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蹄の音が、夜の静寂を切り裂いて響き渡る。
私は馬に跨り、冷たい夜風を全身に浴びながら、前方を走るセドリック様の背中を追っていた。
「エリアナ、無理はしていないか! あともう少しだ!」
「ええ、大丈夫ですわ! これくらい、公爵令嬢の乗馬の授業に比べればなんてことありません!」
私は叫び返し、手綱を強く握り直した。
夜空に浮かぶ月は、不気味なほどに青白く、私たちの行く道を照らしている。
やがて、前方の街道に数台の馬車と、それを取り囲む騎馬隊の姿が見えてきた。
「……見つけましたわ。泥棒猫を運ぶ、汚れた籠を!」
「全騎、突撃! 馬車を包囲しろ!」
セドリック様の鋭い号令と共に、騎士たちが一斉に加速する。
慌てた様子の帝国兵たちが応戦しようとするが、怒りに燃える我が国の精鋭を止めることはできなかった。
キィィィィッ、と激しい音を立てて、一台の馬車が急停車する。
私は馬を止め、乱れた呼吸を整えながら馬車を見据えた。
「……お茶会には、まだ早すぎるのではありませんか、ザハール侯爵?」
馬車の扉が開き、中から顔を引きつらせたザハール侯爵が姿を現した。
「……セドリック殿下、それに公爵令嬢。これはいかなる無礼か。私は正当な特使として帰国の途についているのだぞ」
「正当な特使は、我が国の重罪人を連れ出したりはしませんわ。……その中に、誰が隠れているか、私たちが知らないとお思いで?」
私は馬を降り、ゆっくりと馬車へ歩み寄った。
「……リリア。出てきなさいな。逃げ隠れするのは、あなたの得意分野でしょうけれど、もう追い詰められたネズミにしか見えませんわよ」
沈黙の後、馬車の奥から、震える影が這い出してきた。
ボロボロになった聖女の服。その下に隠された瞳は、絶望と狂気に濁りきっている。
「……どうして。どうして邪魔をするのよ! 私は、私はただ、幸せになりたかっただけなのに!」
リリアが地面に崩れ落ち、私を指差して叫ぶ。
「幸せ? 他人の愛を奪い、国を壊した先に、どのような幸せがあるとおっしゃるの?」
「愛なんて、奪わなきゃ手に入らないじゃない! あなたみたいに最初から持っている人には、わからないわよ!」
リリアの声は、もはや言葉というよりは獣の咆哮に近かった。
彼女の身体から、消えかけていたはずの黒い魔力が再び微かに漏れ出す。
「……ザハール侯爵。彼女を連れ出したのは、帝国の指示ですわね? まだ彼女の体質を研究するつもりかしら」
「……フン、何の証拠があってそのようなことを」
侯爵が鼻で笑おうとしたその時、セドリック様が剣を抜き、その切っ先を侯爵の喉元に突きつけた。
「証拠など、後からいくらでも捏造してやる。……お前たちが彼女を連れ出そうとしたという事実だけで、私は帝国と一戦交える覚悟があるぞ」
セドリック様の碧い瞳は、暗闇の中で激しく燃えていた。
その迫力に、侯爵は初めて本気で震え上がった。
「ま、待て……! 剣を引け、殿下! これは、その……単なる温情だ!」
「温情? そんな言葉、あなたの口から聞きたくありませんわ」
私はリリアの前に立ち、冷徹な微笑を浮かべた。
「さあ、リリア・ノエル。本当の断罪を始めましょうか。今度は牢獄の中ではなく、この吹きさらしの崖の上で」
崖の下からは、荒れ狂う波の音が響いてくる。
すべての因縁を断ち切るための、最後の舞台が整おうとしていた。
私は馬に跨り、冷たい夜風を全身に浴びながら、前方を走るセドリック様の背中を追っていた。
「エリアナ、無理はしていないか! あともう少しだ!」
「ええ、大丈夫ですわ! これくらい、公爵令嬢の乗馬の授業に比べればなんてことありません!」
私は叫び返し、手綱を強く握り直した。
夜空に浮かぶ月は、不気味なほどに青白く、私たちの行く道を照らしている。
やがて、前方の街道に数台の馬車と、それを取り囲む騎馬隊の姿が見えてきた。
「……見つけましたわ。泥棒猫を運ぶ、汚れた籠を!」
「全騎、突撃! 馬車を包囲しろ!」
セドリック様の鋭い号令と共に、騎士たちが一斉に加速する。
慌てた様子の帝国兵たちが応戦しようとするが、怒りに燃える我が国の精鋭を止めることはできなかった。
キィィィィッ、と激しい音を立てて、一台の馬車が急停車する。
私は馬を止め、乱れた呼吸を整えながら馬車を見据えた。
「……お茶会には、まだ早すぎるのではありませんか、ザハール侯爵?」
馬車の扉が開き、中から顔を引きつらせたザハール侯爵が姿を現した。
「……セドリック殿下、それに公爵令嬢。これはいかなる無礼か。私は正当な特使として帰国の途についているのだぞ」
「正当な特使は、我が国の重罪人を連れ出したりはしませんわ。……その中に、誰が隠れているか、私たちが知らないとお思いで?」
私は馬を降り、ゆっくりと馬車へ歩み寄った。
「……リリア。出てきなさいな。逃げ隠れするのは、あなたの得意分野でしょうけれど、もう追い詰められたネズミにしか見えませんわよ」
沈黙の後、馬車の奥から、震える影が這い出してきた。
ボロボロになった聖女の服。その下に隠された瞳は、絶望と狂気に濁りきっている。
「……どうして。どうして邪魔をするのよ! 私は、私はただ、幸せになりたかっただけなのに!」
リリアが地面に崩れ落ち、私を指差して叫ぶ。
「幸せ? 他人の愛を奪い、国を壊した先に、どのような幸せがあるとおっしゃるの?」
「愛なんて、奪わなきゃ手に入らないじゃない! あなたみたいに最初から持っている人には、わからないわよ!」
リリアの声は、もはや言葉というよりは獣の咆哮に近かった。
彼女の身体から、消えかけていたはずの黒い魔力が再び微かに漏れ出す。
「……ザハール侯爵。彼女を連れ出したのは、帝国の指示ですわね? まだ彼女の体質を研究するつもりかしら」
「……フン、何の証拠があってそのようなことを」
侯爵が鼻で笑おうとしたその時、セドリック様が剣を抜き、その切っ先を侯爵の喉元に突きつけた。
「証拠など、後からいくらでも捏造してやる。……お前たちが彼女を連れ出そうとしたという事実だけで、私は帝国と一戦交える覚悟があるぞ」
セドリック様の碧い瞳は、暗闇の中で激しく燃えていた。
その迫力に、侯爵は初めて本気で震え上がった。
「ま、待て……! 剣を引け、殿下! これは、その……単なる温情だ!」
「温情? そんな言葉、あなたの口から聞きたくありませんわ」
私はリリアの前に立ち、冷徹な微笑を浮かべた。
「さあ、リリア・ノエル。本当の断罪を始めましょうか。今度は牢獄の中ではなく、この吹きさらしの崖の上で」
崖の下からは、荒れ狂う波の音が響いてくる。
すべての因縁を断ち切るための、最後の舞台が整おうとしていた。
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