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余計な詮索
しおりを挟む港に停泊している一隻の船。周囲の船舶よりひと回り大きい。
西の大国ストラツファの公用船だ。
アトラ聖獣学院の卒業試験を観戦に来たものだが、その内側では現在、秘密裏に会談が行われている。
窓のない船室。豪華な内装で利用者の身分を彷彿とさせる空間には、一人の若者が招かれていた。
「キミには期待しているよ、ジーク・シュトラウド君。いや、勇者殿と呼ぶべきかな? 大切な卒業試験の最中に時間を取らせて悪かったね」
恰幅の良い年配の男性が年若い客に笑顔で話しかけている。
「いえ、ロコネル国務大臣。こちらこそ。忙しいスケジュールを縫ってご足労いただき、ありがとうございます」
完璧な優等生の仮面のままジークは微笑む。
スタート地点で【隠形】で姿を消したジークは【飛翔】でその場を離れ、【異界通路】で人知れずこの船にやって来た。
【異界通路】は、地理的連動のない異界への転移をはさむ事で遠く離れた場所へ一瞬で移動するスキルだ。
そのスキルの研究により転移魔法が発明された。その魔法技術は島の各地に設置されている転移魔法陣にも使われている。
術式を刻印した魔晶石をセットすれば【異界通路】が使える魔動機の出来上がり。
今では手の平サイズの魔動機があれば誰でも転移魔法が使える。ただし恐ろしく高価なため、一般人が気軽に使えるような物ではないが。
ジークも自前でスキルを持っているのではなく、魔動機を利用した。
スタート地点の近くに大臣の配下があらかじめ隠しておいた物だ。
「今日はキミの卒業後について話をまとめておきたいのだ。どこよりも早く、ね。国王陛下からもよろしくと頼まれている。キミにとっても悪い話ではないハズだ」
「そこまで買っていただけるとは光栄です」
ジークの膝の上にはゴールドドラゴンがおとなしく伏せている。全長1m程だが本物のドラゴンだ。複雑な模様の付いた兜を被っている。
手で背中をなでられているようにも、押さえつけられているようにも見える。
話の焦点は勇者ジークの所属についてだ。
歴史上、何人もの勇者が存在したが、彼らはそれぞれ別の場所から現れ、異なる組織に所属していた。
世界各国の軍隊に聖教会の聖騎士団、魔法学者が集まる魔法院。何代か前には身分の低い一介の冒険者が勇者となったこともある。
魔族との全面戦争になれば人間側は力を合わせて合同軍で戦うことになるのだが、勇者がどこの所属であるかは、戦後に大きく世界情勢を塗り替える。
世界の再生の際に勇者が所属している国や組織の発言力が増すためだ。
冒険者だった勇者は、その功績で領土を得て国王となった。
そのため、どの国・どの団体もいち早く勇者に接触し取り込むことを目指している。
ストラツファ王国の国務大臣・ロコネルは、他国より一足早く勇者と接触するためにこの会談を準備した。
頭の固い勇者であれば、このようなやり方を毛嫌いしたかも知れない。だが、新生勇者は従順な好青年であった。
話し合いの途中、適当な時間になるとジークは席を外す。
チェックポイントの近くに転移し、チェックを済ませ、また姿を隠してから船に戻ってくる。
会談の合間に卒業試験の体裁を整えているのだ。
どうせ勇者が優勝するのだから、試験にかかる時間を有効利用させてもらおう。
「我が国の軍隊に所属してもらえれば…、いや、国王直属の役職を用意しよう。もちろん充分な手当てが出る。必要な物も可能な限り準備を…」
「失礼します!」
そこへノックと同時に黒服の男が駆け込んで来る。
「何だね? 不調法な…。話が終わるまで邪魔をするなと言ったはずだが?」
「緊急事態です。ジーク様は今すぐ試験会場にお戻りください」
「何かあったのか?」
「不正行為を疑われる学生が出たため、卒業試験全体の監視が厳しくなると連絡がありました。指定区域以外では【異界通路】が使えなくなります」
「何だって?」
「正確には、【異界通路】の使用波動が全て記録されます。使用者は特定され、その用途について問いただされます」
「それはマズイな。この会談は外部に知られたくない」
「絶対に不正の証拠を押さえるのだと試験本部と院長が息巻いていまして。監視体制に切り替わるまであと5分。お急ぎください。今なら試験会場に【異界通路】でお送りできます」
「勇者殿。続きはまた今度……急ぎたまえ」
「はい、大臣。失礼します」
「ジーク様、予定より少し早いですが第三チェックポイント付近に転送します」
「頼む」
ジークはゴールドドラゴンを抱えたまま姿を隠す。その状態で差し出された魔動機に触れ、【異界通路】で移動する。
一体誰が試験で不正を?
それに、わざわざ追求するなんて余計な事を……
伝説種以外の順位なんてどうだっていいじゃないか。
あと少しで破格の条件の就職が正式にまとまるところだったのに。
ジークは第三チェックポイントが見える高台で静かにため息をついた。
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