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お先に失礼
しおりを挟む目指すは第一チェックポイント。
「お先に失礼」
それはもはや煽りだろう!っていう丁寧な挨拶と共に、ペガサスに乗ったニーナが空に舞い上がる。
話しかけようとしていたジークは置いてきぼりだ。
「やれやれ。先を越されたな。それでは皆さん、また後で」
そう言ってジークは姿を消す。ゴールドドラゴンを抱えたまま。
やはりジークは【隠形】スキルが使えたんだな。
途中で邪魔されないように姿を消して進むつもりか?
ファンがコースに入ってきて追い出すのに手間取ってたしな。
俺もチビ助と【同化】する。
頭からウサギの長い耳が生え、瞳は紫水晶色に。
この方が動きやすい。チビ助の聴覚での状況確認も、【念話】で教えてもらうより自分で聞いた方が早い。
移動する学生と聖獣の群れは、まず大きく二つに分かれた。
まっすぐチェックポイントに向かうグループと、港の方へ向かうグループ。
どっちかが正解というのではない。それぞれの戦略だ。
港周辺から島の外周へは舗装された道路が続いている。主に蹄のある馬などがそちらへ向かった。走りやすい舗装路で距離を稼いでからチェックポイントへの最短距離だけ森を抜ける作戦らしい。
舗装路を遠回りするメリットが少ない聖獣達は直線コースで森に突入する。
「グオオオッ」
背中に赤熊先輩を乗せた大将が吼えると周りの聖獣達が道を開ける。
木々をなぎ倒しながら進んでゆく大将。
やっぱりアルダの森育ちは迫力が違うな。
俺もとりあえず直線コースで行こう。…と動き出した時、
ドガッ!
後ろから突き飛ばされた。
「ってぇ~?」
振り返ると見覚えのあるバッファロー。
「ああ? 小さいから見えなかったぜ」
大きなバッファローの背から見下ろしているのは、いつも何かと突っかかってくる三人組のうちの一人だ。
むっかあ!
絶対、ワザとだろ!
「分をわきまえて、ゆっくり歩いて来るんだな。……目障りなんだよ!」
バッファローの上から吐き捨てるように言う。
土塊を後足で蹴りつけ、俺たちにぶつけながら駆けていく。
「うわっ、ペッペッ…」
くそ。
俺は周囲を見回し、高い木の枝に向けて飛び上がる。
ザンッ! ザンッ!
混雑した地上ではなく枝の上を渡ってゆく。
質と太さを見極め、着地の衝撃で折れない枝を選ぶ。重さでたわんだ反動をバネのように使って加速する。
バッファローに追いついた。
前方の木々を見比べ、良さそうな位置にある枝に着地。やや細めの枝が深くたわむ。
「な……ッ!」
バッファローの上の男子学生と目が合う。突然、樹上から現れた俺に驚いている。
俺はニィと笑って枝を蹴る。
バシィ…ッ!
跳ね返った枝が男子学生を打つ。
「うぎゃっ!?」
ビックリしてバッファローから転げ落ちたようだ。
「覚えてろー!! ………!!」
何か喚いてる。
俺は振り返らず、そのまま枝の上を進む。この方が楽だ。
下には聖獣達の行列。大きな希少種が多い。
軍隊に入るのでも冒険者になるのでも、機動力があれば有利だ。
そのため、背中に乗れる馬や大型聖獣の人気が高い。
しかし雑木や雑草の多い森の中ではせっかくの機動力を活かしきれないようだ。
赤熊の大将が木々をなぎ倒してできた道を列になって移動している。
(キュ?)
「ん?」
チビ助が異変を聞きつけたのと、俺が人だかりを見つけたのは同時だった。
前方がザワついている。
よく見ると、森が途切れている。
そこには川があった。
かなり幅が広く、深そうだ。
地上に降りて周りの話を聞くと、赤熊の大将が先輩を乗せたまま川に突っ込んだという。
が、足を取られて流されたらしい。
数十メートル下流に這い上がった跡がある。
「どうする? 突っ込むか?」
「いや、あのクマでも流されるんじゃ……」
「溺れたらマズイよな」
「鷹使いによれば数百メートル上流に橋が見えるそうだ」
「迂回する?」
「チェックポイントまであと少しだぞ?」
「急がば回れって言うし……」
行動を決めかねているようだ。
近づくと、中の一人が目ざとく俺を見つけて声を荒げた。
「何、盗み聞きしてんだ! あっちへ行け!」
連れているゴリラの聖獣が河原の石を投げてくる。
よく見れば嫌がらせをしてくる3人組のひとりだ。
「聞いてんのか? あっちへ行け!」
聞いて欲しいのか欲しくないのかどっちだよ。
あきれながら川に近づく。スピードを上げる。
「おい!?」
強く踏み切って向こう岸までジャンプ!!
見事に着地する。
「お先に失礼」
丁寧に挨拶してから先に進む。
「こらー! 抜け駆けすんなー!」
…あのな、卒業試験だぞ?
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