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「……アン。わたくしの目が疲れているのかしら。国境を越えた途端、地面がすべて『赤い絨毯』に見えるのですけれど」
わたくし、リディアは、帝国の豪華な馬車の窓から外を眺めて呆然といたしました。
馬車が走る街道には、文字通り端から端まで、ふかふかのレッドカーペットが敷き詰められています。
「リディア様、ご安心ください。幻覚ではございません。サイラス陛下が『我が国へ迎える至宝の足を、一歩たりとも泥に触れさせるな』と、騎士団一個小隊を動員して昨晩のうちに敷かせたそうですわ」
「……一個小隊の無駄遣いにも程がありますわよ、陛下」
わたくしが隣に座るサイラス様をジロリと睨むと、彼は当然のような顔をしてわたくしの手を握り込みました。
「不満か? なら次は、お前が通る道をすべて金塊で埋め尽くさせよう。それとも、花びらの方が好みか?」
「いいえ、普通のアスファルトや石畳が一番歩きやすいですわ。陛下、わたくしは『経済顧問』としてお招きいただいたはず。無駄遣いを正すのがわたくしの仕事ではありませんの?」
「お前を喜ばせるための出費は、わたくしの『必要経費』だ。国家予算とは別枠の、俺の個人資産から出している。文句はないだろう」
「……私産の使い道が極端すぎますわ」
馬車が帝都の巨大な門を潜ると、そこには以前の王国とは比べ物にならないほど、活気に満ちた街並みが広がっていました。
立ち並ぶ商店、行き交う魔導馬車、そして何より、行き交う人々が皆、健康的な笑顔を浮かべています。
「素晴らしいですわね。以前の国とは大違いですわ」
「当然だ。お前が密かに流通を調整していたおかげで、この国の物流は滞りなく回っていたからな。……さて、着いたぞ。ここがお前の職場だ」
馬車が止まったのは、帝宮の最上階にある、一際目立つテラス付きの執務室でした。
中に入ると、そこには大きな机と、座り心地の良さそうな革張りの椅子。
そしてなぜか、そのすぐ隣に「サイラス様の執務デスク」がピッタリと密着して置かれていました。
「……陛下。わたくしの机と陛下の机、隙間が五ミリほどしかございませんけれど?」
「ああ。お前が仕事で困った時に、すぐに俺が抱きしめられるように配置させた」
「困りませんわ。というか、そんな至近距離で仕事ができるはずがありませんでしょう」
「俺はできる。お前の横顔を見ながらなら、山積みの書類も一分で片付く自信があるぞ」
サイラス様はそう言うと、わたくしを椅子に座らせ、背後から包み込むように机に手をつきました。
「リディア。今日からお前は帝国の経済の要だ。好きなように動かせ。足りないものがあれば、国を一つ二つ滅ぼしてでも調達してやろう」
「……まずは、陛下のその『物理的な距離感』を調達していただきたいですわ」
わたくしが冷たくあしらうと、サイラス様は嬉しそうにわたくしの首筋に顔を埋めてきました。
断罪されてたからって、まさか転職先が「皇帝の膝の上」のような環境になるとは。
わたくしの「平穏な有給休暇」は、帝国の繁栄とともに、さらに遠のいていく予感がいたしますわ。
わたくし、リディアは、帝国の豪華な馬車の窓から外を眺めて呆然といたしました。
馬車が走る街道には、文字通り端から端まで、ふかふかのレッドカーペットが敷き詰められています。
「リディア様、ご安心ください。幻覚ではございません。サイラス陛下が『我が国へ迎える至宝の足を、一歩たりとも泥に触れさせるな』と、騎士団一個小隊を動員して昨晩のうちに敷かせたそうですわ」
「……一個小隊の無駄遣いにも程がありますわよ、陛下」
わたくしが隣に座るサイラス様をジロリと睨むと、彼は当然のような顔をしてわたくしの手を握り込みました。
「不満か? なら次は、お前が通る道をすべて金塊で埋め尽くさせよう。それとも、花びらの方が好みか?」
「いいえ、普通のアスファルトや石畳が一番歩きやすいですわ。陛下、わたくしは『経済顧問』としてお招きいただいたはず。無駄遣いを正すのがわたくしの仕事ではありませんの?」
「お前を喜ばせるための出費は、わたくしの『必要経費』だ。国家予算とは別枠の、俺の個人資産から出している。文句はないだろう」
「……私産の使い道が極端すぎますわ」
馬車が帝都の巨大な門を潜ると、そこには以前の王国とは比べ物にならないほど、活気に満ちた街並みが広がっていました。
立ち並ぶ商店、行き交う魔導馬車、そして何より、行き交う人々が皆、健康的な笑顔を浮かべています。
「素晴らしいですわね。以前の国とは大違いですわ」
「当然だ。お前が密かに流通を調整していたおかげで、この国の物流は滞りなく回っていたからな。……さて、着いたぞ。ここがお前の職場だ」
馬車が止まったのは、帝宮の最上階にある、一際目立つテラス付きの執務室でした。
中に入ると、そこには大きな机と、座り心地の良さそうな革張りの椅子。
そしてなぜか、そのすぐ隣に「サイラス様の執務デスク」がピッタリと密着して置かれていました。
「……陛下。わたくしの机と陛下の机、隙間が五ミリほどしかございませんけれど?」
「ああ。お前が仕事で困った時に、すぐに俺が抱きしめられるように配置させた」
「困りませんわ。というか、そんな至近距離で仕事ができるはずがありませんでしょう」
「俺はできる。お前の横顔を見ながらなら、山積みの書類も一分で片付く自信があるぞ」
サイラス様はそう言うと、わたくしを椅子に座らせ、背後から包み込むように机に手をつきました。
「リディア。今日からお前は帝国の経済の要だ。好きなように動かせ。足りないものがあれば、国を一つ二つ滅ぼしてでも調達してやろう」
「……まずは、陛下のその『物理的な距離感』を調達していただきたいですわ」
わたくしが冷たくあしらうと、サイラス様は嬉しそうにわたくしの首筋に顔を埋めてきました。
断罪されてたからって、まさか転職先が「皇帝の膝の上」のような環境になるとは。
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