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わたくしがテラスで二杯目の紅茶を楽しもうとした、その時でした。
庭園の結界が、凄まじい轟音とともに粉砕されたのです。
「……アン。わたくし、庭の防犯設備にはかなりの私財を投じたはずですけれど?」
「左様でございますね。通常のドラゴンのブレスでも三回は耐える設計のはずですが……」
煙が舞い上がる庭の向こうから、黒いマントを翻して歩いてくる人影がありました。
彫刻のように整った顔立ちに、夜空を溶かし込んだような黒髪。
そして、見る者を射貫くような冷徹な紫の瞳。
隣国・グランヴェル帝国の若き皇帝、サイラス・グランヴェルその人です。
「見つけたぞ、リディア。ようやく、その忌々しい婚約が解消されたようだな」
「……サイラス様。お久しぶりですわね。ですが、初対面の挨拶に『爆破』を選ぶのは、皇帝としていかがなものかしら?」
わたくしが眉をひそめると、彼はスタスタとテラスまで階段を上ってきました。
そして、わたくしの返事も待たずに、目の前の椅子に深く腰を下ろしたのです。
「挨拶など無用だ。お前を迎えに来た。荷物をまとめろ。一分で済ませろ」
「拒否いたしますわ。わたくし、今は『追放』という名の有給休暇を満喫中ですの。誰にも邪魔されたくありませんわ」
「有給? そんなものは我が国で取ればいい。お前専用の離宮を用意した。図書室は王立図書館より広く、茶葉は世界中から最高級品を集めさせてある。フォアグラも一生分確保した」
「……条件は悪くありませんけれど、距離感がバグりすぎていましてよ」
サイラス様は、身を乗り出してわたくしの顔を覗き込んできました。
その距離、わずか数センチ。
香木の落ち着いた香りが鼻をくすぐり、不覚にも少しだけ鼓動が跳ねましたわ。
「リディア。あの無能な王子に尽くすお前を、俺がどんな気持ちで見ていたか分かっているのか? 毎日、あの国を滅ぼして、お前を強引に連れ去る計画を立てていたんだぞ」
「……さらっと恐ろしいことをおっしゃらないで。国際問題になりますわよ」
「問題ない。お前さえいれば、他はどうなっても構わん」
彼はわたくしの手を取り、その指先に恭しく口づけを落としました。
「リディア、俺の妃になれ。お前を断罪した連中には、一生後悔させてやる。お前の商才も、魔力も、その傲慢な微笑みも、すべて俺が買い取ろう」
「……わたくし、売り物ではありませんわよ?」
「なら、奪うまでだ。まずは、この別邸ごと俺の領土にする手続きを済ませておいた」
「はい?」
わたくしは、思わず持っていた扇子を落としそうになりました。
「ここ、この国の領土ですわよね?」
「ああ。だが先ほど、お前の元婚約者が『予算が足りない』と嘆いていたのでな。この周辺の土地を、俺の個人資産で買い叩いてやった。ここはもう、グランヴェル帝国の『飛び地』だ」
「……仕事が早すぎますわよ、陛下」
どうやら、わたくしの元婚約者は、自分の国の一部を売ってまで目先の金を手に入れたようですわ。
しかも、売却先がわたくしを狙っている皇帝陛下だとも知らずに。
「アン、聞こえましたかしら? わたくし、どうやら一歩も動かずに隣国へ移住したことになったようですわ」
「左様でございますね、リディア様。引越し作業の手間が省けて、大変効率的かと存じます」
「……アン、あなたまで毒されてどうしますの」
わたくしは深くため息をつきましたが、サイラス様の瞳はどこまでも真剣でした。
断罪されてたからって、まさか翌日に国籍が変わるとは思いませんでしたわ。
でも、この強引すぎる皇帝陛下と一緒にいるのも、案外退屈はしなさそうですわね。
庭園の結界が、凄まじい轟音とともに粉砕されたのです。
「……アン。わたくし、庭の防犯設備にはかなりの私財を投じたはずですけれど?」
「左様でございますね。通常のドラゴンのブレスでも三回は耐える設計のはずですが……」
煙が舞い上がる庭の向こうから、黒いマントを翻して歩いてくる人影がありました。
彫刻のように整った顔立ちに、夜空を溶かし込んだような黒髪。
そして、見る者を射貫くような冷徹な紫の瞳。
隣国・グランヴェル帝国の若き皇帝、サイラス・グランヴェルその人です。
「見つけたぞ、リディア。ようやく、その忌々しい婚約が解消されたようだな」
「……サイラス様。お久しぶりですわね。ですが、初対面の挨拶に『爆破』を選ぶのは、皇帝としていかがなものかしら?」
わたくしが眉をひそめると、彼はスタスタとテラスまで階段を上ってきました。
そして、わたくしの返事も待たずに、目の前の椅子に深く腰を下ろしたのです。
「挨拶など無用だ。お前を迎えに来た。荷物をまとめろ。一分で済ませろ」
「拒否いたしますわ。わたくし、今は『追放』という名の有給休暇を満喫中ですの。誰にも邪魔されたくありませんわ」
「有給? そんなものは我が国で取ればいい。お前専用の離宮を用意した。図書室は王立図書館より広く、茶葉は世界中から最高級品を集めさせてある。フォアグラも一生分確保した」
「……条件は悪くありませんけれど、距離感がバグりすぎていましてよ」
サイラス様は、身を乗り出してわたくしの顔を覗き込んできました。
その距離、わずか数センチ。
香木の落ち着いた香りが鼻をくすぐり、不覚にも少しだけ鼓動が跳ねましたわ。
「リディア。あの無能な王子に尽くすお前を、俺がどんな気持ちで見ていたか分かっているのか? 毎日、あの国を滅ぼして、お前を強引に連れ去る計画を立てていたんだぞ」
「……さらっと恐ろしいことをおっしゃらないで。国際問題になりますわよ」
「問題ない。お前さえいれば、他はどうなっても構わん」
彼はわたくしの手を取り、その指先に恭しく口づけを落としました。
「リディア、俺の妃になれ。お前を断罪した連中には、一生後悔させてやる。お前の商才も、魔力も、その傲慢な微笑みも、すべて俺が買い取ろう」
「……わたくし、売り物ではありませんわよ?」
「なら、奪うまでだ。まずは、この別邸ごと俺の領土にする手続きを済ませておいた」
「はい?」
わたくしは、思わず持っていた扇子を落としそうになりました。
「ここ、この国の領土ですわよね?」
「ああ。だが先ほど、お前の元婚約者が『予算が足りない』と嘆いていたのでな。この周辺の土地を、俺の個人資産で買い叩いてやった。ここはもう、グランヴェル帝国の『飛び地』だ」
「……仕事が早すぎますわよ、陛下」
どうやら、わたくしの元婚約者は、自分の国の一部を売ってまで目先の金を手に入れたようですわ。
しかも、売却先がわたくしを狙っている皇帝陛下だとも知らずに。
「アン、聞こえましたかしら? わたくし、どうやら一歩も動かずに隣国へ移住したことになったようですわ」
「左様でございますね、リディア様。引越し作業の手間が省けて、大変効率的かと存じます」
「……アン、あなたまで毒されてどうしますの」
わたくしは深くため息をつきましたが、サイラス様の瞳はどこまでも真剣でした。
断罪されてたからって、まさか翌日に国籍が変わるとは思いませんでしたわ。
でも、この強引すぎる皇帝陛下と一緒にいるのも、案外退屈はしなさそうですわね。
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