祝福の果てに断罪された悪役令嬢ですが?

きららののん

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即位式の騒乱から数日。

王宮内は、リリア・ノエルが撒き散らした毒気を抜くための大掃除に追われていた。

私は、臨時で用意された執務室で、山積みになった書状に目を通していた。

そのほとんどが、かつて私を罵倒した貴族たちからの謝罪文と、保身のための言い訳だ。


「……ふぅ。どの方も、判で押したような内容ばかり。読む価値もありませんわね」


「お疲れ様です、エリアナ様。お口直しにハーブティーをどうぞ」


侍女のアンナが、香りの良い茶を淹れてくれる。

かつての私なら、裏切った彼らを一人残らず追放していたかもしれない。

けれど、今の私にはそんな暇はないのだ。


「エリアナ様! どうか、どうかお聞き届けください!」


扉を乱暴に開けて入ってきたのは、リリアの取り巻きだった子爵令嬢の一人だ。

彼女は床に膝をつき、必死の形相で私に縋り付こうとした。


「私は……私はリリアの魔力に操られていただけなのです! あんな酷いことを言ったのは、私の本意ではなく……!」


「あら。操られていた、の一言で済むとお思い?」


私はペンを置き、冷ややかな視線を彼女に向けた。

令嬢はびくりと肩を震わせ、言葉を失う。


「魔力のせいにするのは簡単ですわ。けれど、あなたの心の隙間に『私を見下したい』という欲望があったからこそ、術は入り込んだのではありませんか?」


「それは……」


「言い訳を聞く時間は、私にはありませんの。本当に反省しているのなら、その謝罪を口にする暇を惜しんで、自分の領地の立て直しに尽力なさい。……それができないなら、今すぐ爵位を返上して野に下ることですわ」


私は扇子で出口を指し示した。

令嬢は顔を真っ赤にしながらも、深々と頭を下げて部屋を飛び出していった。

その様子を、扉の影で見ていた人物がいた。


「……相変わらず、容赦ないな。だが、そこが君の素晴らしいところだ」


「セドリック様。……いつからそこに?」


現れたセドリック様は、以前よりもずっと晴れやかな顔をしていた。

彼は私の向かいに座ると、私の手元にある謝罪文の山を苦笑混じりに眺める。


「今の彼女に対する言葉……『はっきり言ってくれて助かった』と、外の騎士たちが漏らしていたよ。君のその率直さが、混乱する王宮に一本の芯を通している」


「率直、ですか? ただの毒舌ではなく?」


「ああ。媚びを売らず、真実を突く。……操られていたとはいえ、醜態を晒した自分たちを厳しく叱ってほしいと、皆どこかで願っているのかもしれないな」


セドリック様は私の手をそっと取り、その指先に触れた。


「私も、その一人だ。君に厳しく断罪されたあの日から、私はようやく自分を取り戻せた気がする」


「……あまり私を甘やかさないでくださいませ。私は、あなたを甘やかすつもりはありませんのよ?」


私はわざとそっぽを向いたが、彼が握る手の温もりを振り払うことはできなかった。


「わかっている。君に相応しい王になるまで、私は何度でも君に叱られる覚悟だ。……ところで、エリアナ。今夜は少し、時間が取れるだろうか?」


「……公務次第ですわ。何かありまして?」


「君に、見せたいものがあるんだ。……かつて私たちが、初めて出会ったあの場所で」


セドリック様の碧い瞳に、懐かしさと深い愛情が宿る。

後始末という名の嵐の後に、ようやく穏やかな風が吹き始めていた。

けれど、帝国の賠償金問題や国内の派閥争いなど、課題は山積みだ。


「よろしいでしょう。ただし、一時間だけですわよ?」


「ああ、約束する」


私たちは、山積みの書類を前に、束の間の微笑みを交わした。

失われた時間を取り戻すための、新しい日常が始まろうとしていた。
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