断罪されてたからってなんなんですの?

きららののん

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「……アルフォンス様、これ、なんですの?」


マリアンヌ様が震える指先で指し示したのは、皿の上に寂しく横たわる「茹でただけの芋」でした。


かつては色とりどりのオードブルや、芳醇なソースがかかった肉料理が並んでいた王宮の食卓。


しかし今、そこにあるのは、どこからかかき集めてきたであろう、泥のついた根菜類ばかりです。


「……マリアンヌ、我慢してくれ。今、王宮の厨房スタッフが次々と辞めていて、まともに料理を作れる者がいないんだ」


「嫌よ! わたくし、こんなものを食べるためにリディア様を追い出したわけじゃありませんわ! もっとキラキラした、宝石のようなお菓子や、ドレスが欲しかったのに!」


マリアンヌ様は、なりふり構わず地団駄を踏みました。


彼女が着ているドレスも、数日間洗濯されていないのか、心なしか薄汚れて見えます。


「君は『真実の愛』があれば、何もいらないと言ったじゃないか!」


「それは、贅沢ができることが前提のお話に決まっておりますわ! 愛だけでお腹が膨れるなら、今すぐわたくしの胃袋を愛で満たしてみてくださいな!」


「無茶を言うな! 愛はカロリーではないんだぞ!」


かつての甘い雰囲気はどこへやら、二人の間には殺伐とした空気が流れていました。


そこへ、さらに追い打ちをかけるように、衛兵が転がり込んできました。


「で、殿下! 大変です! リディア様の別邸の方角から、信じられないほど良い香りが漂ってきており、騎士たちが『もう限界だ、あちらに亡命させてくれ』と暴動を起こし始めています!」


「なんだと!? あいつら、忠誠心はどうした!」


「忠誠心では腹は膨れない、と申しております!」


アルフォンス殿下は、ギリりと奥歯を噛み締めました。


一方、その「良い香り」の源であるリディアの別邸。


テラスでは、厚切りにされた極上のフォアグラがジューシーな音を立てて焼き上げられていました。


「……ふふ。やはり、炭火で焼くフォアグラは格別ですわね」


わたくしは、トリュフがふんだんに練り込まれたソースをたっぷり絡め、それを口に運びました。


とろけるような脂の甘みが、口いっぱいに広がります。


「リディア。そんなに美味そうに食べるなら、俺が一生分焼いてやろうか?」


隣で慣れた手つきで肉を切り分けているのは、サイラス様です。


皇帝自らわたくしのためにナイフを振るう姿は、絵画のように美しいのですが……。


「サイラス様。皇帝陛下を調理担当にするのは、さすがにわたくしの平穏が脅かされますわ」


「お前が喜ぶなら、帝国の法を書き換えて『皇帝の第一職務はリディアの食事管理』にしてもいい」


「……憲法を私物化しないでくださいまし」


わたくしが呆れて紅茶を飲んでいると、アンが愉快そうに報告に現れました。


「リディア様。先ほど、王宮の方角から風に乗って『芋は嫌だー!』という絶叫が聞こえてまいりました」


「あら。あの方たち、芋の美味しさを理解できないなんて、贅沢ですわね」


「皮を剥くメイドもいないようですから、おそらく土ごと齧っているのではないかと」


わたくしは、そっと目を閉じました。


断罪されてたからって、食生活まであちらに合わせる義理はありませんもの。


「サイラス様、このフォアグラ、隣の国にもお裾分けしましょうか?」


「いいや、もったいない。……そうだ、城の門の前で、わざと香りが届くように特設キッチンを作らせるか?」


「まあ。サイラス様って、わたくしより性格が悪くていらっしゃいますのね」


わたくしたちは顔を見合わせ、上品に、それでいて最高に意地の悪い微笑みを浮かべました。
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