祝福の果てに断罪された悪役令嬢ですが?

きららののん

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ローゼンバーグ公爵邸の地下にある、厳重に封印された魔導工房。

そこには、数多の古書と怪しく光る魔導具が所狭しと並んでいた。

私は兄のカインと向き合い、机の上に広げられた古い古文書を指でなぞる。


「お兄様、例の件はどうなりましたの?」


「ああ、調べがついたよ。リリア・ノエルが使っているのは、やはり『聖女の力』などではない。古の禁忌、精神汚染魔法『傀儡の吐息(パペット・ブレス)』だ」


カイン兄様が苦々しく顔を歪める。

彼は騎士団長であると同時に、国内屈指の魔導師でもある。

その彼が「禁忌」と断ずる魔法。

それがセドリック様の心を蝕んでいるのだ。


「『傀儡の吐息』……。聞いたことがありますわ。対象者の最も深い孤独や不安に付け込み、術者を唯一の救いだと誤認させる呪術ですね」


「その通りだ。セドリック殿下は、次期国王としての重圧を一人で背負おうとしていた。そこに付け込まれたんだろう」


お兄様は、一枚のスケッチを机に置いた。

そこには、淡く光る青い宝珠が描かれている。


「この術を解くには、術者の魔力を直接打ち消す『浄化の極光』が必要だ。そして、それを発動させられるのは、我が家に伝わる『ローゼンバーグの涙』しかない」


「あの、代々の当主のみが触れることを許される宝珠ですわね」


「そうだ。だが、あれは強大な魔力を秘めている。並の人間が触れれば、精神が焼き切れる。エリアナ、お前……」


カイン兄様の瞳に、強い不安が過る。

私は迷わず、兄の言葉を遮った。


「お兄様。私はセドリック様の婚約者です。彼が地獄にいるのなら、私がそこまで引きずり戻しに行かなければなりませんわ」


「……お前のその頑固さは、昔から変わらないな」


「頑固ではなく、愛ですわ」


私は自信満々に言い放ち、扇子をパンと閉じた。


「リリアは今、自分を聖女と認めさせるために、一週間後の即位式を狙っています。そこで殿下との結婚を公表し、完全に実権を握るつもりでしょう」


「即位式か。あそこは結界が張られている。魔導具を持ち込むのは至難の業だぞ」


「ですから、正攻法で行きますわ。お兄様には、騎士団の内部からあの女の不審な動きを監視していただきます」


私は立ち上がり、窓の外を見上げた。

どんよりとした空が広がっているが、私の心は一点の曇りもない。


「私は、あの女の『魅了』が効かない人間を集めます。幸い、あの女の傲慢な態度に嫌気が差している者たちは大勢いますわ」


「敵を孤立させるつもりか?」


「ええ。外側から包囲し、逃げ場を失わせたところで、その心臓部――セドリック様を奪還します」


カイン兄様はしばらく沈黙していたが、やがて諦めたように笑った。


「わかったよ。お前の騎士として、最高の舞台を用意しよう」


「期待しておりますわ、お兄様」


私は机の上の古文書を閉じ、固い決意を胸に秘めた。

待っていてください、セドリック様。

泥棒猫に付けられたその首輪、私が木っ端微塵に砕いて差し上げますわ。
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