祝福の果てに断罪された悪役令嬢ですが?

きららののん

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国境の断崖から王都へと続く街道は、朝焼けの柔らかな光に包まれていた。


馬車の中で、私は窓の外を流れる景色を眺めながら、深く息を吐き出した。


「……お疲れのようだな、エリアナ。少し横になったらどうだ?」


隣に座るセドリック様が、心配そうに私の顔を覗き込む。


「いいえ。王都に着くまで、気を抜くわけには参りませんわ。……市民たちが、どのような顔で私たちを迎えるか、その目で確かめなくては」


「君は本当に、どこまでも気高いな。……裏切られた民衆を恨むこともしないのか」


セドリック様が自嘲気味に笑う。


あの日、卒業パーティーで私に石を投げんばかりの言葉を浴びせたのは、彼だけではない。


リリアの魔力に当てられたとはいえ、民衆もまた私を「悪役令嬢」として断罪したのだ。


「恨む? そんな無駄なエネルギー、私にはありませんわ。……彼らが私をどう思うかは彼らの自由ですが、私が彼らの上に立つに相応しい人間であることを、行動で示すだけです」


「……ふっ。やはり、君には敵わないな」


王都の城門が見えてくると、そこには黒山の人だかりができていた。


馬車が近づくにつれ、ざわめきが大きくなっていく。


非難の罵声が飛んでくるのか、あるいは……。


馬車が城門をくぐった瞬間、窓の外から響いてきたのは、割れんばかりの歓声だった。


「エリアナ様! エリアナ様、万歳!」


「真実の聖女はエリアナ様だ! お帰りなさいませ!」


人々の叫び声に、私は思わず目を見開いた。


彼らの手には、リリアが好んだ白い百合ではなく、ローゼンバーグ家の色である青い花が握られている。


「……どういうことですの? 皆さん、あんなに私を嫌っていましたのに」


「カインが手を回してくれたんだよ。リリアが帝国の工作員であったこと、そして君が身を挺して王都を魔力汚染から守ったことを、広報官たちに徹底して周知させたのさ」


セドリック様が、誇らしげに私の肩を抱く。


「君の『率直さ』は、今やこの国の信頼の証だ。嘘をつかない、裏表のない公爵令嬢……それが今の君の評価だよ」


「……全く、お兄様も余計なことを。これでは、これから少しでも羽目を外したらすぐに噂になってしまいますわ」


私は文句を言いながらも、窓を開けて民衆に小さく手を振った。


その瞬間、歓声はさらに一段と大きくなり、王宮までの道は祝福の花びらで埋め尽くされた。


王宮の玄関先では、国王陛下と王妃様が、厳しい表情ながらも安堵の色を浮かべて待っていた。


「セドリック、エリアナ。よくぞ戻った。……リリア・ノエルと帝国の件、すべて報告は受けている」


陛下が重厚な声で語りかける。


「エリアナ・フォン・ローゼンバーグ。我が愚息の過ちにより、多大なる苦痛を与えたことを、一国の王として、そして父として、深く詫びよう」


陛下が私に対して、深く頭を下げた。


周囲の家臣たちが息を呑む。王が臣下に頭を下げるなど、建国以来の異常事態だ。


「陛下、お顔をお上げください。……私は、自分の愛する人を守るために動いたまでですわ。その結果として国が救われたのなら、それは幸運な副作用に過ぎません」


「副作用、か。……ははは! 相変わらずの物言いだな。だが、その強さこそが今の我が国には必要だ」


陛下は豪快に笑い、セドリック様の肩を叩いた。


「セドリック。三日後、改めて『真実の祝福の儀』を執り行う。今度こそ、誰にも邪魔させぬ、本物の誓いを立てるがいい」


「はい。……父上、感謝いたします」


セドリック様が力強く頷く。


夕闇が迫る中、王宮の灯りが一つ、また一つと灯っていく。


ようやく、すべてが元の場所……いえ、それ以上に輝かしい場所へと戻ろうとしていた。


リリア・ノエルは帝国の反逆者として、一生光の届かない場所でその罪を数えることになるだろう。


けれど、私はもう、彼女のことなど考えていなかった。


目の前に広がる、新しい未来の景色。


そこには、私を愛おしそうに見つめる、一人の騎士が立っていた。
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