不倫した悪役令嬢ですが冷徹な旦那様が私を離してくれません

きららののん

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「……ちょっと、旦那様。ここ、どこかしら? 私の知っている『地下牢』とは随分仕様が違うのだけれど」

アルベルトに抱きかかえられたまま連れてこられたのは、屋敷の最上階にある、見たこともないほど豪華な一室だった。

ふかふかの絨毯。天井から吊るされたクリスタルのシャンデリア。そして、私が三人くらい大の字で寝られそうな天蓋付きのベッド。

「気に入ったかい? 君のために新調したんだ。壁には防音材を仕込み、窓は特注の強化ガラス……内側からは絶対に開かない魔法の細工を施してある」

アルベルトは私を優しくベッドに下ろすと、満足げに部屋を見渡した。

「防音材に、開かない窓……。それって、要するに私がどれだけ叫んでも誰も助けに来ないってことじゃない!」

「察しがいいね。さすがは僕の妻だ」

彼は私の隣に腰を下ろし、まるで宝物を眺めるような目で私を見つめた。

「あのね、アルベルト。私は不倫をしたのよ? 浮気よ? 他の男とよろしくやっていた現場を見られたのよ? 普通なら即座に離縁、良くて平民落ち、悪ければ首が飛ぶ……それが貴族のルールでしょう?」

私はベッドを叩いて抗議した。

早く自由(という名の追放)を手に入れて、気ままな独身生活を送る予定だったのだ。

「離縁? そんな紙切れ一枚で、君が僕の所有物でなくなるなんて……想像しただけで吐き気がするよ」

アルベルトはクスクスと、低く冷たい声で笑い始めた。

その瞳には、かつての無関心な「氷の公爵」の面影など微塵もない。

「僕はね、エルゼ。君がいつか僕を裏切るのを、ずっと待っていたんだ」

「……は? 待っていた?」

「ああ。君が完璧な公爵夫人である限り、僕は君を閉じ込める理由が見つからなかった。でも、君は素晴らしいプレゼントをくれた。不貞という、消えない罪をね」

彼は私の手首を掴み、その白さに自分の指を食い込ませる。

「これで正当な理由ができた。君を世間の目から隠し、僕だけのものにする……誰も文句は言えない。君の両親だって、不倫をした娘を庇うことはできないからね」

「……あなた、実は私以上に性格が悪いのね」

「最高の褒め言葉として受け取っておこう」

アルベルトは私の手首に、冷たい銀のブレスレットを嵌めた。

カチリ、という不吉な音が響く。

「これは……?」

「魔力封じの腕輪だ。君が転移魔法で逃げ出さないようにね。デザインも可愛いだろう? 君の瞳の色に合わせて特注したんだ」

「可愛くないわよ! 重いわ、愛が!」

私は腕輪を振り払おうとしたが、それはまるで吸い付くように私の肌に馴染んでいた。

「さあ、夕食の時間だ。不倫相手との密会で疲れただろう? 精のつくものを用意させたよ」

「……食べるわけないでしょう。こんな扱いをされて」

「ふむ。なら、僕が口で運んであげようか? それとも、無理やり流し込まれたい?」

アルベルトの目は、全く笑っていなかった。

彼は本気だ。私が拒めば拒むほど、彼はそれを「甘い戯れ」として楽しむつもりなのだ。

「……いただくわ。自分で食べるから、その不気味な笑みをやめてちょうだい」

「賢いね、エルゼ。君のそういう、現実的なところが大好きだよ」

彼は私の額に優しく口づけを落とすと、ワゴンから豪華な料理を取り出し始めた。

不倫がバレて人生終了、かと思いきや。

どうやら私の本当の地獄(あるいは極上の檻生活)は、ここから始まるらしい。

「あ、旦那様。一つ聞き忘れていたけれど」

「なんだい?」

「あの不倫相手のユリアン様、どうなったの?」

アルベルトの手が、ピタリと止まった。

彼はゆっくりと私を振り返り、三日月のような細い目で微笑んだ。

「……誰のことだい? そんな男、最初からこの世にいなかったよ」

「……そう。聞かなきゃよかったわ」

私は冷めかけたスープを一口飲み込み、そのあまりの美味しさに、少しだけ涙が出た。
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