祝福の果てに断罪された悪役令嬢ですが?

きららののん

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湿った空気と、鼻をつく魔力の焦げたような臭い。


王宮の地下深く、厳重な結界に守られた最下層の独房へ、私たちは足を踏み入れた。


「……ひっ、あ、ああ……」


鉄格子の向こうで、かつての「聖女」は見る影もなく震えていた。


リリアの周囲には、物理的な闇が霧のように渦巻いている。


帝国の従者と呼ばれた青年――ジュリアンが、感情の欠片もない瞳で彼女を見つめた。


「……酷いものですね。秘薬の効果がここまで暴走するとは。調整不足の失敗作(テストケース)そのものです」


「失敗作ですって!? 私を、私を誰だと思っているのよ!」


リリアが叫びながら鉄格子に飛びつく。


しかし、ジュリアンの指先が微かに動くと、目に見えない衝撃が走り、彼女は無様に床に転がった。


「静かにしてください。今のあなたは、解析対象でしかない。……ザハール侯爵、作業を始めても?」


「ああ、構わん。ただし、この令嬢が言ったように、暴発だけはさせるな。帝国の不利益になる」


ザハール侯爵が、冷淡に言い放つ。


その言葉を聞いたリリアの顔が、絶望に染まっていく。


「嘘……助けに来てくれたんじゃないの? 私は、帝国の役に立ったはずよ! 王太子を、セドリック様をあんなに……!」


「役に立った? おかげでこちらの計画は台無しですよ。もっと慎重に王宮を掌握するはずが、あなたの低俗な独占欲のせいで、全てが露呈した」


ジュリアンが冷たく言い捨て、独房の鍵を開けさせた。


彼は倒れているリリアの顎を乱暴に掴み、その瞳を覗き込む。


「セドリック様! 助けて、助けてください! この男、怖いわ……!」


リリアが、背後に控えていたセドリック様に縋るような声を上げる。


セドリック様は、私を一瞥した後、氷のような眼差しを彼女に向けた。


「リリア。君の言う『愛』が、いかに虚飾に満ちたものだったか、これで理解したか? 君を道具としてしか見ていない連中のために、君は国を、そして私の心を売ったのだ」


「違うわ、私は……私は愛されたかっただけなの!」


「愛されたかったから、人の心を壊したのですか? 浅ましいにも程がありますわね」


私は一歩前に出ると、ジュリアンの隣に立った。


「ジュリアン様とおっしゃいましたか。彼女の体内の魔力汚染……完全に中和できるのでしょうね?」


「……フン、公爵令嬢。私を誰だと思っている。帝国の魔導技術(マギ・テクノロジー)を侮らないでいただきたい」


ジュリアンが懐から、奇妙な形状の注射器のような器具を取り出す。


それをリリアの首筋に突き立てようとしたその時、リリアの身体から、今までとは比較にならないほどの禍々しい波動が放たれた。


「あ……あああああぁぁぁぁっ!」


リリアの叫びが聖堂の底まで響き渡る。


彼女の瞳が真っ赤に染まり、体内の魔力が臨界点を超えて溢れ出した。


「お、おい! ジュリアン、どうした!」


ザハール侯爵が狼狽える中、私は咄嗟に『ローゼンバーグの涙』を掲げた。


「セドリック様、お兄様! 結界を二重に! 爆発を抑え込みますわよ!」


「……させないわ……一人でなんて、死なないんだから!」


リリアの歪んだ笑みが、暗闇の中で爛々と輝いた。
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