祝福の果てに断罪された悪役令嬢ですが?

きららののん

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断崖を叩く波の音が、絶望の旋律のように響いていた。


リリア・ノエルは、泥にまみれた膝をつき、血走った瞳で私とセドリック様を交互に見つめていた。


「……どうして? どうして私を選んでくれないの!? 私の方が、あなたに優しくしたわ! あなたを肯定して、甘やかしてあげたじゃない!」


彼女の叫びは、夜風にさらわれて虚しく消えていく。


セドリック様は、私を抱き寄せていた腕に力を込め、一歩前へと踏み出した。


「リリア。お前のそれは、優しさではない。私の弱さに付け込み、思考を奪い、自分の所有物にしようとしただけの執着だ」


「執着で何が悪いのよ! 好きなら手に入れたいと思うのは当然でしょう!? あなただって、エリアナ様のことが好きなんでしょう!? それと同じじゃない!」


リリアが狂ったように笑い、地面を爪が剥がれるほどに掻きむしる。


私はセドリック様の隣に並び、冷徹な視線を彼女へと投げかけた。


「いいえ、全く違いますわ。リリア・ノエル。あなたが欲しかったのは、セドリック様という『個人』ではなく、彼が持つ『王太子』という肩書きと、彼に愛されているという『優越感』だけです」


「な、なんですって……!?」


「本当に彼を愛しているのなら、彼の心が壊れていく姿を見て、胸が痛まないはずがありませんもの。あなたは、彼が人形のように従順になることを喜んでいた。それは愛ではなく、ただの支配ですわ」


私は扇子をリリアの喉元に突きつけるようにして、一言一言を刻みつけるように告げた。


「私は、彼が間違っている時は、全力で彼を叱りますわ。彼が道を踏み外そうとすれば、この手で引き戻します。……それが、私なりの愛の証明ですの」


「……はっ、そんなの高慢な女の自己満足よ! 殿下だって、そんな怖い女より、可愛い私の方が良かったはずだわ!」


リリアが最後の悪あがきとして、隠し持っていた魔導具を起動させようとした。


どす黒い光が彼女の手元で弾けようとしたその瞬間、セドリック様の剣が閃いた。


「……あ」


リリアの手から魔導具が弾き飛ばされ、崖の下へと消えていく。


セドリック様の剣先が、今度はリリアの心臓のすぐそばで止まった。


「リリア。お前が私にかけた呪いは、確かに強力だった。だが、お前がどれほど私の記憶を塗り替えようとしても、エリアナの声だけは消せなかった」


「……え?」


「暗闇の中で、私を叱り飛ばす彼女の声が、ずっと聞こえていたんだ。『情けない方ですわね』という、あの呆れたような、けれど温かい声が」


セドリック様が、私の顔を見て柔らかく微笑んだ。


その瞳には、もう迷いも、濁りも一切ない。


「呪いに抗えたのは、魔法の力ではない。彼女が私に注ぎ続けてくれた、偽りのない真実の言葉があったからだ。……リリア、お前に私の心は一生奪えない」


「……ああ、あああああぁぁぁぁっ!」


リリアが頭を抱えて絶叫した。


自分の存在そのものを否定されたかのような、あまりにも無残な敗北。


彼女の後ろ盾であったザハール侯爵も、すでに騎士たちに囲まれ、観念したように俯いている。


「近衛騎士団、その女を拘束せよ。二度と逃げ出せぬよう、魔力封印の鎖を幾重にも巻き付けろ」


セドリック様の冷徹な命令が下り、リリアは抵抗する力もなく引きずられていった。


「エリアナ……終わったよ」


「ええ。……ようやく、ですわね」


私は緊張の糸が切れたように、セドリック様の胸に寄りかかった。


彼の心臓の鼓動が、トクトクと力強く刻まれている。


「……セドリック様。先ほどの、私の声が聞こえていたというお話……本当ですの?」


「ああ。正直に言うと、あまりに厳しい言葉ばかりで、夢の中でも少し泣きそうだったがね」


「あら。それは失礼いたしましたわ。……でも、これからも覚悟しておいてくださいませ?」


私は顔を上げ、いたずらっぽく微笑んだ。


「私、これからもあなたを甘やかすつもりはありませんから」


「ふふ、望むところだ。……さあ、帰ろう。私たちの国へ」


私たちは、夜明けの光が差し始めた地平線を見つめながら、ゆっくりと歩き出した。


泥棒猫との決着はつき、今度こそ、本当の「祝福」への道が拓かれたのだ。
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