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第三章 天空のカルラ
語るに落ちる
しおりを挟む「おい、大丈夫か?」
「ケガは!?」
エレナと一緒に来たのだろう、ゴッツさんとケイさんが投げ落とされた男に駆け寄る。男がゴッツさんに支えられたのを確認したカルラは私の方を向き、話を続ける。
『ちと聞き忘れた事がありましてな。急いで家まで行ったものの、入れ違いになったようですじゃ。が、こやつら、家人の留守を良いことに盗みを働いておりましたぞ』
「え?、泥棒!?」
私の言葉にギョッとする男。カルラの言葉を理解できないゴッツさん達は怪訝な顔をしている。
「この人達、うちに入った泥棒だって!」
もう一度、大声で説明する。みんなに聞こえるように。
「ごごご誤解だ。俺は…」
『ほれ、そこの、胸に抱えた袋の中に盗んだ物が…』
「その袋に盗んだ物が入ってるって、カルラが…」
全部伝える前にエレナが男から袋を取り上げる。中を確認すると、現金と魔晶石、それに魔法薬のビンが何本も出てきた。ビンには黒猫印のハンコを押したタグが付いている。
それを目ざとく見つけたラルが毛を逆立てる。
『あ——っ、俺の!!!』
「これは……!?」
魔法薬のビンを突きつけられた男は、ヘラヘラと薄笑いを浮かべる。
「言いがかりだ。どこにでもあるモンじゃねーか。婆さんは魔法薬を薬屋に卸してるだろうが。それは俺が店で買ったんだ」
「馬鹿。コレはあたしが作ったヤツじゃない」
おばあちゃんも魔法薬を手に取り、黒猫印のタグに気づいて断言する。
ケイさんとゴッツさんもおばあちゃんの手元の薬ビンを見てうなずく。
「これはこれは。我らが大変お世話になった黒猫印の魔法薬ではないか」
「たぶんミーナちゃんの最新作だな」
エレナが投げ落とされた男の胸元をつかみ、ねじり上げる。
「作った本人とアタシ達パーティしか持ってない自家製の魔法薬だよ。規格に合わなくて店では売ってないヤツだ。どこで買ったって?」
「ええ? ウソだろ? てっきり婆さんのかと……チッ」
男は逃げようとするが、状況を理解した冒険者達に取り囲まれ逃げ道はない。
ドゴッ!
「うぎゃ!」
「ぐえっ」
逃げようとした男の上に二人目の男が降って来た。もちろんカルラのしわざだ。
「【麻痺】」
ケイさんがすばやく唱えると、男達は固まったように動かなくなる。
「お巡りさん!、こっちです!」
誰かが呼んだらしい。人垣が分かれ、制服を着た警官が近づいて来る。
魔獣に現行犯逮捕の権利があるかどうかで軽く揉めたが、黒猫印の魔法薬について説明を受けた警官は男達に任意同行を求め、とりあえずギルドの二階にある小部屋で事情聴取が行われることになった。
『確かに渡しましたぞ。それではまた明日!』
「え? あ、うん。捕まえてくれてありがとう。バイバーイ!」
役目は終わったとばかりに帰ってゆくカルラを見送り、大きく手を振る。
すっかり見えなくなった頃に、肩の上のラルが思い出したようにつぶやく。
『で、アイツ、聞きたいことって、なんだったんだ?』
「あ」
どうもカルラはそそっかしい性格の様だ。
十分後にまた飛んで来たりしなければいいけど…。
周りでは、あっけに取られたままの冒険者達が固まっていた。
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