断罪されてたからってなんなんですの?

きららののん

文字の大きさ
17 / 30

17

「……アン。先に言っておきますけれど、わたくし、今日は不燃ゴミの回収日ではないと記憶しておりますわ」


わたくし、リディアは、事務机の上に置かれた「それ」を指差しました。


銀のトレイに乗せられているのは、もはや封筒と呼ぶのも憚られるほど薄汚れた、シワだらけの紙の塊です。


「左様でございますね、リディア様。ですが、送り主は王国のアルフォンス殿下となっております。どうやら伝書鳥を雇うお金がなかったようで、浮浪者の方に銀貨一枚で託したとか」


「まあ。道理で、この世の終わりを煮詰めたような異臭がするわけですわ」


わたくしは扇子で鼻を覆いながら、ペン先で器用に封を切りました。


中から出てきたのは、これまた涙の跡なのか、それともスープの染みなのか判別不能な汚れがついた手紙です。


『愛するリディアへ。
君がいなくなってから、私は自分の過ちに気づいた。マリアンヌは去った。今、私の隣にいるべきなのは君だ。
君の厳しい叱咤も、今なら愛として受け止められる。特別に、わたくしとの結婚を許してやろう。
あ、それと、至急でいいから三千万ゴールドほど送金してくれ。トイレがまだ直っていないんだ』


「……アン、読み上げてくださいまし。わたくしの目が、現実を拒絶しておりますの」


「承知いたしました。『愛しているから金を出せ。あとトイレを直せ』。要約すると、こう書いてありますわね、リディア様」


「じつに簡潔で分かりやすいクズっぷりですわね」


わたくしが感心していると、背後の扉が乱暴に開け放たれました。


「リディア! そのゴミを今すぐ俺に渡せ! 今すぐだ!」


軍服を翻して突進してきたのは、我らが皇帝サイラス様です。


彼はわたくしの手から手紙をひったくると、内容を一瞥するなり、その場で魔力を爆発させました。


「……っ! あの王子、まだ生きていたのか! お前に金を無心するだと? しかも『結婚を許してやる』だと? よし、決めた。明日、あの国を更地にして駐車場にしてやる」


「陛下、落ち着いてくださいまし。更地にするコストの方が高くつきますわよ」


「なら、この手紙を書いた指を一本ずつ……!」


「それも結構ですわ。……ちょうど、部屋の空気が少し冷えてきたところでしたし」


わたくしは、サイラス様の指から手紙を取り返すと、そのまま執務室にある暖炉へと歩み寄りました。


そして、迷いなく火の中に投入します。


メラメラと燃え上がるアルフォンス殿下の「真実の愛(笑)」。


「見てくださいまし。案外、よく燃えますわよ。あの方、人生で初めて誰かの役に立ったのではありませんかしら?」


「ふん。お前を暖めるための薪になったのなら、その紙切れも本望だろう」


サイラス様は、わたくしを後ろから抱きしめ、燃える炎を満足げに見つめました。


「リディア。お前はもう、あんな男の言葉に一秒たりとも思考を割く必要はない。お前の耳には、俺の愛の言葉だけが響いていればいいんだ」


「……陛下、それはそれで、お耳が少々騒がしくなりそうですわ」


わたくしは微笑みながら、彼の腕に身を預けました。


断罪されてたからって、まさか元婚約者の恋文を「燃料」にする日が来るとは。


人生、再利用の精神は大切ですわね。
感想 0

あなたにおすすめの小説

お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ
恋愛
 ――なぜならわたしが奪うから。  正妻を追い出して伯爵家の後妻になったのがクロエの母である。愛人の娘という立場で生まれてきた自分。伯爵家の他の兄弟たちに疎まれ、毎日泣いていたクロエに手を差し伸べたのが姉のエリーヌである。彼女だけは他の人間と違ってクロエに優しくしてくれる。だからクロエは姉のために必死にいい子になろうと努力した。姉に婚約者ができた時も、心から上手くいくよう願った。けれど彼はクロエのことが好きだと言い出して――

年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。 そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。 そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。 彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。 ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。 それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

婚約者を寝取った妹に……

tartan321
恋愛
タイトル通りです。復讐劇です。明日完結します。