祝福の果てに断罪された悪役令嬢ですが?

きららののん

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冷たく湿った石壁に囲まれた牢獄。

かつて公爵令嬢として、絹のドレスに身を包んでいた私には相応しくない場所だ。

それでも、私は汚れ一つない所作で、硬い椅子に腰を下ろしていた。

鉄格子の向こう側から、慌ただしい足音が近づいてくる。

「エリアナ! 無事か!」

現れたのは、私の兄であるカインだった。

魔導騎士団の制服を乱し、血相を変えて駆け寄ってくる。

「お兄様、お騒がせしております。ご覧の通り、私は元気ですわ」

「こんな時に冗談を言うな。セドリック殿下はどうしてしまったんだ。あの場にいた騎士たちの話では、まるで人が変わったようだったと……」

カイン兄様は、憤りに拳を震わせながら私を見つめた。

「お兄様。セドリック様の瞳を、ご覧になりましたか?」

「ああ、妙に濁っていた。普段の彼なら、あんな根拠のない罪状を信じるはずがない」

私は静かに頷く。

やはり、私一人の勘違いではなかったのだ。

「リリア・ノエル。あの女が、何かに関わっているはずです」

「リリアか……。実は、気になる報告がある。彼女が通り過ぎた後、兵士たちの様子がおかしくなるという噂があるんだ。誰もが彼女を盲目的に崇め、守ろうとする」

「……それは、魔法ではありませんか?」

カイン兄様はハッとしたように目を見開いた。

「魅了、か。だが、王宮には強力な対魔障壁がある。通常の魔法ならすぐに発覚するはずだ」

「それでも、あの異常さは説明がつきません。リリアの腕に縋られた瞬間、セドリック様の表情から意志が消えたのです」

私は牢の冷たい手すりを握りしめた。

胸の奥で、ドロドロとした怒りと、それ以上の情熱が渦巻く。

「お兄様、私をここから出してください。私は、彼をあのような偽物に奪われたまま、朽ちるつもりはありません」

「エリアナ……。お前の覚悟はわかった。幸い、父上も陛下も今回の断罪を正式なものとは認めていない。ただ、殿下の暴走を止めるには、リリアの『正体』を暴く必要がある」

カイン兄様が懐から一本の鍵を取り出す。

それは、ローゼンバーグ家に代々伝わる魔力遮断の触媒だった。

「これを持っていけ。一時的にだが、干渉を跳ね除けることができる」

「ありがとうございます。やはり、頼りになりますわね」

私は鍵を受け取り、ゆっくりと立ち上がった。

ドレスの裾を払い、暗闇の中で瞳を輝かせる。

「リリア・ノエル。あなたが何を企んでいるかは知りませんが……」

「……?」

「人の男を盗むなら、もっと賢くやるべきでしたわ。私、一度狙った獲物は絶対に逃しませんの」

その声には、公爵令嬢としての矜持と、一人の女としての執念が宿っていた。

「エリアナ、これからの計画はあるのか?」

「もちろんですわ。まずは、セドリック様の目を覚まさせて差し上げなくては」

私は不敵に微笑んだ。

「愛の鉄拳を食らわせに、王宮へ戻りますわよ」
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