神々の島の聖獣士〜勇者に聖獣を奪われて殺されかけた俺を助けてくれたのは小さな黒ウサギでした〜

浅間遊歩

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決断の一歩

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 マイペースで歩くサイを見ながら、ダァンはため息をつく。
 このままでは、とても上位入賞は望めそうにない。
 でも…

 第一チェックポイントに向かう学生と聖獣がひしめく森の中、ダァンは老サイと一緒に歩いていた。
 学院周辺と違って道らしい道もない。
 大小様々な木や雑草が生い茂り、思うように前に進めない。
 周りを蹴散らしながら進むような聖獣持ちはとっくに先に行ってしまった。
 ウワサの赤熊先輩が連れてた赤い熊は凄かった。邪魔な木はへし折り、引き倒し、放り投げ、踏みつけて進んで行った。
 自分にはとてもマネできない。
 そういう性格じゃないし、連れてる聖獣も年寄りだ。無理はさせられない。

 ザッ ザッ ザッ…

 後ろから変な音が聞こえてくる。

(…何の音?)

 何気なく見上げたその瞬間、


 ザンッ!!


 頭の上を人影が飛び越えて行く。枝から枝へと飛び移っている。
 混雑していて歩きづらい地上と違い、かなりの勢いで他の聖獣を追い抜いていく。
 気がついた時には後ろ姿だったが、頭からたなびく長い耳。アレは……

(…ライゼル!?)

 ライゼルだ。あんな長い耳を持つ黒髪の学生はライゼルだけだ。
 スタート地点で最後列に並ぶライゼルを見た時、ダァンは複雑な心境だった。
 いくら何でも遅すぎると心配し、やっぱりウサギじゃダメだったのかと………少しホッとした。
 最初からダメだと分かっていれば、変な期待をしないで済む。
 必死で努力して笑い物にされてるライゼルを見るのはつらかった。
 もうあきらめたらいいのに。
 そうしたら、仲直りできる気がした。
 でもライゼルはあきらめなかった。
 高く跳べるからって何になる?と笑うクラスメイトを相手にせず、ずっと訓練を続けていた。
 そして今、彼はダァンやクラスメイトの頭の上を超えて行った……

「おい、立ち止まるなよ」

「悪ィ」

 後ろから押されてまた歩き出す。

「今の、すごかったな」

「え? 何?」

 後ろの学生は樹上のライゼルには気づかなかったらしい。
 笑って誤魔化して前を向く。
 第一チェックポイントの方向へ列ができている。
 このままでは、ずっとこの順番のままだ。ライゼルのように追い抜いて順位を上げる方法はないものか?
 そう考えた時、サイが急に進む方向を変えた。
 列から離れ、斜めに進んでゆく。

「おい、そっちじゃない」

 ダァンが駆け寄ってサイに並ぶ。

「おうい。戻れって」

 サイはチラリとダァンを見たものの、そのまま別の方向へと進んで行く。

「待てよ!」

 巨体の老サイはかなりのスピードで歩いて行く。歩きにくい森の中だが前に聖獣の渋滞がなくなったからだろう。このままでは元の列に戻るどころか置いてかれそうだ。

「待てってば!……うわっ!?」

 太い木の根に足を取られ、ダァンは盛大にすっ転ぶ。
 サイは振り向きもしないで歩き続ける。

 聞こえてないのか?
 歳のせいで耳が遠いとか。
 もっと大声を出すべき?
 でも……

 考えているうちにサイは行ってしまった。
 もしかして、俺に愛想をつかして元の湿原に帰ってった…?

 ああ、まただ。
 いつも考えているうちに事態が悪い方向へ転がってく。
 よく考えて良い結果を出そうと思ってるだけなのに。
 だって……


 だって、……嫌われたり怒られたりは嫌だから。


 でも結局一人ぼっちだ。
 ダァンは力なくうずくまった。

 そうだ。
 本当は自分が傷つきたくないだけなんだ。
 ずっと考えているんじゃなくて、決めないだけ。

(俺は……意気地なしの卑怯者だ)

 ライゼルの話が本当かどうか、ジークに確かめる勇気もない。
 騙されてるのでも、みんなと同じでいれば楽だから。

 ライゼルにもっと詳しい話を聞こうともしない。
 聞いてしまったら、自分の責任で判断しなければならないから。

 判断して、それで?
 ライゼルの方が正しいと自分の結論が出てしまったら、俺はそのために戦えるだろうか?

 みんなにバカにされて笑われたら、きっとものすごくつらい。
 でも……自分にウソをつき続けるのはもっと嫌だ!
 ライゼルともう一度話をしよう。
 もっとよく聞いて、周りを見て、自分のために判断しよう。
 間違ったり、人と違ったらヘタレそうだけど……

(ならば、我がおぬしの鎧となろう)

 小さな、凛とした声が響く。

(おぬしの心を守り、寄り添い、共に戦おうぞ)

 顔を上げると、そこには見慣れた老サイがたたずんでいた。
 戻ってきてくれた!
 今のは…サイの声?

「お前、話せるのか!?」

 ダァンが走り寄ると、サイは驚いたようだ。

(では我も聞こう。『おぬし、聞こえるのか?』と)

「今までも話しかけてた?」

(うむ。反応がないから、てっきり聞こえてないものと…)

伝説種レジェンドじゃないと会話はできないと思ってた」

 このサイはかなりの年齢としに違いない、と聖獣医が言っていた。
 何十年もの間に知性と能力を身につけたのかもしれない。
 自分の先入観が目を曇らせ、耳を塞いでいたのだろうか?

「何で俺と契約してくれたの?」

(おびえて途方に暮れとる子供を放って置けなくてな)

「そこまで酷くなかったろ?」

(心は泣いておったわい)

 そう言われると否定できない。
 確かに、ライゼルとのケンカで精神的にかなりダメージを受けていた。
 友達が次々と聖獣と契約する中であせっていた。
 まるで自分だけが取り残されたかのように、心細くなっていたかも。

「もう! 大げさだよ」

(我が、共に、おるぞ)

 そう言いつつ、サイが顔を寄せてくる。
 会話できるようになったのがうれしくてたまらないらしい。

「お前って、結構おしゃべりだったんだな」

 ダァンはサイにしがみついた。
 大きな体。
 何だかホッとする。

(さあ、急ごう。川向こうのとやらに向かうのだろう?)

「川? だから方向を変えたのか?」

(橋を渡るならコッチじゃ。おぬしが我の背に乗ってくれれば川を突っ切ってもよいのじゃが…)

「ええ!? お爺さんにおんぶしてもらうなんて、できないよ!」

(なんと!)

 サイはかなりショックを受けたようだ。

(だから我に乗らぬのか。どうもよそよそしいと思ったら、年寄り扱いされておったとは!)

 ふんす!と鼻息も荒く、サイは前脚を折って背中を下げ、ダァンに乗るようにとうながす。

(ここは、おぬしに我の力を見せつけねばならぬわい。はよう乗れ。遅れを取り戻すぞ!)

 サイはダァンを背中に乗せると、普段の様子からは想像もできない力強さで走り始めた。
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