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地下牢を覆っていた光の粒子が、雪のように静かに舞い落ちる。
目の前には、糸の切れた人形のように動かなくなったリリア。
そして、腰を抜かしたまま立ち上がれない帝国特使、ザハール侯爵がいた。
「……馬鹿な。帝国の秘薬による汚染が、完全に消滅したというのか……?」
「ええ。あなたの国の『技術』とやらも、所詮はその程度のものですわ」
私はセドリック様の腕に支えられながら、侯爵を冷たく見下ろした。
『ローゼンバーグの涙』は役目を終え、その輝きを失っている。
けれど、私の胸の中には、それ以上に熱い勝利の確信が宿っていた。
「ザハール侯爵。これで、リリア・ノエルが爆発して王都を灰にするという『懸念』は消え去りましたわね」
「……ああ、そのようだ。実に見事な手際だった、公爵令嬢」
侯爵は震える膝を叩き、強引に立ち上がった。
顔色は土色だが、その瞳にはまだ狡猾な計算の光が残っている。
「だが、リリアが帝国の駒であったという証拠も、今の光と共に消えたのではないかな? 彼女の体内の魔力もろとも、中拠となる術式も焼き切れたのだろう?」
「……なんですって?」
セドリック様が、怒りに声を荒らげようとした。
しかし、私はその腕をそっと制した。
「おやおや。証拠隠滅を喜んでいらっしゃるのかしら? さすがは帝国の外交官、お顔の皮が随分と厚いですわね」
「フン、何とでも言いたまえ。証拠がなければ、我が国はあずかり知らぬこと。リリア・ノエルが勝手に帝国の秘薬を盗み出し、独断で暴発させた……そういう結論で十分だろう」
侯爵は不敵に笑い、懐からハンカチを取り出して額の汗を拭った。
「爆弾が処理された今、我々がここに留まる理由はない。すぐに帰国させてもらおう。……ジュリアン、行くぞ」
床に座り込んでいたジュリアンは、無言で立ち上がり、私を一瞥して歩き出した。
まるで、何事もなかったかのように立ち去ろうとするその背中に、私は冷たい声を投げかけた。
「あら、お帰りになりますの? ……これをお忘れではなくて?」
私は懐から、一通の羊皮紙を取り出した。
それは、リリアが暴走する直前、ジュリアンが落とした『中和剤の空き瓶』と、彼が持っていた『帝国の機密印が押された指示書』の断片だった。
リリアが暴れる最中、私はこれらを密かに回収しておいたのだ。
「……っ! それは……!」
ジュリアンの足が止まった。
侯爵の顔から、再び余裕が消え失せる。
「リリアの魔力は焼き切りましたが、物理的な『物証』までは焼いておりませんわ。これには、帝国の特殊な魔導インクが使われていますわね? 鑑定すれば、すぐにでも帝国の関与が証明されますわ」
「貴様……いつの間に……」
「公爵令嬢の嗜みですわ。殿下をたぶらかした報い、それだけで済むとお思いで?」
私はセドリック様の方を向き、艶やかに微笑んだ。
「セドリック様。帝国側には、賠償金として国境付近の鉱山利権の譲渡、および十年間の不可侵条約への調印を求めてはいかがかしら?」
「……ああ、名案だ。エリアナ、君の提案は常に最高だよ」
セドリック様は、私の腰を抱き寄せ、侯爵に向けて冷酷な宣告を下した。
「侯爵。このまま帰るか、それともこの『証拠』を手に、平和的な会談の席に着くか……選ばせてやろう」
ザハール侯爵は、まるで見えない縄で首を絞められたかのように、何度も口をパクパクとさせた。
泥棒猫の飼い主への、本当の反撃はここからだ。
目の前には、糸の切れた人形のように動かなくなったリリア。
そして、腰を抜かしたまま立ち上がれない帝国特使、ザハール侯爵がいた。
「……馬鹿な。帝国の秘薬による汚染が、完全に消滅したというのか……?」
「ええ。あなたの国の『技術』とやらも、所詮はその程度のものですわ」
私はセドリック様の腕に支えられながら、侯爵を冷たく見下ろした。
『ローゼンバーグの涙』は役目を終え、その輝きを失っている。
けれど、私の胸の中には、それ以上に熱い勝利の確信が宿っていた。
「ザハール侯爵。これで、リリア・ノエルが爆発して王都を灰にするという『懸念』は消え去りましたわね」
「……ああ、そのようだ。実に見事な手際だった、公爵令嬢」
侯爵は震える膝を叩き、強引に立ち上がった。
顔色は土色だが、その瞳にはまだ狡猾な計算の光が残っている。
「だが、リリアが帝国の駒であったという証拠も、今の光と共に消えたのではないかな? 彼女の体内の魔力もろとも、中拠となる術式も焼き切れたのだろう?」
「……なんですって?」
セドリック様が、怒りに声を荒らげようとした。
しかし、私はその腕をそっと制した。
「おやおや。証拠隠滅を喜んでいらっしゃるのかしら? さすがは帝国の外交官、お顔の皮が随分と厚いですわね」
「フン、何とでも言いたまえ。証拠がなければ、我が国はあずかり知らぬこと。リリア・ノエルが勝手に帝国の秘薬を盗み出し、独断で暴発させた……そういう結論で十分だろう」
侯爵は不敵に笑い、懐からハンカチを取り出して額の汗を拭った。
「爆弾が処理された今、我々がここに留まる理由はない。すぐに帰国させてもらおう。……ジュリアン、行くぞ」
床に座り込んでいたジュリアンは、無言で立ち上がり、私を一瞥して歩き出した。
まるで、何事もなかったかのように立ち去ろうとするその背中に、私は冷たい声を投げかけた。
「あら、お帰りになりますの? ……これをお忘れではなくて?」
私は懐から、一通の羊皮紙を取り出した。
それは、リリアが暴走する直前、ジュリアンが落とした『中和剤の空き瓶』と、彼が持っていた『帝国の機密印が押された指示書』の断片だった。
リリアが暴れる最中、私はこれらを密かに回収しておいたのだ。
「……っ! それは……!」
ジュリアンの足が止まった。
侯爵の顔から、再び余裕が消え失せる。
「リリアの魔力は焼き切りましたが、物理的な『物証』までは焼いておりませんわ。これには、帝国の特殊な魔導インクが使われていますわね? 鑑定すれば、すぐにでも帝国の関与が証明されますわ」
「貴様……いつの間に……」
「公爵令嬢の嗜みですわ。殿下をたぶらかした報い、それだけで済むとお思いで?」
私はセドリック様の方を向き、艶やかに微笑んだ。
「セドリック様。帝国側には、賠償金として国境付近の鉱山利権の譲渡、および十年間の不可侵条約への調印を求めてはいかがかしら?」
「……ああ、名案だ。エリアナ、君の提案は常に最高だよ」
セドリック様は、私の腰を抱き寄せ、侯爵に向けて冷酷な宣告を下した。
「侯爵。このまま帰るか、それともこの『証拠』を手に、平和的な会談の席に着くか……選ばせてやろう」
ザハール侯爵は、まるで見えない縄で首を絞められたかのように、何度も口をパクパクとさせた。
泥棒猫の飼い主への、本当の反撃はここからだ。
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