断罪されてたからってなんなんですの?

きららののん

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「リディア・フォン・アストレア! 貴様との婚約を、今この場をもって破棄する!」


きらびやかなシャンデリアが輝く夜会の中心で、第一王子アルフォンス殿下が朗々と声を張り上げました。


その隣には、彼に守られるようにして震える、可憐(を装った)な男爵令嬢マリアンヌ様が寄り添っています。


周囲の貴族たちは、待ってましたと言わんばかりに息を呑み、わたくしたちを円状に囲みました。


「……はあ」


わたくし、リディアは、手に持っていた扇をパチンと閉じました。


別に驚いたわけではありません。


ただ、殿下の声が大きすぎて、先ほどから目を付けていたレアな「極上フォアグラのカナッペ」を給仕が下げてしまったことに、深い悲しみを覚えただけです。


「リディア! 聞いておるのか! マリアンヌに対する数々の嫌がらせ、そして暗殺未遂! 言い逃れはできんぞ!」


「殿下、一つよろしいかしら?」


「ふん、命乞いか? 見苦しいぞ!」


「いえ、その『暗殺未遂』の証拠はどこにありますの? わたくし、ここ三ヶ月は新作の紅茶の買い付けと、領地の魔物討伐の予算繰りに追われて、嫌がらせをする時間すら惜しんでおりましたけれど」


実際、わたくしのスケジュール帳は分刻みで埋まっております。


睡眠時間を削ってまで、この脳内がお花畑な王子が放り出した政務を片付けていたのは誰だと思っているのでしょう。


「黙れ! マリアンヌが『リディア様に階段で突き飛ばされた』と言っているのだ! 彼女の涙が何よりの証拠だ!」


「……まあ。涙で有罪が決まるなら、この国の裁判所はバケツ一杯の海水を用意すれば事足りますわね。合理的で素晴らしいことですわ」


わたくしが皮肉たっぷりに微笑むと、マリアンヌ様が「ひっ」と短く悲鳴を上げ、殿下の胸に顔を埋めました。


計算され尽くした、じつにあざとい角度です。


「そんな冷酷な女だとは思わなかったよ、リディア様! どうして私に、そんなに意地悪をするの……?」


「マリアンヌ様、意地悪だなんて人聞きが悪いですわ。わたくし、あなたのお名前を今この瞬間まで『マリア様』だか『アンヌ様』だか、うろ覚えでしたもの。興味のない方に割くリソースは、わたくしの脳内には存在しませんの」


「なっ……! 貴様、反省のいろが全くないようだな!」


アルフォンス殿下は顔を真っ赤にして、わたくしを指差しました。


「貴様のような悪女に、公爵令嬢の資格はない! よって、王都からの追放を命ずる! 今すぐ出て行け!」


「えっ、今すぐですの?」


「そうだ! 着の身着のままで、二度と我らの前に姿を見せるな!」


わたくしは、思わずパッと表情を輝かせました。


これはチャンスです。


「わかりましたわ。では、この婚約破棄、謹んでお受けいたします。あ、あと『今すぐ』とおっしゃいましたわね? その言葉、取り消さないでいただけますかしら?」


「ああ、二言はない! せいぜい野垂れ死ぬがいい!」


「承知いたしました。皆様、お聞きになりましたわね? わたくしは今、殿下の命により『今すぐ』この場を去りますわ!」


わたくしはドレスの裾を優雅に持ち上げ、完璧なカーテシーを披露しました。


心の中では、ガッツポーズを連打しています。


だって、このままここに居たら、殿下が使い込んだ「隠し予算」の補填を、わたくしの私産から出すよう国王陛下に泣きつかれるのが分かっていましたから。


「それでは皆様、ごきげんよう。わたくし、これから最高に自由な隠居生活を楽しんできますわ!」


呆然とする観衆を尻目に、わたくしはスタスタと会場を後にしました。


出口に向かう途中、給仕のトレイからフォアグラのカナッペを一つ、素早く奪い取ることも忘れません。


「もぐ……ふむ、やはり美味しいですわね。さて、まずは銀行に行って、わたくし名義の口座を全て凍結し、全額引き出すところから始めましょうか」


断罪されてたからって、なんなんですの?


わたくしにとっては、ただの「有給休暇」の始まりに過ぎませんわ。
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