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「……アン。わたくし、先ほどから庭の向こう側に『金ピカの馬車』が五十台ほど連なっているのが見えるのですけれど、あれは幻覚かしら?」
わたくし、リディアは、三杯目の紅茶を口に運ぶ手を止めました。
別邸の門を潜り、庭を埋め尽くしているのは、どこからどう見ても高級馬車の行列です。
「いえ、リディア様。あれは幻覚ではなく『帝国の宝石商ギルド』の皆様でございます。サイラス陛下が、昨晩の寝言でリディア様が『宝石箱が少し寂しいわ』とおっしゃったのを聞き逃さなかったようで……」
「……寝言? わたくし、昨夜はフォアグラの夢を見ていたはずですけれど」
わたくしが困惑していると、背後から音もなく現れた強靭な腕が、わたくしの肩を抱き寄せました。
「リディア。起きたか。宝石商どもを並ばせておいた。好きなだけ選べ。気に入ったものがなければ、ギルドごと買い取って地下に埋めておけ」
「サイラス様! 近いですわ! それに、ギルドを埋めるなんて不穏なことをおっしゃらないで!」
サイラス様は、わたくしの耳元で低く笑いながら、さらに密着してきました。
この方、皇帝としての威厳はどこへ行ったのでしょう。
距離感が、完全にバグっておりますわ。
「あの王子に、お前の宝石が奪われたと聞いた。俺はそれが許せん。お前には、あの国の国庫が一生かかっても買えないような輝きが相応しい」
「殿下に奪われたわけではありませんわ。置いてきたのは、あちらが用意した『安物』だけですもの。わたくしの私物は、すべてアンがこの屋敷に運んでおります」
「それでも足りん。……おい、入れ!」
サイラス様が指を鳴らすと、庭に控えていた宝石商たちが、競い合うようにしてテラスに駆け込んできました。
「リディア様! こちらは帝国の秘宝、ドラゴンの涙を加工した首飾りでございます!」
「いえいえ! こちらの、身につけるだけで魔力が回復する古代の指輪こそ!」
次々と広げられるベルベットのケース。
その輝きに、わたくしの視界はチカチカと火花が散るようです。
「……サイラス様。わたくし、首は一つしかありませんし、指も十本しかございませんのよ?」
「何を言っている。お前なら、毎日三回着替えても、千年は楽しめる量を用意したつもりだ。気に入ったものはすべてお前のものだ」
サイラス様は、その中から一際大きな、深紅のルビーがついたネックレスを手に取りました。
そして、わたくしの髪をそっとかき上げ、首筋に冷たい感触を滑らせます。
「……っ。陛下、ご自分でなさるのですか?」
「当たり前だ。他の男にお前の肌を触れさせるわけがないだろう」
彼の指先が、首筋をかすめるたびに、心臓が跳ね上がるのを感じます。
断罪された夜の、あの冷え切った空気とは大違いですわ。
「どうだ、リディア。鏡を見てみろ」
鏡に映ったわたくしは、確かに、王宮にいた頃よりもずっと華やかに見えました。
でもそれは、宝石のせいだけではないような気がして。
「……綺麗ですわね。でも、これだけの量、どこに仕舞えばよろしいの?」
「安心しろ。お前のために、この別邸の地下に『超次元収納金庫』を増設しておいた」
「……勝手に増改築しないでいただけますかしら?」
わたくしは深くため息をつきましたが、サイラス様の瞳はどこまでも満足げでした。
断罪されてたからって、まさか毎日が「宝探し」のような生活になるとは思いませんでしたわ。
「リディア。次は、帝国中のドレス職人を呼んである。お前のために、一万着ほど用意させよう」
「……陛下。わたくしの『有給休暇』は、着替えだけで終わってしまいそうですわ」
わたくしの抗議は、彼の甘い口づけによって、あっさりと遮られてしまうのでした。
わたくし、リディアは、三杯目の紅茶を口に運ぶ手を止めました。
別邸の門を潜り、庭を埋め尽くしているのは、どこからどう見ても高級馬車の行列です。
「いえ、リディア様。あれは幻覚ではなく『帝国の宝石商ギルド』の皆様でございます。サイラス陛下が、昨晩の寝言でリディア様が『宝石箱が少し寂しいわ』とおっしゃったのを聞き逃さなかったようで……」
「……寝言? わたくし、昨夜はフォアグラの夢を見ていたはずですけれど」
わたくしが困惑していると、背後から音もなく現れた強靭な腕が、わたくしの肩を抱き寄せました。
「リディア。起きたか。宝石商どもを並ばせておいた。好きなだけ選べ。気に入ったものがなければ、ギルドごと買い取って地下に埋めておけ」
「サイラス様! 近いですわ! それに、ギルドを埋めるなんて不穏なことをおっしゃらないで!」
サイラス様は、わたくしの耳元で低く笑いながら、さらに密着してきました。
この方、皇帝としての威厳はどこへ行ったのでしょう。
距離感が、完全にバグっておりますわ。
「あの王子に、お前の宝石が奪われたと聞いた。俺はそれが許せん。お前には、あの国の国庫が一生かかっても買えないような輝きが相応しい」
「殿下に奪われたわけではありませんわ。置いてきたのは、あちらが用意した『安物』だけですもの。わたくしの私物は、すべてアンがこの屋敷に運んでおります」
「それでも足りん。……おい、入れ!」
サイラス様が指を鳴らすと、庭に控えていた宝石商たちが、競い合うようにしてテラスに駆け込んできました。
「リディア様! こちらは帝国の秘宝、ドラゴンの涙を加工した首飾りでございます!」
「いえいえ! こちらの、身につけるだけで魔力が回復する古代の指輪こそ!」
次々と広げられるベルベットのケース。
その輝きに、わたくしの視界はチカチカと火花が散るようです。
「……サイラス様。わたくし、首は一つしかありませんし、指も十本しかございませんのよ?」
「何を言っている。お前なら、毎日三回着替えても、千年は楽しめる量を用意したつもりだ。気に入ったものはすべてお前のものだ」
サイラス様は、その中から一際大きな、深紅のルビーがついたネックレスを手に取りました。
そして、わたくしの髪をそっとかき上げ、首筋に冷たい感触を滑らせます。
「……っ。陛下、ご自分でなさるのですか?」
「当たり前だ。他の男にお前の肌を触れさせるわけがないだろう」
彼の指先が、首筋をかすめるたびに、心臓が跳ね上がるのを感じます。
断罪された夜の、あの冷え切った空気とは大違いですわ。
「どうだ、リディア。鏡を見てみろ」
鏡に映ったわたくしは、確かに、王宮にいた頃よりもずっと華やかに見えました。
でもそれは、宝石のせいだけではないような気がして。
「……綺麗ですわね。でも、これだけの量、どこに仕舞えばよろしいの?」
「安心しろ。お前のために、この別邸の地下に『超次元収納金庫』を増設しておいた」
「……勝手に増改築しないでいただけますかしら?」
わたくしは深くため息をつきましたが、サイラス様の瞳はどこまでも満足げでした。
断罪されてたからって、まさか毎日が「宝探し」のような生活になるとは思いませんでしたわ。
「リディア。次は、帝国中のドレス職人を呼んである。お前のために、一万着ほど用意させよう」
「……陛下。わたくしの『有給休暇』は、着替えだけで終わってしまいそうですわ」
わたくしの抗議は、彼の甘い口づけによって、あっさりと遮られてしまうのでした。
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