖獣士自身の能力も込みでの試験なのだ。
 俺は俺の能力を活かして挑戦するとしよう。

「「「 うおおおおお~~!! 」」」

 観客の歓声にハッとする。
 地図とにらめっこしてる間にジークのスピーチが始まっていた。
 卒業試験なのに、何故にスピーチ。
 すでに「アトラ聖獣学院の卒業試験」ではなく「勇者ジークが参加するイベント」扱いだ。

「勇者さまーっ」
「世界を頼むぞーっ」
「ジーク! ジーク!」
「キャー、素敵~っ」

 あーはいはい。
 学院や学生に全く関係ない観客が大勢いるようだ。ツアー客を引率するための旗を持ったガイドさんもいる。
 このアトラ聖獣学院卒業試験観戦ツアーはかなり高額だとのウワサ。
 それでも勇者がじかに見られるとあって倍率が相当高かったらしい。

 ジークは勇者としての責任を果たそうとしてゴールドドラゴンが必要だったんだろうか?
 そんな感じじゃなかったけど。てか殺されかけたんだけど!
 思い出したらムカムカしてきた。
 でも、そうまでして欲しかったゴールドドラゴンなんだろ?
 頼むから大切にしてやってくれよ。
 フラッシュを浴びるジークが腕に抱えたゴールドドラゴンは、なんだかひどく苦しそうに見える。

「ライゼルーっ!」

 勇者を讃える歓声に混じって俺を呼ぶ声がする。
 そちらを見ると、人混みをかき分けてこちらへ向かってくるクオがいた。

「ライゼル! ………っ、……… 」

 聞こえない。周りの音が大きすぎる。
 クオも言葉で伝えるのはあきらめたようだ。持っていた旗を広げて見せる。
 そこにはチビ助と俺の似顔絵に「がんばれ!」の文字。
 あと2本、ニーナとカチュアの分もあるようだ。2人にはもう見せたのだろう。俺は遅くなったから心配させたのかもしれない。
 親指を立てて「了解」を伝える。
 チビ助も頭の上で跳ねている。

用意レディ…」

 拡声器から先生の声。
 辺りはシンと静まり、緊張が走る。

 ドン!

 青空に向けて空砲の音。
 聖獣と聖獣士が一斉に走り出す。
 第二試験が始まった。
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