祝福の果てに断罪された悪役令嬢ですが?

きららののん

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招待状を送ってから一週間後。


王宮の謁見の間に、招かれざる、しかし待ち望んでいた客が姿を現した。


ガルディア帝国特使、ヴォルガ・フォン・ザハール侯爵。


彼は帝国の軍服を完璧に着こなし、冷徹な笑みを浮かべて私たちの前に跪いた。


「この度は、セドリック殿下の即位を祝う記念式典にお招きいただき、我が皇帝陛下も深く感謝しております」


「……丁寧な挨拶痛み入る、ザハール侯爵。だが、随分と急な訪問だったな」


上座に座るセドリック様の声は、低く、威厳に満ちている。


隣に立つ私は、侯爵の背後に控える「従者」に目を留めた。


若く、異様なほどに魔力密度の高い男。


彼こそが、リリアの爆弾を処理するために送られた「解体屋」に違いない。


「おやおや、セドリック殿下。お隣にいらっしゃるのは、例の……断罪されたはずの公爵令嬢では?」


侯爵がわざとらしく首を傾げ、私に品定めするような視線を向けた。


「不敬ですわよ、侯爵。私は今、セドリック様の正統なる婚約者として、この場に控えておりますの。……それとも、何か不都合でも?」


私は扇子をゆったりと動かし、余裕の笑みを返した。


「いえいえ。ただ、我が国で保護していたリリア・ノエル殿が、貴国で『悪役』扱いされていると聞き、心を痛めておりましてな。彼女は帝国の恩人なのです」


「恩人、ですか。……他国の王子に禁忌の魔法をかけ、精神を汚染することが帝国の『恩』であるなら、随分と物騒な国ですわね」


私が突き放すと、侯爵の瞳が鋭く細められた。


「……証拠はあるのですかな? 彼女が我が国の指示で動いていたという、明確な証拠が」


「証拠なら、今まさに地下牢で『育って』おりますわ。彼女が飲み干した帝国の秘薬……あれが暴走すれば、この王都だけでなく、隣接する貴国の領土まで魔力汚染が広がるでしょう」


侯爵の顔色が、一瞬だけ動いた。


「……それは聞き捨てなりませんな。もしそれが事実なら、我が国としても看過できない。帝国の名誉にかけて、調査に協力させていただきたい」


「あら、心強いことですわ。……では、そちらの『魔導に詳しい従者』の方に、彼女の診察を任せてもよろしいかしら?」


私は確信を持って、侯爵の背後の男を指差した。


侯爵はしばし沈黙した後、観念したように肩をすくめた。


「……流石はローゼンバーグ家の令嬢。お見通しというわけですな」


「当然ですわ。泥棒猫を放した飼い主が、後始末のために首輪を持ってくるのを待っていましたの」


私はセドリック様と視線を交わした。


彼は静かに頷き、重厚な声で宣言する。


「いいだろう。侯爵、貴殿の従者にリリアの診察を許す。ただし、カイン・フォン・ローゼンバーグ騎士団長の監視付きだ。……妙な真似をすれば、即座に帝国の宣戦布告と見なす」


「承知いたしました。……クク、面白い。これほどまでに肝の据わった令嬢がいたとは」


侯爵は不気味な笑みを残し、地下牢へと向かう騎士たちに付き添われて退出していった。


嵐が、地下深くでぶつかり合おうとしていた。


私は、震える指先をドレスの影に隠し、深く息を吐いた。


「……エリアナ、大丈夫か?」


セドリック様が、そっと私の肩に手を置く。


「ええ。……ここからが、本当の正念場ですわ、セドリック様」


リリアを巡る「爆弾」の解体。


それは同時に、帝国との命がけの外交戦の始まりでもあった。
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