祝福の果てに断罪された悪役令嬢ですが?

きららののん

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王都の喧騒が、聖堂の重厚な扉の向こう側から微かに聞こえてくる。


鏡の中に映る私は、純白のシルクに最高級のレースをあしらった、目が眩むほどに美しいウェディングドレスを纏っていた。


胸元には、あの『ローゼンバーグの涙』が、今は穏やかな青い輝きを湛えている。


「お嬢様……本当に、本当にお綺麗ですわ。今日という日を迎えられて、私、もう……」


侍女のアンナが、ハンカチで目元を拭いながらドレスの裾を整えてくれる。


「泣くのはまだ早いですわよ、アンナ。これはゴールではなく、新しい戦いの始まりなのですから」


私は強がって見せたが、鏡を見つめる自分の瞳も、少しだけ潤んでいることに気づいていた。


あの日、この場所で断罪され、冷たい牢獄に繋がれた。


婚約者を奪われ、誇りを汚され、すべてを失ったかのように思えたあの日。


それでも私は、彼を愛することを、そして自分を信じることを諦めなかった。


「エリアナ。準備はいいか」


控え室の扉が開き、正装に身を包んだカイン兄様が入ってきた。


「お兄様。ええ、準備は万全ですわ」


「……正直なところ、あの馬鹿殿下にまだお前を預けるのは癪だが。お前が選んだ男だ、僕は最後まで見届けさせてもらうよ」


兄は不器用な手つきで私の腕を取り、聖堂の扉の前まで導いてくれた。


扉が開いた瞬間、パイプオルガンの荘厳な音色と、数千人の視線が私を包み込む。


バージンロードの先には、漆黒の礼装に身を包んだセドリック様が立っていた。


その瞳は、一点の曇りもなく、ただ真っ直ぐに私だけを捉えている。


「……エリアナ。今日、この場所で、私は私の魂を君に捧げる」


祭壇に辿り着いた私の手を取り、セドリック様が震える声で囁いた。


司祭の厳かな言葉が響く中、セドリック様は参列者である貴族、そして窓の外にいる民衆にも聞こえるような大きな声で宣言した。


「かつて私は、愚かにも真実を見失い、この女性(ひと)を傷つけた。その罪は一生消えることはないだろう。だが、彼女は私を見捨てず、絶望の淵から救い出してくれた」


会場全体が静まり返る。


「私は王太子として、そして一人の男として、エリアナ・フォン・ローゼンバーグを唯一無二の伴侶とし、この国の繁栄を彼女と共に分かち合うことを誓う」


セドリック様が、私の指に新しい指輪を嵌めた。


リリアに奪われ、泥にまみれたあの古い指輪ではない。


太陽を象った、希望の光を宿す新しい絆の証。


「エリアナ。君の返事を聞かせてほしい」


私は一歩前に出ると、彼の手を強く、痛みを感じるほどに握りしめた。


「セドリック・アルフレッド・オルコット。あなたの誓い、確かに受け取りましたわ」


私は扇子をそっと置き、聖堂の天井を貫くような凛とした声で続けた。


「私はあなたを甘やかしません。あなたが間違えば叱り、あなたが倒れれば叱咤して立たせます。それが、私が選んだ愛の形ですもの」


人々の間に、驚きと、それから温かい笑い声が広がった。


「……ふふ。ですが、あなたが私を求めてくださる限り、私は地の果てまであなたにお付き合いいたしますわ。私こそが、あなたを世界一幸せな王にできる唯一の女性(ひと)ですもの」


「ああ。……愛している、エリアナ」


セドリック様が私の腰を引き寄せ、唇を重ねた。


それは、かつての偽りの魔法など足元にも及ばない、熱く、確かな愛の誓い。


会場中に祝福の拍手が鳴り響き、ステンドグラスから差し込む光が、私たちを虹色に染め上げた。


呪いは解け、因縁は断ち切られ、私たちは今、本当の意味で結ばれたのだ。
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