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「……アン。わたくし、先ほどから街の方々が手に持っている『ピンク色の布』が気になって仕方がありませんの。あれ、何かしら?」
帝都のメインストリートを、サイラス様と共に視察していた際のことです。
わたくしが馬車の窓から外を指差すと、沿道の市民たちが一斉にその「布」を振りかざし、地響きのような歓声を上げました。
『聖女リディア様万歳!』
『帝国の景気を爆上げしてくれた女神様だー!』
「リディア様。あれは、皆様が自発的に作成した『リディア様応援タオル』でございます。ちなみに、あちらの露店で売られている『リディア様パン』は、現在三時間待ちの大行列だそうですよ」
「……は?」
わたくしは耳を疑いました。
パン? 応援タオル? わたくし、ただの経済顧問ですわよ?
「リディア、お前は分かっていないな。お前が就任してからわずか一ヶ月で、この国の物価は安定し、失業率はゼロになった。民衆からすれば、お前は空から降ってきた本物の女神なんだ」
サイラス様が誇らしげに胸を張り、わたくしの肩を抱き寄せました。
「……陛下、街中で密着しないでくださいまし。それに、女神だなんて大層な。わたくしはただ、不透明な利権を潰して、適正な競争を促しただけですわ」
「その『だけ』が、歴史上のどの天才にもできなかったことだ。……おい、御者! もっとゆっくり走れ! 民衆にリディアの美顔を拝ませてやるんだ!」
「やめてくださいまし! わたくしは珍獣ではありませんわよ!」
わたくしの抗議も虚しく、馬車がゆっくり進むたびに、街中が祭りのような騒ぎになっていきます。
帝国の国民は、王国の人々に比べて非常に情熱的でした。
「見てください、リディア様! あちらの広場には、リディア様の等身大の銅像を建てる計画まで浮上しているとか」
「アン、それを今すぐ全力で阻止してちょうだい。恥ずかしさでわたくしの魔力が暴走してしまいますわ」
わたくしが頭を抱えていると、不意に馬車の外から一人の少年が駆け寄ってきました。
「リディア様! これ、お礼です! 父ちゃんのお仕事が見つかったんだ!」
差し出されたのは、少し形は崩れているけれど、瑞々しく輝く真っ赤なリンゴでした。
わたくしは、そっと窓から身を乗り出して、そのリンゴを受け取りました。
「……ありがとう。大切にいただきますわね」
わたくしが微笑むと、街中の歓声はさらに一段階大きくなり、中には感極まって泣き出すおじさんまで現れる始末です。
「……ふん。リディア、そのリンゴ、俺が半分もらってやろう。毒見だ」
「陛下、子供からのプレゼントに嫉妬するのはおやめください。……それにしても、やりがいだけはありますわね」
わたくしは、手の中のリンゴを愛おしそうに見つめました。
断罪されてたからって、まさか他国の国民からこれほど愛されることになるとは。
わたくしを「悪女」と呼んで追い出したあの方たちは、今頃どうしていらっしゃるかしら?
「アン。そういえば、王国の様子はどうなっておりますの?」
「はい。先日、王宮の国旗が『予算不足で染料が買えない』という理由で、ただの白いシーツに差し替えられたそうですわ。事実上の降伏宣言にしか見えませんけれど」
「……まあ。あの方たち、ついに洗濯物すら国旗にしてしまいましたのね」
わたくしは、サイラス様の隣で優雅にリンゴを齧りながら、滅びゆく故郷の末路を想って、少しだけ愉快な気持ちになりました。
帝都のメインストリートを、サイラス様と共に視察していた際のことです。
わたくしが馬車の窓から外を指差すと、沿道の市民たちが一斉にその「布」を振りかざし、地響きのような歓声を上げました。
『聖女リディア様万歳!』
『帝国の景気を爆上げしてくれた女神様だー!』
「リディア様。あれは、皆様が自発的に作成した『リディア様応援タオル』でございます。ちなみに、あちらの露店で売られている『リディア様パン』は、現在三時間待ちの大行列だそうですよ」
「……は?」
わたくしは耳を疑いました。
パン? 応援タオル? わたくし、ただの経済顧問ですわよ?
「リディア、お前は分かっていないな。お前が就任してからわずか一ヶ月で、この国の物価は安定し、失業率はゼロになった。民衆からすれば、お前は空から降ってきた本物の女神なんだ」
サイラス様が誇らしげに胸を張り、わたくしの肩を抱き寄せました。
「……陛下、街中で密着しないでくださいまし。それに、女神だなんて大層な。わたくしはただ、不透明な利権を潰して、適正な競争を促しただけですわ」
「その『だけ』が、歴史上のどの天才にもできなかったことだ。……おい、御者! もっとゆっくり走れ! 民衆にリディアの美顔を拝ませてやるんだ!」
「やめてくださいまし! わたくしは珍獣ではありませんわよ!」
わたくしの抗議も虚しく、馬車がゆっくり進むたびに、街中が祭りのような騒ぎになっていきます。
帝国の国民は、王国の人々に比べて非常に情熱的でした。
「見てください、リディア様! あちらの広場には、リディア様の等身大の銅像を建てる計画まで浮上しているとか」
「アン、それを今すぐ全力で阻止してちょうだい。恥ずかしさでわたくしの魔力が暴走してしまいますわ」
わたくしが頭を抱えていると、不意に馬車の外から一人の少年が駆け寄ってきました。
「リディア様! これ、お礼です! 父ちゃんのお仕事が見つかったんだ!」
差し出されたのは、少し形は崩れているけれど、瑞々しく輝く真っ赤なリンゴでした。
わたくしは、そっと窓から身を乗り出して、そのリンゴを受け取りました。
「……ありがとう。大切にいただきますわね」
わたくしが微笑むと、街中の歓声はさらに一段階大きくなり、中には感極まって泣き出すおじさんまで現れる始末です。
「……ふん。リディア、そのリンゴ、俺が半分もらってやろう。毒見だ」
「陛下、子供からのプレゼントに嫉妬するのはおやめください。……それにしても、やりがいだけはありますわね」
わたくしは、手の中のリンゴを愛おしそうに見つめました。
断罪されてたからって、まさか他国の国民からこれほど愛されることになるとは。
わたくしを「悪女」と呼んで追い出したあの方たちは、今頃どうしていらっしゃるかしら?
「アン。そういえば、王国の様子はどうなっておりますの?」
「はい。先日、王宮の国旗が『予算不足で染料が買えない』という理由で、ただの白いシーツに差し替えられたそうですわ。事実上の降伏宣言にしか見えませんけれど」
「……まあ。あの方たち、ついに洗濯物すら国旗にしてしまいましたのね」
わたくしは、サイラス様の隣で優雅にリンゴを齧りながら、滅びゆく故郷の末路を想って、少しだけ愉快な気持ちになりました。
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