祝福の果てに断罪された悪役令嬢ですが?

きららののん

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即位式まで残り三日。

王宮内は、建国以来の騒がしさに包まれていた。

といっても、それは祝祭への期待ではなく、一人の女の我が儘に振り回される人々の悲鳴だ。


「もっと派手なドレスを用意しろと言ったでしょう! こんな地味な布、雑巾にでもしてしまいなさい!」


王宮専属の仕立て屋が、真っ青な顔で立ち尽くしている。

リリア・ノエルが床に投げ捨てたのは、最高級のシルクに真珠を散りばめた、王太子妃に相応しい逸品だった。


「ですが、リリア様……。これ以上の装飾は、伝統ある儀式の品格を損なう恐れが……」


「うるさいわね! 私は聖女なのよ? 私がルールなの! 殿下に言いつけて、あなたの工房を潰してあげましょうか?」


リリアのヒステリックな声が響き渡る。

彼女の周囲では、魅了の術にかかった数人の若手貴族たちが「リリアの言う通りだ!」と盲従していた。

私はその光景を、柱の影から冷ややかに見つめていた。


「……呆れたものですわね」


「本当ですわ、エリアナ様。あのような方が王妃になられたら、この国は終わりですわ」


私の隣で、扇子を強く握りしめているのは、侯爵令嬢のセシルだ。

彼女はリリアの魔法に抵抗力のある、精神力の強い令嬢たちの一人。

私はこの数日で、彼女たちのような「正気」を保つ味方を着実に増やしていた。


「セシル様、準備はよろしいかしら?」


「ええ。侍女たちのネットワークも、騎士団の若手たちも、皆リリア様の振る舞いに限界を感じています。あとは、きっかけさえあれば……」


「ふふ、きっかけなら私が作りますわ。最高に華やかで、残酷なきっかけを」


私は優雅に歩みを進め、リリアの前に姿を現した。

リリアは私を見るなり、勝ち誇ったように鼻を鳴らす。


「あら、また負け犬のエリアナ様じゃない。残念でしたわね、即位式への招待状、あなたには届いていないでしょう?」


「ええ、届いておりませんわ。何しろ、私が招待する側ですもの」


「はあ? 何を寝ぼけたことを言っているのよ」


リリアが嘲笑うが、私は動じない。

私は懐から、王家直系の印章が入った別の書状を取り出した。


「セドリック殿下が正気でない間、王宮の運営は王太后様と我がローゼンバーグ家が暫定的に管理することになりましたの。つまり、この王宮でのあなたの決定権は、今この瞬間から無効ですわ」


「な……なんですって……!?」


リリアの顔が、驚愕で引きつる。

私は床に落ちたドレスを拾い上げ、仕立て屋に手渡した。


「このドレスは素晴らしい出来ですわ。本来の持ち主――つまり、この国を愛し、誇りを持つ女性が着るべきものです」


「エリアナ、貴様ぁ! 殿下! セドリック様っ!」


リリアが叫ぶと、廊下の向こうからふらふらとした足取りでセドリック様が現れた。

その瞳は、以前よりもさらに深く、毒々しい紫色に染まっている。


「どうした、リリア……。誰が、お前を泣かせた……」


「エリアナ様ですわ! 彼女が私から権限を取り上げようとして……!」


セドリック様が私を睨みつける。

その視線には、かつての愛の欠片も残っていない。

けれど、私は一歩も引かなかった。


「セドリック様、そのままリリアを抱きしめていなさい。その温もりが、あなたの人生で味わえる最後の『偽り』になりますから」


「……黙れ。お前など、もう見たくもない」


「ええ、結構ですわ。三日後、あなたの目から鱗が落ちるその時まで、精々その女の毒に浸っているがいいわ」


私は冷たく言い捨て、セシルたちを連れてその場を去った。

背後でリリアが「処刑よ! 絶対に処刑してやるんだから!」と叫んでいる。

その声が大きくなればなるほど、周囲の貴族たちの目は冷めていく。


偽りの聖女。

その化けの皮が剥がれるまで、あと三日。

私の手の中にある『ローゼンバーグの涙』が、月明かりを反射して静かに、けれど激しく輝いていた。
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