祝福の果てに断罪された悪役令嬢ですが?

きららののん

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地下牢の空気が、パチパチと音を立てて爆ぜる。


リリアの身体から溢れ出す黒い奔流は、もはや制御不能な暴力となって独房を破壊し始めていた。


「くっ……! 馬鹿な、この中和剤が効かないだと!? 感情の振れ幅が魔導演算の予測を超えている!」


帝国の従者、ジュリアンが初めて余裕を失い、顔を歪ませた。


彼の手にある器具は、リリアから放たれる高濃度の魔力に耐えきれず、嫌な音を立ててひび割れていく。


「あははは! 壊れる、全部壊れるのよ! 愛されないなら、この国ごと灰になればいいんだわ!」


リリアの絶叫と共に、黒い棘のような魔力が四方八方へ突き出される。


「エリアナ、下がれ!」


セドリック様が、私を庇うように一歩前に出た。


彼は折れた剣の鞘を構え、襲いかかる魔力の余波を必死に受け流している。


「いいえ、セドリック様。今下がれば、王都は本当に終わりますわ」


私は震える足を叱咤し、彼の背中から一歩横へ踏み出した。


胸元で『ローゼンバーグの涙』が、かつてないほど激しく脈動している。


「お兄様、私の背後から魔力の供給をお願いします! この宝珠の出力を最大まで引き上げますわ!」


「正気か、エリアナ! そんなことをすれば、お前の精神が焼き切れるぞ!」


カイン兄様が叫ぶが、私の決意は揺るがない。


「泥棒猫の後始末を、他国の人間に任せきりにするなど、公爵令嬢の矜持が許しませんの!」


私は両手で宝珠を握りしめ、リリアの瞳を真っ直ぐに見つめた。


その瞳の奥にあるのは、選ばれなかった女の、醜くも悲しい執着。


「リリア・ノエル。あなたが欲しがったのは、セドリック様ではありませんわね」


「……なんですって……!?」


「あなたは、彼という『トロフィー』が欲しかっただけ。自分が誰よりも優れていると、世界に認めさせたかっただけですわ」


私の言葉が、リリアの核心を射抜いた。


彼女の放つ闇が、一瞬だけ揺らぐ。


「違う……私は、私はただ……!」


「本当の愛は、奪うものでも操るものでもありません。与え、育み、時には共に苦しむものです」


私はセドリック様の左手を、強く、確かな力で握りしめた。


「行きましょう、セドリック様。私たちの、本物の絆を見せて差し上げましょう」


「ああ、エリアナ。私の命も、心も、すべて君に預ける!」


二人の魔力が、絡み合いながら宝珠へと吸い込まれていく。


それは純白よりもさらに清らかな、蒼白の閃光。


「浄化の極光……フル・ドライブ!」


地下牢を、太陽の爆発にも似た光が埋め尽くした。


リリアの黒い闇が、その光に触れた瞬間に蒸発していく。


「あああぁぁぁぁっ! 熱い、熱い……私の、私の王国がぁ……!」


リリアの断末魔が響き、やがて光の中に溶けて消えた。


凄まじい衝撃と共に、地下牢の石壁が激しく震動し、最後には深い静寂が訪れた。


目の前には、魔力を失い、ただの抜け殻のように横たわるリリアの姿だけが残されていた。


「……終わったのか?」


セドリック様が、荒い息を吐きながら辺りを見回す。


ジュリアンは床に膝をつき、呆然と私たちが放った光の残滓を見つめていた。


「……信じられない。帝国の技術を、ただの『感情の増幅』で凌駕するなんて」


「感情ではありませんわ、ジュリアン様」


私は乱れた髪を整え、凛とした態度で彼を見据えた。


「これは、執念ですのよ。女の愛を、甘く見ないことですわ」


リリアの体内にあった爆弾は、今、完全に沈黙した。
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