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王城の廊下に、アルフォンス殿下の怒鳴り声が響き渡りました。
「どういうことだ! なぜ朝食のオムレツにトリュフが入っていない! それに、この安っぽい香りの紅茶は何だ!」
食堂のテーブルを叩く殿下の前で、侍従長は青い顔をして震えています。
「も、申し訳ございません……。実は、これまで王宮に高級食材を納入していた商会から、今朝未明に『契約解除』の通告が届きまして」
「契約解除だと? そんな勝手なことが許されると思っているのか!」
「それが、その商会……実はリディア様の個人資産が資本となって運営されておりまして。リディア様が『全事業を王都から撤退させる』と命じられたため、在庫ごとすべて隣国へ運ばれてしまいました」
殿下は口をパクパクさせ、隣で優雅(のつもり)に安物のクッキーを齧っていたマリアンヌ様を見やりました。
「な、何を言っている。リディアがいなくなったくらいで、王宮の食卓が貧しくなるはずがないだろう!」
「殿下……。それだけではございません。騎士団への給与、および王宮内の魔導具の維持費、これらすべてにリディア様からの『寄付金』が充てられておりました。現在、王宮の金庫は空っぽでございます」
「空っぽ!? 国の予算はどうしたのだ!」
「……殿下が先月の夜会で、マリアンヌ様のために特注された『星屑のドレス』。あの支払いで、今年度の予算はすべて使い果たしております」
侍従長の言葉に、殿下は椅子の背もたれに深く沈み込みました。
一方その頃、マリアンヌ様は頬を膨らませて不満を漏らします。
「アルフォンス様ぁ、そんなことより私の新しい宝石は? リディア様がいなくなったんだから、彼女が持っていた宝石を全部私にくれるって約束したじゃないですかぁ」
「マリアンヌ、今はそれどころでは……」
「ひどい! リディア様がいなくなれば、私はもっと幸せになれるって言ったのに! お腹は空くし、部屋は寒いし、これじゃリディア様がいた時の方がマシじゃない!」
マリアンヌ様のわがままな叫びは、虚しく広間を抜けていきました。
さらにそこへ、今度は宰相が書類の山を抱えて、鬼のような形相で飛び込んできました。
「殿下! お遊びはここまでです! リディア嬢が処理していた未決済の書類、三千通を今すぐ確認してください!」
「さ、三千通!? それをリディアは一人でやっていたのか?」
「ええ。彼女は『あの方はサインを書くことしか能がないから』と、徹夜ですべての裏取りを済ませて、貴方に判子を押させるだけの状態に整えていたのです。ですが今は、誰にも内容がわかりません!」
「そんな……わたくしは、ただ、真実の愛を貫いただけなのに……」
ガックリと項垂れる殿下。
そんな混乱の極致にある王宮から遠く離れた別邸で、わたくしはアンが淹れてくれた最高級の紅茶を楽しんでおりました。
「……あら。なんだか、王都の方から断末魔のような叫びが聞こえた気がいたしますわね」
「風のいたずらでしょう。それよりリディア様、隣国のサイラス皇帝から、追加の伝書鳥が届いております」
「またですの? 次はなんですの? 『花を贈るから受け取れ』かしら?」
「いいえ。『君が来ないなら、僕が王都を焼き払ってから迎えに行く』だそうです」
わたくしは、静かにカップを置きました。
「……あの方は、本当に『極端』という言葉が似合いますわね」
断罪されてたからって、まさか国際紛争の引き金になるとは思いませんでしたわ。
わたくし、ただ静かにフォアグラを食べながら余生を過ごしたいだけなんですけれど。
「どういうことだ! なぜ朝食のオムレツにトリュフが入っていない! それに、この安っぽい香りの紅茶は何だ!」
食堂のテーブルを叩く殿下の前で、侍従長は青い顔をして震えています。
「も、申し訳ございません……。実は、これまで王宮に高級食材を納入していた商会から、今朝未明に『契約解除』の通告が届きまして」
「契約解除だと? そんな勝手なことが許されると思っているのか!」
「それが、その商会……実はリディア様の個人資産が資本となって運営されておりまして。リディア様が『全事業を王都から撤退させる』と命じられたため、在庫ごとすべて隣国へ運ばれてしまいました」
殿下は口をパクパクさせ、隣で優雅(のつもり)に安物のクッキーを齧っていたマリアンヌ様を見やりました。
「な、何を言っている。リディアがいなくなったくらいで、王宮の食卓が貧しくなるはずがないだろう!」
「殿下……。それだけではございません。騎士団への給与、および王宮内の魔導具の維持費、これらすべてにリディア様からの『寄付金』が充てられておりました。現在、王宮の金庫は空っぽでございます」
「空っぽ!? 国の予算はどうしたのだ!」
「……殿下が先月の夜会で、マリアンヌ様のために特注された『星屑のドレス』。あの支払いで、今年度の予算はすべて使い果たしております」
侍従長の言葉に、殿下は椅子の背もたれに深く沈み込みました。
一方その頃、マリアンヌ様は頬を膨らませて不満を漏らします。
「アルフォンス様ぁ、そんなことより私の新しい宝石は? リディア様がいなくなったんだから、彼女が持っていた宝石を全部私にくれるって約束したじゃないですかぁ」
「マリアンヌ、今はそれどころでは……」
「ひどい! リディア様がいなくなれば、私はもっと幸せになれるって言ったのに! お腹は空くし、部屋は寒いし、これじゃリディア様がいた時の方がマシじゃない!」
マリアンヌ様のわがままな叫びは、虚しく広間を抜けていきました。
さらにそこへ、今度は宰相が書類の山を抱えて、鬼のような形相で飛び込んできました。
「殿下! お遊びはここまでです! リディア嬢が処理していた未決済の書類、三千通を今すぐ確認してください!」
「さ、三千通!? それをリディアは一人でやっていたのか?」
「ええ。彼女は『あの方はサインを書くことしか能がないから』と、徹夜ですべての裏取りを済ませて、貴方に判子を押させるだけの状態に整えていたのです。ですが今は、誰にも内容がわかりません!」
「そんな……わたくしは、ただ、真実の愛を貫いただけなのに……」
ガックリと項垂れる殿下。
そんな混乱の極致にある王宮から遠く離れた別邸で、わたくしはアンが淹れてくれた最高級の紅茶を楽しんでおりました。
「……あら。なんだか、王都の方から断末魔のような叫びが聞こえた気がいたしますわね」
「風のいたずらでしょう。それよりリディア様、隣国のサイラス皇帝から、追加の伝書鳥が届いております」
「またですの? 次はなんですの? 『花を贈るから受け取れ』かしら?」
「いいえ。『君が来ないなら、僕が王都を焼き払ってから迎えに行く』だそうです」
わたくしは、静かにカップを置きました。
「……あの方は、本当に『極端』という言葉が似合いますわね」
断罪されてたからって、まさか国際紛争の引き金になるとは思いませんでしたわ。
わたくし、ただ静かにフォアグラを食べながら余生を過ごしたいだけなんですけれど。
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