13 / 30
13
聖堂の床が、生き物のように脈打ち始めた。
リリアが飲み干した液体の正体は、魔力を暴走させ、周囲の生命力を強制的に吸い上げる暗黒の秘薬だった。
「あはは、あはははは! 見て、見てよエリアナ! 私の力が、こんなに溢れてくる!」
彼女の背後から、影のような触手が幾本も伸び、聖堂の壁を次々と破壊していく。
悲鳴を上げて逃げ惑う貴族たちを、私は一瞥もせずにセドリック様の前に立った。
「セドリック様、私の背中に隠れていなさい。今のあなたは、まだ魔導抵抗力が戻っていませんわ」
「エリアナ……すまない、私は……君をあんな目に遭わせた私に、守られる資格など……」
セドリック様が、苦渋に満ちた表情で私のドレスの裾を掴む。
その手はまだ震えていたが、先ほどまでの虚ろな力強さではなく、生身の人間としての温もりが宿っていた。
「資格など、後でいくらでも作ればよろしいのです。今はただ、生きて私の隣にいることだけを考えなさいな」
私は扇子を掲げ、飛んできた瓦礫を魔力の障壁で弾き飛ばした。
「お兄様! 準備はよろしくて?」
「いつでもいけるぞ、エリアナ!」
聖堂の天井を突き破り、カイン兄様率いる魔導騎士団が突入してきた。
彼らは空中から一斉に拘束魔法を放ち、リリアの影を地面に縫い付けていく。
「なっ……何よこれ! 離しなさい! 私は聖女よ、王妃になる女よ!」
「王妃ではなく、ただの罪人だ、リリア・ノエル。隣国の禁術を用い、王族を害した罪、その身で購うがいい」
カイン兄様の剣が、鋭い閃光を放ちながらリリアの喉元に突きつけられる。
しかし、リリアの瞳から正気の色が完全に消え、真っ赤な狂気だけが残った。
「罪人? 違うわ……私を認めないこの世界が間違っているのよ……全部、全部壊しちゃえばいいんだわ!」
リリアの絶叫と共に、彼女の身体から凄まじい衝撃波が放たれた。
騎士たちが次々と吹き飛ばされ、聖堂の柱が派手な音を立てて崩れ落ちる。
「エリアナ、危ない!」
セドリック様が、咄嗟に私の身体を抱き寄せ、自らの背中で瓦礫を庇おうとした。
「……っ、セドリック様!」
「大丈夫だ……これくらい。やっと……君に触れられたんだ……」
背中に衝撃を受けながらも、彼は私を離さなかった。
呪縛が解け、剥き出しになった彼の本心が、その腕の強さから伝わってくる。
「……本当に、馬鹿な人。でも、そんなあなただからこそ、私は愛したのですわ」
私は彼の腕の中で、再び『ローゼンバーグの涙』に意識を集中させた。
リリアの暴走は、彼女自身の命を燃料にしている。
このままでは、彼女ごと聖堂が吹き飛んでしまう。
「泥棒猫さん。あなたの欲しがった『真実の愛』は、そんなに薄汚れたものだったのかしら?」
私はセドリック様の腕をそっと解き、狂乱の渦の中心へと歩み出た。
リリアが飲み干した液体の正体は、魔力を暴走させ、周囲の生命力を強制的に吸い上げる暗黒の秘薬だった。
「あはは、あはははは! 見て、見てよエリアナ! 私の力が、こんなに溢れてくる!」
彼女の背後から、影のような触手が幾本も伸び、聖堂の壁を次々と破壊していく。
悲鳴を上げて逃げ惑う貴族たちを、私は一瞥もせずにセドリック様の前に立った。
「セドリック様、私の背中に隠れていなさい。今のあなたは、まだ魔導抵抗力が戻っていませんわ」
「エリアナ……すまない、私は……君をあんな目に遭わせた私に、守られる資格など……」
セドリック様が、苦渋に満ちた表情で私のドレスの裾を掴む。
その手はまだ震えていたが、先ほどまでの虚ろな力強さではなく、生身の人間としての温もりが宿っていた。
「資格など、後でいくらでも作ればよろしいのです。今はただ、生きて私の隣にいることだけを考えなさいな」
私は扇子を掲げ、飛んできた瓦礫を魔力の障壁で弾き飛ばした。
「お兄様! 準備はよろしくて?」
「いつでもいけるぞ、エリアナ!」
聖堂の天井を突き破り、カイン兄様率いる魔導騎士団が突入してきた。
彼らは空中から一斉に拘束魔法を放ち、リリアの影を地面に縫い付けていく。
「なっ……何よこれ! 離しなさい! 私は聖女よ、王妃になる女よ!」
「王妃ではなく、ただの罪人だ、リリア・ノエル。隣国の禁術を用い、王族を害した罪、その身で購うがいい」
カイン兄様の剣が、鋭い閃光を放ちながらリリアの喉元に突きつけられる。
しかし、リリアの瞳から正気の色が完全に消え、真っ赤な狂気だけが残った。
「罪人? 違うわ……私を認めないこの世界が間違っているのよ……全部、全部壊しちゃえばいいんだわ!」
リリアの絶叫と共に、彼女の身体から凄まじい衝撃波が放たれた。
騎士たちが次々と吹き飛ばされ、聖堂の柱が派手な音を立てて崩れ落ちる。
「エリアナ、危ない!」
セドリック様が、咄嗟に私の身体を抱き寄せ、自らの背中で瓦礫を庇おうとした。
「……っ、セドリック様!」
「大丈夫だ……これくらい。やっと……君に触れられたんだ……」
背中に衝撃を受けながらも、彼は私を離さなかった。
呪縛が解け、剥き出しになった彼の本心が、その腕の強さから伝わってくる。
「……本当に、馬鹿な人。でも、そんなあなただからこそ、私は愛したのですわ」
私は彼の腕の中で、再び『ローゼンバーグの涙』に意識を集中させた。
リリアの暴走は、彼女自身の命を燃料にしている。
このままでは、彼女ごと聖堂が吹き飛んでしまう。
「泥棒猫さん。あなたの欲しがった『真実の愛』は、そんなに薄汚れたものだったのかしら?」
私はセドリック様の腕をそっと解き、狂乱の渦の中心へと歩み出た。
あなたにおすすめの小説
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
お姉さまは最愛の人と結ばれない。
りつ
恋愛
――なぜならわたしが奪うから。
正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。