断罪されてたからってなんなんですの?

きららののん

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「……もう限界だ。わが騎士団は、本日をもって解散する!」


王宮の訓練場に、騎士団長ガルドの悲痛な叫びが響き渡りました。


目の前には、空腹で頬がこけ、錆びついた剣を杖代わりにしている屈強な男たちが並んでいます。


「団長! あちらを見てください! 隣国領となったアストレア別邸の煙突から、信じられないほど香ばしい肉の焼ける匂いが……!」


「ああ、分かっている。風下(かざしも)にいる我らにとって、これはもはや精神的な拷問だ」


騎士たちは、恨めしそうに王宮の貧相な厨房を見やりました。


昨晩の食事は、薄い塩味のスープに浮いた、一切れの乾燥したパンのみ。


一方、塀の向こう側からは、連日のように「高級ワインの栓を抜く音」や「楽しげな笑い声」が聞こえてくるのです。


「諸君、聞け! 我々の忠誠心は、この国と王家にある! ……だが、胃袋の忠誠心は、すでにリディア様に奪われた!」


「「「おおお……っ!!」」」


「これより我々は、アストレア別邸へ向かう! これは侵略ではない、再就職活動だ!」


騎士団総勢五十名。彼らは統制の取れた動きで、一斉に王宮の門を飛び出しました。


「待て! 貴様ら、どこへ行くつもりだ!」


そこに立ちはだかったのは、寝癖だらけの頭を抱えたアルフォンス殿下でした。


「殿下、お退きください。我々は今から、ホワイトな職場環境を求めて旅立ちます」


「馬鹿なことを言うな! 騎士が主君を捨てて、あんな悪女のもとへ行くというのか!」


「殿下……。リディア様は、我々の給与を私財で三倍にしてくださり、防具の修繕費もすべて肩代わりしてくださっていました。あの方が悪女なら、この世に聖女など存在しません」


ガルド団長は、殿下を哀れみの目で見つめると、彼を軽々と避けて行進を再開しました。


さて、一方のわたくし。


別邸のテラスで、サイラス様に「あーん」をされそうになり、必死に回避していたところでした。


「リディア、なぜ避ける。この肉は、俺が自ら火加減を調整した最高傑作だぞ」


「……陛下、ご自身の手でお食べくださいませ。わたくし、五体満足ですので自力で摂取可能ですわ」


「お前の口が動くのを見ているのが、俺の至福なのだ。ほら、開けろ」


「嫌ですわ。……あら、何か来ましたわね」


わたくしが視線を向けると、庭の入り口に、武装を解いた騎士たちが整列していました。


彼らは一斉に膝をつき、地響きのような声で叫びました。


「リディア様! 我ら王宮騎士団、本日をもって殿下との契約を破棄いたしました! どうか、こちらで雇っていただけないでしょうか!」


わたくしは、手に持っていたフォークをそっと置きました。


「……アン、聞こえましたかしら? 騎士団が丸ごと転職を希望しているようですわ」


「左様でございますね。ちょうど、庭の警備を強化したいと思っていたところでした。お給料は、以前の五倍でよろしいでしょうか?」


「ええ、それくらい出さないと、あのボロボロの装備が直せませんものね」


わたくしが頷くと、騎士たちは「聖女様万歳!」と涙を流して喜びました。


しかし、隣に座るサイラス様の不機嫌さは最高潮に達しています。


「リディア。こいつら、全員処刑していいか? 俺とお前の静かな時間を邪魔した罪は重い」


「陛下、物騒な冗談はやめてくださいまし。彼らは有能な労働力ですわよ。……あ、ガルド団長。そこの看板より先は帝国領ですので、入る前にしっかり泥を落としてくださいな」


「はっ! 喜んで洗車ならぬ洗身してまいります!」


こうして、王宮からはついに「武力」すら消失したのでした。


断罪されてたからって、まさか国軍をそのまま引き抜くことになるとは思いませんでしたわ。


「さて、サイラス様。お肉、冷めてしまいましたわね。焼き直しをお願いしてもよろしい?」


「……ふん。お前の願いなら、何度でも焼いてやる」


わたくしの隠居生活は、さらに賑やかになりそうですわ。
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