断罪されてたからってなんなんですの?

きららののん

文字の大きさ
16 / 30

16

「……アン。わたくし、先ほどから街の方々が手に持っている『ピンク色の布』が気になって仕方がありませんの。あれ、何かしら?」


帝都のメインストリートを、サイラス様と共に視察していた際のことです。


わたくしが馬車の窓から外を指差すと、沿道の市民たちが一斉にその「布」を振りかざし、地響きのような歓声を上げました。


『聖女リディア様万歳!』
『帝国の景気を爆上げしてくれた女神様だー!』


「リディア様。あれは、皆様が自発的に作成した『リディア様応援タオル』でございます。ちなみに、あちらの露店で売られている『リディア様パン』は、現在三時間待ちの大行列だそうですよ」


「……は?」


わたくしは耳を疑いました。


パン? 応援タオル? わたくし、ただの経済顧問ですわよ?


「リディア、お前は分かっていないな。お前が就任してからわずか一ヶ月で、この国の物価は安定し、失業率はゼロになった。民衆からすれば、お前は空から降ってきた本物の女神なんだ」


サイラス様が誇らしげに胸を張り、わたくしの肩を抱き寄せました。


「……陛下、街中で密着しないでくださいまし。それに、女神だなんて大層な。わたくしはただ、不透明な利権を潰して、適正な競争を促しただけですわ」


「その『だけ』が、歴史上のどの天才にもできなかったことだ。……おい、御者! もっとゆっくり走れ! 民衆にリディアの美顔を拝ませてやるんだ!」


「やめてくださいまし! わたくしは珍獣ではありませんわよ!」


わたくしの抗議も虚しく、馬車がゆっくり進むたびに、街中が祭りのような騒ぎになっていきます。


帝国の国民は、王国の人々に比べて非常に情熱的でした。


「見てください、リディア様! あちらの広場には、リディア様の等身大の銅像を建てる計画まで浮上しているとか」


「アン、それを今すぐ全力で阻止してちょうだい。恥ずかしさでわたくしの魔力が暴走してしまいますわ」


わたくしが頭を抱えていると、不意に馬車の外から一人の少年が駆け寄ってきました。


「リディア様! これ、お礼です! 父ちゃんのお仕事が見つかったんだ!」


差し出されたのは、少し形は崩れているけれど、瑞々しく輝く真っ赤なリンゴでした。


わたくしは、そっと窓から身を乗り出して、そのリンゴを受け取りました。


「……ありがとう。大切にいただきますわね」


わたくしが微笑むと、街中の歓声はさらに一段階大きくなり、中には感極まって泣き出すおじさんまで現れる始末です。


「……ふん。リディア、そのリンゴ、俺が半分もらってやろう。毒見だ」


「陛下、子供からのプレゼントに嫉妬するのはおやめください。……それにしても、やりがいだけはありますわね」


わたくしは、手の中のリンゴを愛おしそうに見つめました。


断罪されてたからって、まさか他国の国民からこれほど愛されることになるとは。


わたくしを「悪女」と呼んで追い出したあの方たちは、今頃どうしていらっしゃるかしら?


「アン。そういえば、王国の様子はどうなっておりますの?」


「はい。先日、王宮の国旗が『予算不足で染料が買えない』という理由で、ただの白いシーツに差し替えられたそうですわ。事実上の降伏宣言にしか見えませんけれど」


「……まあ。あの方たち、ついに洗濯物すら国旗にしてしまいましたのね」


わたくしは、サイラス様の隣で優雅にリンゴを齧りながら、滅びゆく故郷の末路を想って、少しだけ愉快な気持ちになりました。
感想 0

あなたにおすすめの小説

お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ
恋愛
 ――なぜならわたしが奪うから。  正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――

年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。 そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。 そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。 彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。 ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。 それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

婚約者を寝取った妹に……

tartan321
恋愛
タイトル通りです。復讐劇です。明日完結します。